サプライズ


―――


――日曜日


「ドキドキするなぁ……」

 十時きっかりに篤の家の前に着いた俺は、胸に手を当てながらウロウロしていた。

「ここでタイミングよく篤が出てきたりしないかな……」

 なんて都合のいい事を思っていたら……


「わかったよ。迎えに行けばいいんだろ?」

 と、少し怒ったような声が聞こえて次の瞬間ドアが開いた。


「あ……」

「おっと……」

 ばったり篤と出くわしてお互いビックリして固まる。

「篤……」

「何だよ。来てたんならさっさと中に入ってこいよ。お前が中々来ないから皆が騒ぎ出して、危うく俺が迎えに……ってまぁいいや。早く入ろうぜ。」

「うん。」

 何となく落ち着かない篤の後に続いて家の中に入る。

「お邪魔しまーす。」

 久しぶりに入る篤の家の玄関を懐かしげに見回していたら、突然大きな音が鳴った。


 パーン!パ、パーン!!

「亜希、おめでとう!」

 篤の声に我に返ると、紙吹雪が俺の顔めがけて飛んできた。どうやらさっきの音はクラッカーだったようだ。


「え?え?」

 訳がわからなくてきょろきょろしていると、隣にいた篤が俺の頭の上に乗っかっている紙吹雪の紙を払いながら言った。


「お前…その顔は忘れてるな?」

「何の事?」

「今日は何日だ?」

「え…えっと……」

「亜希、お前の誕生日だよ!…たくっ……忘れてんじゃねぇよ。」

「ごめん……。忘れてた。」

「おいおい、篤。そんなに怒ったら亜希ちゃん可哀想だろ?」

「そうだ、そうだ。せっかくの誕生日なのに。篤ってば相変わらず説教くさいよな~」

 篤の後ろで同じくクラッカーを鳴らしてくれたクラスメイトが助け船を出してくれる。

「わかった、わかった。ほら、早く行こう。」

 篤は渋々といった様子でため息をつくと、俺の背中を押してリビングに入った。


「う…わぁ~!」

 そこは部屋中綺麗に飾りつけられていて、『亜希、おめでとう!』の垂れ幕?みたいなのが下がってる。

 テーブルにはところ狭しとご馳走が並んでいて、美味しそうな匂いが鼻をくすぐった。


「前々から亜希の誕生日パーティーをサプライズでやろうって話してたんだ。」

「え?じゃあこの間こそこそしてたのって……」

「こそこそって……まぁ、そうだけどさ。」

 苦笑する篤を見てホッと胸を撫で下ろす。何だ…隠し事ってこれだったのか。心配して損したかも。


「どうだ?お気に召しましたか?」

「うん!ありがとう、篤!」

 思わず篤の手を握ってその場でジャンプする。子どもっぽいなって自分でも思うけど、嬉しいものは嬉しい。


「あ、いや……気に入ったならいいんだ。」

 少し慌てた様子で手を離されて、ちょっとショックを受けた。


「じゃあ主役は真ん中のお席に。」

「うん!」

 言われるがままに真ん中の席に座った。そして隣には篤が座った。他の面々もそれぞれ好きな場所に腰をおろす。


「では亜希が17歳になった祝いに、かんぱーい!」

「かんぱーい!!」

 篤が乾杯の音頭をとると、皆自分のコップを高々に掲げた。もちろん中身はジュースだけど。


 俺はジュースを飲みながら周りを見回した。この間篤と内緒話をしていた中丸君と鈴木君、楠木君を筆頭に、七人が顔を揃えている。ほとんど篤の友達だけど、もちろん俺も同じクラスだから仲は良い。


 元々俺は小さい頃から人見知りが激しくて、親友と呼べる人は篤だけだし、ほとんどの友達は篤を通して話すようになったという感じだった。


 そしてこれは勘違いや自惚れじゃないと思うんだけど、中学校に入った辺りから男子の視線をよく感じるようになった。理由はわからないけど。


 でも慣れというのは怖いもので、今ではそういう視線を自然にスルーする事ができるようになった。この事はいくら篤にでも言えずにいる。


「ねぇ、篤。本当にありがとうね。」

「何だよ、急に……」

「俺、嬉しい。篤が俺の為に色々考えてくれた事が。今日が誕生日で良かった!」

 にっこり笑って見せる。すると篤は『何だ、そりゃ。』って苦笑した。


「あのさ、亜希。俺、実は……」

「亜希ちゃ~~ん!篤とばっかり話してないで俺らとも遊ぼうよ。ほら、まだ何も食べてないじゃん。」

「俺が取り分けてやろうか?」

 篤を押し退けて中丸君と楠木君が近づいてくる。俺は密かにため息をついた。

 またこの視線……この人達は俺に何を求めているのだろうか。わからない。わからないから対処のしようがないのだ。


「え…っと、自分で取るから大丈夫だよ?」

「そんな事言わずに、ほら。」

 鈴木君が反対側からやってきて、自分の皿に乗せた唐揚げを俺の口元に持ってきた。


「あーん♪」

「えぇ!?」

 流石にそれはちょっと……と思って身を引いた途端、隣から怒鳴り声が響いた。


「お前らいい加減にしろよ!」

「あ、篤……」

「何だよ、めでたい日なんだからいいだろ?たまには俺らにもいい思いさせろよ。」

 いつの間に来たのか、あまり話した事のない和田君が俺の腕を引いて立たせようとする。精一杯抵抗するが、意外にも力が強くて敵わなかった。


「やめろ!亜希に触るな!」

 篤の大声にその場がシーンと静まり返る。俺は篤が大きな声を上げた事よりもその内容にビックリして顔を上げた。


「な、何だよ。ヤキモチか?」

「……違う。」

「亜希ちゃんは皆のアイドルなんだから、抜け駆けは無しだぞ~。あ!まさかお前マジなの?いやいや、いくら亜希ちゃんが可愛くてもおとっ……」

「黙れ!」

「…………」

「そんなんじゃねぇ!俺と亜希はそんなんじゃねぇ!!」

「篤……」

 篤の豹変ぶりに俺だけじゃなく、全員言葉が出ない。


「もう帰れ……」

「何言ってんだよ、亜希ちゃんの誕生日パーティーの途中じゃ……」

「いいから帰れ!」

 篤の剣幕に皆が渋々腰を上げる。俺はハッとして篤と皆を交互に見て言った。


「ちょっ…ちょっと待って!せっかく俺の為に集まってくれたんだからまだ帰らないで?ね?ほら、篤も皆に謝って。」

「……もういいよ、亜希ちゃん。こうなったらこいつは意地でも曲げないよ。」

「今のは俺達が悪かった。明日ちゃんと謝るけど、亜希ちゃんからもフォローしといて。じゃあ、また明日な。」

「う、うん……」

 楠木君と和田君が深刻そうな顔と声で言ってくるから頷くしかなかった。


「気をつけて帰ってね。」

「ありがと。じゃあな。」

 俺は玄関まで見送り、皆に手を振る。ドアが閉まった途端、盛大なため息が出た。


 リビングに戻ると篤は立って窓の方を見つめていた。そこからは和田君達の話し声が聞こえる。


 視線を向けると、今まで見た事のないくらい恐い顔をした篤がいた……



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