第292話 懐かしのキャラが登場する展開はテンプレ
「パパ~まだ~?」
リビングの方から愛娘の声が聞こえる。俺は寝室で一人、慣れないネクタイ結びに苦戦している所だった。どうしてもバランスが取れない。つーかネクタイなんてしなくていいだろ!こんなんしてるの貴族に仕える執事さんくらいだぞ!?なんで俺がしなくちゃいけねぇんだよ!
人間達に代表戦の打診を終えた俺はフェルから少しの間休みをもらった。というか、ただ単にやることがなかっただけだ。魔の森の整地は巨人族と獣人族、それにデュラハン族が力を合わせて取り組んでいたおかげでほとんど終わってたみたいだし、結婚式の準備は俺達にやらせるわけにはいかない、ってことで服の寸法を測るだけで俺の役目は終了。特にやることもなかったからアルカとセリスと三人でメフィスト兼ハックルベルの村を手伝ってたんだよ。
まだ出会って数日しか経っていないというのに、ハックルベルのみんなとメフィスト達の関係性は格段に良くなっていた。まず、第一に女性二人の包容力が半端ない。アンヌさんもエマおばさんも怒らせると本当に怖いけど、普段はすげぇ優しいからな。それがメフィスト達に伝わったみたいだ。
村長はゼハードと仲良くなっていた。というか、お互いに認め合ってるって感じかな?そのおかげで他のメフィスト達も心を許している節があった。
レックスの親父のティラノさんとゲインおっちゃんは得意の畑仕事で村に貢献していた。メフィスト達は農作業があまり得意ではなく、やり方を教えるという形で自然とコミュニケーションが取れていた。
ちなみに俺はというとあんまりメフィスト達と仲良くなれていません。嫌われているというわけではないんだけど、例えるなら国の重鎮と一般市民の距離感。いや、俺の立場を考えると普通はそうなんだけど、他の魔族は俺に遠慮することなかったからさ。ちょっと寂しす。
そんなこんなで数日間、ある意味充実した日々を過ごした俺に一大イベントがやってきた。
結婚式。
当然、俺とセリスのだ。朝起きてからソワソワが止まらない。花嫁であるセリスは支度にかなりの時間がかかるってことで、朝食を作り終えるとさっさと出かけてしまった。俺は落ち着かない午前中をアルカと二人で過ごし、そろそろいい時間になったってことで、フレデリカから渡されたタキシードに着替えているってわけだ。
数十回の試行の上、何とかネクタイも形になったので、改めて鏡の前に立ち、自分の姿を確認する。
うん、悪くない。ここに来てからずっと黒コートを着ていたからこういう格好は新鮮だ。青いタキシードを選んでよかったな。あいつは青が好きだから。まぁ、これは青っていうか紺に近いか。
特に変わらないとわかっているけど、なんとなく髪形を直してみる。最後に、変なところがないかを確認すると、俺は寝室から出てリビングへと向かった。
……あれ?ここ天国?確か家のリビングに降りてきたはずなのに、黄色いドレスを着た天使が俺の目の前にいるんだけど。もしかして俺死んだ?
「わー!パパかっこいい!!」
黄色い天使が俺の胸に飛び込んできた。あ、そういうことか。今死ぬんだ。幸せすぎて死ぬんだ。
「おぉぉぉ!アルカも可愛いぞっ!!めちゃくちゃ可愛い!!」
摩擦で発火するくらいアルカの頭を撫でまわす。髪をくしゃくしゃにされながらも、アルカは頬を赤らめながら嬉しそうにはにかんだ。なるほど……天使だなんて言ったらアルカに失礼だな。この
「パパ!早く行こうよ!」
「ん?おぉ、そうだな」
やばいやばい。このまま一日中アルカを愛でていたい症候群に駆られるところだった。
「確か、城門前だったよな?」
「そうなの!」
かなりの数が来ると見込んで、会場は城の階段下にあるあのだだっ広い平地にしたらしい。ほら、フェルが魔王城に攻め込む狼藉を排除する最後の刺客を配置するってセリスが説明していた場所だ。ラスボス前に強力な中ボスっていうのはお決まりだよな。
俺は転移魔法を発動し、アルカと一緒に城門前へと移動する。そして、集まった魔族達を見てポカンと口を開けた。
見渡す限り魔族。しかもありとあらゆる種族でこの場が埋め尽くされている。
い、いやー五十人くらいは来てくれるかなー?って思ってたけど、とんでもねぇな。闘技大会の時より集まってんだろ、これ。俺が言うのも何なんだけど、たかが結婚式だぞ?
