4-2常套手段

 その後は誰もスリップ事故を起こすことなく進み、俺たちは第二のドアの元へたどり着いた。

 さて、どうするか。戻ってきたはいいが、何か名案を思いついて戻ってきたわけじゃない。依然として俺たちは手詰まりなのだ。

「なあ、今更なんだけどよ……。これ、向こうで狭山さんがいる状態で考えて、なんか思いついてから戻ってきた方がよかったんじゃねぇか……?」

 俺のあまりにも核心を突いた発言に香子がジト目で俺を睨む。

「桂介、そういうことはもっと早く気づきなさい」

 俺のせいかよ。……いや、俺のせいだな。一人残そうって言った俺の。

「すまん……」

 俺は誰の目も直視できなかった。

「まあまあ、もう戻るのも面倒だし四人で考えよう」

「そもそも五人いたとき、誰も気づかなかったもんね……」

 銀と歩美の言葉が心に染みる。さっき、心の中で歩美に罰とか言ったのが申し訳なくなってきたが、俺はかすかに気力を取り戻した。

 落ち込んでる場合じゃないよな。俺たちはこの意味不明な文と向き合わなくてはならないんだ。

 まさに、――死活問題なのだから。


「ねぇねぇ、こういう意味不明な文を読むときってさ~、コツっていうか、常套手段っていうか、そういうのいろいろあるよね」

 てっの前でちんもっこうすること十分。静寂を破ったのは歩美だった。

「あぁ、さっき風岡が言っていたように、何かしらの文字を抜くとか、あるいは逆に挿れてみるとかだな」

「でもこの状況じゃ、なんの文字を抜いたり挿れたりするのかわからないのよね。他にヒントのようなものがないから」

 そうだな。さっきはそこで終わってしまった。だが、他にはないか。歩美が言うような、何かコツや常套手段は。

「う~ん、ねぇねぇ。じゃあさ、文字の足し引きじゃなくて、アナグラムになってたりするんじゃないかな?」

 なるほど。確かにそれも王道の解き方だな。歩美からそんないい案が出てくるとは思いもしなかったぞ。

「じゃあ、並べ替えて意味を成すか、試してみましょうか」

 そう言って香子は、自分の手帳のメモ用紙に「ぎりらてほろらてかわかごむ」と書いて、一文字ずつ千切って十三枚のバラ紙にした。それを使い、みんなで並べ替えをしてみた。

「とりあえず、からて、とか、わごむ、とかぶつ切りの単語は見えるよね~」と歩美。

「えぇ、でも、残った文字の、ぎりほろ、では単語が作れないわ」と香子。

「そもそも、からて、と、わごむ、じゃ意味のある文を作れる気がしないんだが……」と俺。

「直観的な単語はバラすことも考えた方が賢明かもしれないな」と銀。

………

……

 そんなこんなで三十分程かけて並べ替えゲームをしてみたが、有力な文字列は出来上がらなかった。こうもできないと、そもそも何通りあるのか気になってくるのが人の性だ。俺は試しに銀に聞いてみた。

「なあ銀、これ何通りあるんだ」

「ん、そうだな。十三文字を並べ替えるから十三の階乗で、『ら』『て』『か』の三文字は二回ずつでてくるから二の階乗かける三で割ると……、まあ暗算じゃ無理なくらい、たくさんあるな」

 おいおい……。

「銀、それを早く言いなさいよ。無謀じゃないの」

 香子がまたジト目になっている。

「すまん」

 銀がぽりぽりと頭をかく。

 なんか無謀な気はしてはいたが、やはりそうか。

 そもそも、「てにをは」を充分に含んでいない文字で日本語の文を作ろうという発想も良くなかったのかもしれないな。

 別の方法が必要なようだな……。

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