山あり山なし
どういう形であれ、学生相談所設立以来初めての相談者だ。相談者はどこに座ってもらうとかいう決まりや前例があるわけでもないし、別に文句もないので
久しぶりに再会した中学時代の同級生の女の子と密室に二人きりで並んで座る。こんな状況でも焼け
「土橋くんは何学科なの?」
「経営学科だぞ?」
「マジか〜。私は経営学科落ちたんだけど、第二志望学科の経済学科で引っかかってくれたから経済学科に入ったんだよね〜」
「ほう」
うーん。確かに学桜館の非理系学部には第二志望学科システムがある。例えば入間のように経済学部を受験する時、経営学科の合格点には達していないけど経済学科の合格点には達している場合には経済学科で選考対象になるというものだ。第一希望の学科じゃないものの学桜館大学に入学すること自体はできるがしかし、それでいいのか。経済学と経営学は名前は似ていても扱うものはかなり違う。両者には
「あ、ごめんね。これはただの世間話。まさか中学の時の同級生が同じ大学にいるなんて奇跡が起こるとは思わなかったから、つい、ね」
「いや、それはいいんだが、相談っていうのは……?」
俺はさっさと本題に入ることにした。あまり世間話は得意じゃないし、思い出話はいつか開かれるかもしれない同窓会のためにとっておきたいしな。
「うん。えっと――」
入間が相談を始めようとしたその時だった。
ガチャッ、ギイィッ。
ノックもなしにドアを開け、香子がトレードマークの黒髪を
「おはよう、桂す――」
途中で香子の言葉が止まった。入間の存在に気づいたようだ。そして――。
そう、このようにして冒頭のシーンに至るというわけだ。これでようやく現実時間に追いついたし、そろそろ戻るとしようか。
………
……
…
さて、そんな回想を終え、俺は床から身を起こした。回想の結果、俺にはやましいことなど何もないということが証明されたわけだが、それでもやはり
俺の記憶が正しければ香子は俺の弁解をようやく聞く気になったようだし、今度こそ浮気男の言い訳みたいにならないようにちゃんと説明してやることにした。
十分後。
そろそろ足が
「へぇ、それじゃああの千春って子はあなたの中学時代の同級生で、どこかから連れ去ってきたケバい中学生じゃないのね」
椅子に座って足を組み、テーブルに頬杖をついた香子が、床に正座する俺を見下ろして言った。
「そうそ……、おいこら、なんて言い草だ」
危うく肯定しそうになってしまった。確かに入間は化粧と
「け、ケバい中学生……」
入間は入間でケバいと言われたことにダメージを負っているようだった。
「あぁ、ケバいって中学生だったらってことよ? 女子大生ならむしろ控えめなナチュラルメイクなんじゃないかしら」
「そ、そうですか……。中学生に見えましたか……」
なるほど、「ケバい」ではなく「中学生」の方に反応していたのか。まあ年不相応に幼さを感じる顔立ちだからな。
「ですが、香子さん、でしたか……。あなたよりオトナな部分もありますからね……!」
そう言ってソファーから立ち上がった入間はやけに頑張って胸を張る。
いや、確かに顔に似合わずなかなか……。埼玉県民にもかかわらず立派な感じだ。ロリ巨乳ってやつだな。
「……へぇ、子供みたいな顔にはちょっと不釣り合いね」
どちらかというとスレンダーな体型の香子は胸元を隠すように腕を組み、悔しさを
「ぐぬぬ……」
ピリピリした空気が流れる。
おいおい……、勘弁してくれ……。
静かに睨み合いを続ける二人に俺は付き合いきれなくなり、痺れた足を伸ばして床に再度転がった。
数秒後。プイッと顔を背けた香子が口を開いた。
「はぁ……、もういいわ」
俺の足の痺れは未だ取れないが、両者の睨み合いは終わったようだ。
歩美がいなくてよかったかもしれない。歩美もどちらかというと香子寄り、いや、香子以上にストンとした体型だから、長引いたかもしれない。ていうか学生相談所の関係者で入間に勝てそうなのって顧問の
「桂介、くだらない妄想は今すぐ終わりにしなさい?」
「し、してねぇよ……」
嘘だ。
「バレバレの嘘はいいから、座りなさい」
なぜバレるのかは不思議でしょうがないが、ここは大人しく香子の言うことに従っておこう。
俺はビリビリと痺れたままの足を引きずり、元いたソファーに這い上がった。
「で、相談っていうのは何なのかしら?」
香子が頬杖をつき直しておざなりに尋ねると、入間はムッとした感じは残しつつもおもむろに相談を始めた。
「……人探しをお願いしたいなと思ったんです」
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