とりあえず、やたらと長い階段を下りていく。見た感じ、立食形式のパーティなんだな。集まった魔族と同じくらいテーブルが置かれていて、その上に豪華な料理がたくさん置かれている。
「わー!美味しそう!パパ?行ってきてもいい?」
「あ、あぁ、行っておいで。迷子にならないようにな」
「はーい!!」
元気よく返事をすると、アルカは”
だって、こんなに集まるなんて思ってなかったもん!来すぎだろ!こんな大勢の前でお披露目とか恥ずかしすぎて正気を保てねぇだろ!
激しく思い悩む俺に気が付いた魔族の誰かが声を上げた。
「あっ!クロ様だ!!」
ギラリッ。
そんな擬音が聞こえてきそうなほど、ここにいる全員の視線が俺に集中する。あっ、一回帰ろうかな。
「おぉ!指揮官様がおいでなさったぞぉぉぉぉ!!」
「祝え祝えっ!!」
「おめでとうございますっ!!」
「ド地味でヘタレの癖に、あんな奇麗な奥さんもらいやがって、うらやましいぞちくしょぉぉぉぉ!!!」
魔族達が俺目掛けて一斉に駆け寄ってきた。やべぇよやべぇよ。あれに飲み込まれたら助かる術はない。あと、最後の奴。顔覚えたからな。覚悟しとけよ?
魔族の波にのまれる寸前、なにやら青い集団が俺の前に陣を組んだ。
「作戦名、我らが心の支えであるクロ指揮官を守れ、発動する」
「「「「「イエッサー!!」」」」」
「お前は……タバニっ!?」
俺が驚きの声を上げると、オークであるタバニが魔族達を押しとどめながら、俺にきりっとした表情を向けてくる。
「クロ指揮官!!ご結婚おめでとうございます!!お祝いの言葉が遅くなって申し訳ありません!!クロ様の身辺は我々が警護いたしますので、ご安心ください!!」
「お、おう。サンキューな」
「もったいなきお言葉っ!!」
相変わらず暑苦しい奴だ。まぁ、でも助かった。
俺はオークに囲まれながら会場を歩いていく。まだめちゃくちゃ見られているけど、とりあえずオークのおかげで押し寄せる心配はなくなった。
「し、指揮官様!お、おひさしぶるいれろめんしまうす!」
ん?なんだ?後半何を言っているのか全然わからなかったんですけど。
声のした方に目を向けると、かなり地味なドレスを着た青肌の美女が立っていた。美女には違いないけど、格好とメイクのせいで全くそれがいかせていない。
「レミじゃないか!久しぶりだな、元気してたか?」
「ははははい!おかおかおかげさまで!!」
フローラルツリーで服屋さんを営むウンディーネのレミの目が激しく左右に泳ぐ。全然変わらないな。この感じ、なんかすげぇ懐かしい。
「ああああああのあのあのあの!!」
「とりあえず落ち着け。一回深呼吸してみ」
「は、ははい!!すー……はー……」
俺の言うことにレミが素直に従う。大分落ち着いたのか、目の泳ぎが一秒間に二回程度に減った。酔わないのか、それ。
「あ、あの!お、おめでとうございます!!そ、そのタキシード……き、着心地は悪くないですか!?」
「タキシードか?ぴったりだよ。もしかしてレミが作ってくれたのか?」
「は、はい!フレデリカ様と、き、協力して作りました!」
そうだったのか。寸法を測ってくれたのはフレデリカだったから、てっきりフレデリカが一人で作ってくれたのかと思った。
「ありがとうな、レミ。最高だよ」
俺が笑いかけると、レミは顔を真っ赤にさせ、俯いた。その感じが酔った時のフレデリカにそっくりだ。やっぱり同じ種族なんだな。
「指揮官さま!指揮官さま!結婚!」
「指揮官さま!指揮官さま!めでたい!」
「指揮官さま!指揮官さま!おめでと!」
俺がレミと話していると、誰かが俺のズボンを引っ張る。おっ!マスコットキャラのノーム達じゃねぇか!相変わらず愛くるしい見た目してんなーこのこの。
「ノーム達、ありがとう」
俺が頭を撫でてやると、「ぼくも!ぼくも!」とノーム達がわらわらと集まってきた。うーん、このもふもふたまらん。やっぱり二、三人持ち帰りたいんだけど、だめですかね?
