3-4選択

 状況は最悪だな……。

 前に進むための謎は解けず、後ろに戻るためのドアは開かない。スマホの電波の届かないここからは外部と連絡を取る手段は皆無だ。さらにここは狭山家の私有地で、誰かが迷い込んで来てくれる可能性もな…………いや、待てよ。宗麟さん、帰りも迎えに来てくれるって言ってなかったか。

「なあ、宗麟さんはこの洞窟の入り口のところまで、迎えに来てくれるんだったよな?」

「あ、そういえば、そうですね」

 俺の言葉を狭山さんは肯定する。俺は光明が見えにわかに歓喜する。

「何時くらいに来てくれるとかって言ってたか?」

「朝の時点では、七時くらいに迎えに来るつもりだけど何かあったら電話してくれ、と言っていました」

 何かあったら電話、か。通じないんだなぁ、これが……。

 しかし、七時には来てくれるのか。これが最後の希望だな。

「そっか~。じゃあここで待ってれば、宗麟さんが心配してきてくれるかもしれないね」

 歩美も希望が見えて元気を取り戻したようだ。こいつは万華鏡のようにコロコロと表情が変わるな。

「だが、まだ三時半を回ったところだ」

「そうね、あと三時間以上あるわ」

 確かにそうだな。銀と香子は冷静に現実を見ている。

「なあ、そのことなんだけど……」

 俺はあることを提案してみようとする。四人がバッとこっちを見る。急に視線を集められると、なんかキンチョーするな。

「ここに一人残して宗麟さんが来るのを待ってもらっておいて、その間に他の四人で洞窟を攻略していくってのはどうだ?」

「なるほど。自力脱出と他力脱出のせっちゅうあんか。名案かもしれないな」

 銀は賛成のようだ。

「う~ん、でも、第二のドアを開けた先が、また洞窟だったらどうするつもりなの?」

 歩美が当然の疑問を呈する。だが、これには考えがある。

「その時はドアの手前側にまた一人を残せば大丈夫だ。作戦としてはこうだ」

 俺は手帳のメモページを開く。

「まず、宗麟さんが来てくれたら第一のドアの前で待っててもらって、ここで待機してたやつが第二のドアで待機してるやつのところへ行く。そこで第二のドアを開けてもらってその先にいるやつを呼びに行く」

 図を描きながら、なんとか説明する。

「なるほどね。以降それを繰り返せば、理論上は第五のドアまではたどり着けるってわけね」

 さっすが、香子は理解が早いな。

「そういうこと。そこから先は諦めて戻ってくることにすればいいさ。まぁ、さすがにそんな数はねぇと思うけどな」

「なんでそんなことが言い切れるのよ」

 香子から鋭く指摘が入る。

「大した読みじゃないんだけどな。この洞窟、結構歩きづらいだろ。まだ二十歳はたち前後の俺たちでも歩くだけで一苦労だ。失礼だけど、狭山宗介氏が老体で歩ける距離はそう長くないだろうって読みだよ」

「なるほど。確かにそうですわね。祖父は特にスポーツをしていたとかは聞きませんし、体力的に秀でていたわけではないでしょうから、的を射ていると思います」

 狭山さんが俺の読み筋をようしてくれたところで、ひとまず疑問は出尽くしたようだ。

「ま、とりあえずこんな作戦で行こうぜ」

 俺はなるべく平静を装って言う。正直言って不安はまだ消えていないが、こんな案を出しておいて自信なさげな様子ではみんなの不安を煽ってしまいかねないからな。

「作戦はそれでいいかもしれないが、まず誰をここに残すつもりだ?」

 うむ。それが問題だ。

 香子や銀をここに残したら明らかに戦力ダウンだ。歩美はムードメーカーとして機能しているし、俺だって第一の謎を解くときには役に立ったつもりだ。しかし、狭山さんを残してしまっては狭山さん自身が最奥到達に立ち会えない。

 一体誰を残すか……。

「あの、私、残ります」

 手を挙げたのは狭山さんだった。しかし……。

「いや、狭山さんがここに残っちゃったら……」

「みなさんに託します。みなさんを信じてますから、頼みましたよ……!」

 狭山さんは俺の言葉を遮るように言った。

 ここまで信頼されてしまったら断れないな。

「わかったよ、麗華ちゃん。あたしたちで最後まで進んで、必ず助けにくるからね……!」

 歩美と狭山さんが手を取り合って別れを惜しむ。

「みなさん、お気をつけて」

 狭山さんに見送られ、俺たちは再び第二のドアへ向かった。

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