第232話 お子様には刺激が強すぎるのでご注意を
いつの間にか夜も遅くなり、アルカもお眠になってきたということで、そろそろお開きということになった。いや、それだけが理由じゃない。無謀にもライガに挑んだアベルが酔いつぶれたこと。そして、そのライガが美女三人に完敗を喫したことも原因だ。乾杯だけに完敗ってね。うるせぇよ。
いやーそれにしても驚きだったな。セリスとフレデリカが酒に強い……フレデリカの場合は大量に飲めるだけだが……のは知っていたけど、マリアさんまであんなに強かったなんて。ってか、三人の中で一番強いんじゃねぇか?最後までまるで変ってなかったぞ。
完全に内気モードに入ったフレデリカはボーウィッドとマリアさんが引き取ってくれた。マリアさんは一度家に転移してブライトさんから外泊の許可をもらったんだって。ブライトさんや、魔族の事信用しすぎじゃあるめぇか?これからアニーさんも交えて三人で飲むらしい。まじアルコールモンスター。フレデリカの奴、一週間は通常営業に戻れねぇな。
セリスもその女子会に誘われたんだけど、明日はピエールの治める《堕天使の休息所・ブラッドフルムーン》に行くってことで断ったんだ。《堕天使の休息所・ブラッドフルムーン》に行くってことで断ったんだ。別に大事なことじゃないけど、厨二すぎるから二回言ってみたよ。てへ。
そんなわけでアルカをおぶりながら、セリスと一緒に家へと帰ってきた感じだ。俺はアルカを起こさないように慎重に家の中を移動してベッドへと運ぶ。寝かせた瞬間、少し唸ったけど、すぐに寝息を立て始めた。はぁ……うちの娘はなんて可愛いんだろう。こんな寝顔なら一晩中見てられるぞ。
後ろ髪を引かれる思いでアルカの部屋を出ていくと、セリスが声をかけてきた。
「お風呂に入りますか?それならお湯を沸かしますが」
「うーん……ゆっくり風呂につかりたいけど面倒くさいからなぁ。シャワーで済ませることにするよ。セリスはどうすんだ?」
「クロ様がシャワーで済ますなら、私も同じようにします」
「そっか。なら、先に浴びるぞ」
飲み会の後っていうのはなんとなく身体がべとべとしているような気がして気持ち悪い。さっさと洗い流してキレイにしたいわ。
俺は脱衣所に移動し、手際よく服を脱いでいく。うぅ……最近はめっきり寒くなったからコートを脱ぐとすげぇ辛い。国宝級の魔道具のありがたみが身に染みるわ。
ってか、冬の脱衣所って地獄だよな。一枚脱ぐ度に、これ以上服を脱いではいけないって身体が警告を発するのに、それでも止めることが許されないんだぞ?しかも、真っ裸になって急いで浴室に駆け込んでも、すぐにシャワーからお湯が出ない。ほんのわずかな時間なんだけど、シャワーからお湯が出るまでの間は永遠にも感じる。
温かいお湯が出始め、頭からかぶったところで、やっと俺は一息ついた。魔道具シャワーを開発した奴、天才だろ。確か、この鉄の素材に火属性の魔法陣を埋め込んどいて、魔燃料でそれを発動・調節しているんだっけか?セリスに聞いただけの曖昧な記憶だけど、間違ってはいないはず。だが、そんなことはどうでもいい。とにかく気持ちがいいということが大切なのだ。
俺は鼻歌を歌いながら、濡れた髪にシャンプーを垂らし、ゴシゴシと洗っていく。そういえばセリスの奴、たらふく酒を飲んでた割には今日はまともだったな。腕をロックされるどころか、べたべた俺の身体を触ってくることもなかった。もしかして克服したのか?それはそれで嬉しいような寂しいような微妙な気持ちだ。酔っ払うとひたすら俺に甘えてくるからなー。いつもは綺麗系の美人なあいつが可愛い系になるから、なんだかんだ言って酔ったセリスも好きだったんだが……まぁ、仕方がねぇか。あんまりドキドキさせられても心臓に……。
「失礼します」
「おう…………え?」
失礼します?
反射的に返事をした俺だったが、コンマ二秒でそれがおかしいことに気が付く。幻聴か?幻聴だよな?だって、ここは風呂場だし、俺以外の誰かが来ることなんてありえないし!だから背中に誰かの気配を感じるのだって気のせいに違いねぇ!ってか、目にシャンプーの泡が入って開けられねぇよ!!
俺は即座に髪を洗い流すと、勢いよく振り返った。
冬になり、気温が低くなったせいか、浴室は湯気が立ち込め、視界はかなり悪い。だけど、こんなに至近距離にいれば嫌でもその姿を確認することができる。
「セ、セ、セ、セ、セリス!?ななな何やってだお前!!!」
テンパりすぎて若干訛る俺。ここはお風呂場、当然俺もセリスもすっぽんぽん。だ、というのにセリスには一切照れた様子はない。
「何って……シャワーを浴びに来たんですが?」
……むしろ妖艶な笑みすら浮かべてるんですが、これいかに?
俺は慌ててセリスから視線を背け、浴室のタイルをがん見しながら全速力で身体を洗っていく。
えっ?どういうこと?誰か俺に説明してくれ!なんでセリスが入ってきてんだよ!どうなってんだ、これ!!
恋人同士だから一緒に風呂に入ってもおかしいことではない……俺はまだ入ったことはないけど。だから、こうやってセリスの方から来てくれたのは男として非常に嬉しい展開ではある。あるんだけど、なぜか俺の本能がやばいと告げている。その本能に従い、これは早急にこの場を退出した方がいい。
「……”
身体をお湯で流し、そそくさと出ていこうとした俺にセリスが幻惑魔法を唱えた。その瞬間、俺の身体に極太な鎖が巻き付いていく。いや、正確には巻き付いていると錯覚しているだけだ。なるほど、こんな幻惑魔法もあるのか。こいつは厄介だぞ。実際には存在しない鎖を引きちぎるのは、あの脳筋バカ虎にだって不可能だ。
って、そんな冷静に魔法の考察している場合かっ!!
「セ、セリス!!なんで」
「そんなに慌てることないんですよ?風邪をひいてしまいます……もっとゆっくり温まらないと」
セリスが動けない俺の顔に手を這わせながら、ゆっくりと近づいてくる。目がトロンとしていてなんとなくエロい。そして、それ以上になんか怖い。
「……マリアさんがいる手前、クロ様に甘えることができませんでしたが、もういいですよね……?」
もういいって何がですか?なんでそんなに淫靡な雰囲気を醸し出しているんですか?
セリスはその巨大な
「……今夜は眠らせませんから」
熱い吐息が耳をくすぐる。クラクラするなんてレベルじゃねぇ、濃厚なブランデーで脳みそをホルマリン漬けにされたみたいだ。脳細胞がシャットダウンする。俺は全身から力を抜くと、ぼーっとする頭から一切合切の思考を投げ捨てた。
この日、俺はサキュバスという種族の片鱗を味わったのであった。
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