「おー!トゥデイはなんてグレートな日であろうか!!」
他のウンディーネ達からも代わる代わる祝いの言葉をもらった。いやー意外と慕われてんのな、俺って。
「まさにマリッジにはパーフェクトなウェザーだね!!二人の門出をセレブレイトするにはうってつけの」
「じゃあ、みんな。楽しんでいってくれよな」
「まさかのスルーっ!?」
赤いトカゲは完璧に無視し、俺はノームとレミ達に笑顔で言うと、そのまま先に進んでいく。
「クロ様~!!」
そんな俺の胸にいきなり小さい何かが飛び込んできた。文字通り空から。
「えーっと……リリか?」
「そうです!あなた様のことを心からお慕い申し上げているリリでございます!」
シルフの四つ子の次女、昼ドラマニアの妄想癖がおいでなすった。ってことは……あぁ、他の三人も飛んできたな。
「私はあなた様が悪魔族の長とお付き合いをしていると知った時からずっとあの女とあなた様を恨んでおりました。ですが、結婚の話を伺い気づいたのです。私が願っているのはあなた様と一生を添い遂げることではなく、あなた様の幸せであることを」
リリの表情が恍惚なものへと変わっていく。
「まさに究極の尽くす女!自分の幸せよりも男の幸せを取る……なんて健気なのかしら!私はこれからもクロ様を陰から……ふっふっふ……」
昼ドラマニアの妄想癖にストーカー属性が追加されたな。うん、勘弁してほしい。
「リリー!!あんたまた……って、あれ?」
困り顔の俺と幸せそうなリリの顔を交互に見て、長女のララが首を傾げる。遅れてルルとレレ……蓮十郎もやってきた。
「ややっ!指揮官殿ではございませんか!?この度はまことめでたい話でござったな!心より祝福いたすぞ!」
「はむはむ……しひはんしゃま、おめでほう」
蓮十郎は空中で器用に正座をすると、礼儀正しく頭を下げる。隣にいるルルは両手に持っているお肉を美味しそうに頬張っていた。二人の言葉を聞いたララが慌てて俺に向き直る。
「あっ!ご結婚おめでとうございます!指揮官様!」
「ありがとうな、みんな」
なんかこうも面と向かって祝われるとちょっと照れ臭いな。でも、悪い気は全くしない。
「ほら!リリもお祝いの言葉を言いなさい!」
「クロ様……私はいつでもあなたの後ろにいます。そして、いつまでもあなたのことを見守っておりますよ」
そう言うと、リリは俺から離れ、どこかへと飛んでいった。祝いの言葉?あぁ、呪いの言葉ね。しめすへんと口へんを間違えちゃったのね。おっちょこちょいだなー本当。
「ちょっとリリー!!待ちなさーい!!」
「じゃはへー!しひはんしゃまー!」
「某、失礼するでござる」
リリを追うララに続くように、二人も飛んでいった。ララの気苦労が減ることはなさそうだな。でも、あいつらはあれでいいんだ。
「タバニ達も護衛はもういいぞ?」
「なっ!?しかし、それでは……」
「もう大丈夫だろ。もし、やばくなったら転移魔法で逃げるし。お前らもパーティを楽しんでくれた方が俺は嬉しいんだ」
「っ!?な、なんという暖かいお言葉っ!!このタバニ……胸がいっぱいでありますっ!!」
いちいち大袈裟だな、本当。俺が苦笑しながら軽く手を挙げると、タバニはビシッと敬礼を返し、部下を引き連れ、俺のもとから離れていった。
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