2-5野次馬根性
あの靴屋のビニール袋は――他の靴屋のもそうなのかもしれないが――商品のサイズに対して無駄に大き過ぎる。ロングブーツを買った時なんかはこれでちょうどよくなる可能性もあるだろうが、普通の靴を買った時もこの袋に入れられてしまうので、袋が余りまくって持ち歩きには邪魔でしかない。思い返してみれば、過去何度もあのチェーン店で買って、その度に同じことを思っているが次買う時には忘れている。
これ持って歩き回るの、結構めんどくさいんだよな……。
というわけで、どっか喫茶店でも入れないかと歩き回っていると、さっきまで激混みだったファストフード店が一旦ピークを終えたようで、空席があるのが見えた。これ幸いと店に飛び込んだ。
まだ二時半くらいで昼飯時と言える時間だが、こんなに空くことがあるのかというくらい列は短く、しかもスイスイと進んだ。あっという間に俺の番だ。注文はフライドポテトとバニラシェイク。散々寒いと言っておきながらも暖房の効いた室内でバニラシェイクを飲みたくなるのは、おそらく俺だけではなく全人類に共通する感覚であろう。
さすがファストフード店と言うべきか、注文の品は一分とかからずにトレイに並べられて俺の元へ届いた。俺はそれを受け取ってカウンター席の一つに座った。そして早速あつあつのポテトを二、三本食べ、冷たいバニラシェイクを口に流し込む。しょっぱいと甘い、熱いと冷たいの波状攻撃がやめられない止まらない。俺は昔から食っても太りはしない体質だが、普通の人はこうして太っていくのだろうか。少なくとも体には悪そうだよな。
しかし、俺は思う。
なんで体に悪いのにおいしいと感じるんだ。なんで神は体に悪い食べ方をおいしいと感じないように、ヒトという動物を設計しなかったんだ。これは神の一番の
神のミスを心の中で
『今何してる? どうせ暇よね?』
失礼なやつだ。誰のせいで暇になったと思っているんだ、こいつは。お前が熱を出さなきゃ今頃大忙しだったろうに。
と思ったが、そもそも犯人探しは昨日香子に出会ってしまったから急に入った予定であって、本来今日は完全オフの暇な日だったことを俺は思い出した。だがしかし、俺は嫌味には嫌味で返したくなるタイプだ。というわけで、
『あぁ、暇だよ。誰かさんが熱を出したせいでな』
これでよし。
『人のせいにしないでほしいわね。今日の予定は昨日急に決めたのに他の予定をキャンセルした様子はなかったのだから、元々暇だったんでしょう?』
ぐっ……。
信じられない早さできた返信に図星を突かれてしまった。香子にはバレバレだったようだ。
『まあ、そうとも言えるな。ていうか何の用なんだよ』
『特に用はないわ。ずっと寝ているのも飽きてきたからちょっと連絡してみただけよ』
こいつ、友達いねぇのかよ……。
『ちなみに、今熱を測ってみたら解熱剤が効いてきたみたいで、平熱まで下がってるのよ。明日には復帰できるもしれないわ』
ちょっと熱が下がったからって調子に乗って連絡をよこしてきたのか。子供かよ。
『そうかい、そりゃよかった。もうちょっと大人しくしてろ。熱がぶり返さないようにな』
『わかってるわよ。じゃあまた明日ね』
香子のメッセージに既読をつけ、メッセージアプリを閉じて気づく。
あれ、あいつ今朝三十八度だったのがもう平熱になったのか⁉︎ 薬効きすぎだろ。どんな体してんだ。
香子の体力に驚かされたが、ズゴゴゴッと残ったシェイクを飲み干して席を立った。
次の目的地も決めずに席を立ってしまったが、ここで座り直したら周りの人に変な目で見られてしまう。それじゃ結局居づらくてここに
もう帰るか。
そんな気持ちで歩き出し、サンシャイン通りとの交差点の信号を待っていると、後ろの方の通行人がざわついているのに気づいた。
なんか、騒がしいな。
一日ぶり二度目の感覚だ。
漏れ聞こえてきた情報から、サンシャイン通りのト音記号のモニュメントの方でもめ事が起こっているらしいことがわかった。普段は誰がもめていようが興味は無いのだが、冬だというのに俺の中の野次馬根性が芽吹いたようで、俺はちょっと見物してみることにした。どうせ帰るだけだったしな。
現場に着いてみると、緑のニット帽と上下グレーのだるっとしたスウェットと黒のダウンベストを着た小汚い格好の男と、ブルゾンとダボダボのジーンズを着た耳がピアスだらけの男と、ダッフルコートとカーゴパンツを着た
驚いたことに、ショートボブの美少女には見覚えがあった。経営学科の授業の教室で何度も見かけ、つい一昨日も試験の時に隣の席に座っていた子だった。
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