第226話 学級会に普段参加しない奴が積極的に参加しても碌なことがない


「さて……じゃあ会議を始めようか」


 なんとか元の調子に戻ったフェルの言葉を聞いて、俺達はホッと安堵の息を漏らした。いや、こんな息も出るって。かれこれ30分は拗ねてたからね、この魔王。途中から麻雀に誘われなかったことも引き合いに出して、ひたすらぐちぐち囁いてたから。正直げんなりしたわ。


「いつもは僕が話してその後にみんなの話を聞いてたけど、それだと全然建設的な意見が出ないから今日は逆パターンで行くよ」


 おっ、あまりにも生徒の自主性がないから学級会の方式を変えてきやがった。でも、残念。そんな事をしても自ら議題を投げるような殊勝な生徒はこの場になんて……。


「この時を待ってたのよ!」


 いたみたいです。あれは学級会の最中、話し合いになんてまったく興味がなくて、ひたすら自分の髪型をいじっているギャルのフレデリカさんじゃないですか。これを機に優等生にジョブチェンジか?


 勢いよく立ち上がったフレデリカに全員の視線が集まる。フレデリカは自信満々といった感じで、俺達を見回した。


「私達は魔王軍の幹部!他の魔族の模範になるような働きをしなければならないわ!!」


 えっ、まじでそんな感じ?あのフレデリカが真面目な話題を振るってのか?


「そして、下の者達の声に耳を傾けなければならない!街の子達がどんな事を考え、どんな事を望んでいるのか、私達は常にアンテナを張り巡らせなければならないのよ!!そうすることで魔族はもっと豊かに、幸せになるわ!」


 すげぇまともなこと言ってる。しかも幹部っぽい。ちょっとフレデリカの事を誤解していたのかもしれない。


「と、いうわけで、他の子達の話を聞いて一つ提案したいことがあるわ!」


 魔族領をより良くしたい、やっぱなんだかんだ言って魔族の上に立つ者なんだな。魔王軍指揮官として見習うべきかもしれない。


 フレデリカは不敵な笑みを浮かべながら、バンッと机を叩いた。


「私は魔族の一夫多妻制を提案します!!」


 ソレハ魔族ノ為ニナルノデスカ?


 ギーが頬杖をつきながら呆れた顔をフレデリカに向ける。


「いつになく真面目な感じだから何かと思えば……まぁ、どうせくだらないことだとは思っていたけどな」


「くだらなくなんかないわ!!」


 フレデリカが興奮冷めやらぬ様子でバンバン両手を机に叩きつけた。どう考えてもくだらないことだろ、それ。


「フレデリカ……私が言うのもなんですが、それを魔族の皆が望んでいるとは思えないのですが?」


「いーえ!望んでいるわ!特にシルフのリリなんて熱望しているはずよ!」


「……否定できないところが悲しいですね」


 おいおいおい、あの昼ドラマニアが一夫多妻制なんて聞いたら発狂するぞ?それこそ胃がもたれるようなドロドロの恋愛劇場の始まりだ。


 フレデリカはゆっくりと幹部達の顔を確認する。興味ない奴らが四名、よくわかっていない巨人が一名、よくわからない吸血鬼が一名、困惑する美女が一名、そして、学級会を温かく見守る先生が一人。


「……まぁ、こうなる事は分かっていたわ。誰も私の意見に賛同してくれない事はね。だから、前もって助っ人を用意しておいたのよ!」


 助っ人?誰だそれは?


「さぁ!入ってきてちょうだい!」


 フレデリカの声に反応して会議室の扉が遠慮がちに開かれる。そこには青髪ボブカットの天使の姿が。


 …………いやいやいや。


「し、失礼しますっ!!」


 フェルを除く全員がポカンした表情で見つめる中、その視線に耐えられなくなったマリアさんが早足でフレデリカの所に移動する。フレデリカは笑顔を浮かべながら水でできた椅子を作り出すと、マリアさんに差し出した。マリアさんは挙動不審になりながらおずおずとフレデリカの横に着席する。


「えーっと……なんとなくはわかりますが、これは一体どういうことですか?」


 誰もが口を開くのを躊躇っているなか、口火を切ったのは我が優秀たる秘書。その自己犠牲の精神、流石です。


「なにってさっきも言ったでしょ?助っ人だって!マリアは私と同じ志を持つ者なのよ!最高の助っ人だわ!」


「あのー……フレデリカさん?合図があったら部屋に入るように言われたからその通りにしたんだけど……全然状況が読めないよ?」


 おい、最高の助っ人とやらは何の助っ人かすら把握してねぇじゃねぇか。最低でもそこら辺は打ち合わせしとけよ。


「マリア!私は今みんなに一夫多妻制の素晴らしさを説いている所なのよ!一人の男に一人の女なんて古い古い!恋愛はもっと自由にあるべきなのよ!一人の男が色んな相手を愛したっていいじゃない!」


 ハーレム野郎の哀れな言い訳に聞こえるけど、それを言ってる本人はハーレムされる側だからな。つーか、自由な恋愛なら一夫多妻制よりも多夫多妻制のがいいだろ。男女差別いくない。


「そうなれば一人の男を取り合って女達が醜い争いをせずに済む!まさに理想の関係!優しい世界が広がるのよ!」


 すごい。あんなにもフレデリカが熱弁をふるっているというのに、この場にいる誰一人として心に響いていない。ギガントなんて三角座りしながら鼻ちょうちん作ってる。


「さぁ、マリア!あなたもみんなに教えてあげて!一夫多妻制の素晴らしさを!」


 フレデリカが期待に満ちた視線をマリアさんに向けた。マリアさんは困ったように眉を曲げると、ゆっくりと口を開く。


「……別に一夫多妻制じゃなくても幸せになれるよ?男女の関係は恋愛だけじゃないと思うから」


「なっ……」


 哀れフレデリカ、助っ人に裏切られる。残念でもなく当然。信じられないものを見るようにマリアさんを見つめながら、力なくその場に座り込んだ。

 ってか、そもそもなんでマリアさんを助っ人に選んだんだよ。別にマリアさんは一夫多妻制なんて望んじゃいねぇだろ。


「マリアさんを助っ人にした事を不思議に思っているみたいですね」


「くっくっくっ……こいつには一生わからねぇだろうな」


 呆れた様子のセリスの言葉を聞いて、ギーが心底楽しそうに笑った。理由はわからねぇが無性に腹立つ。


「……兄弟らしいといえばらしいが……」


「けっ、報われねぇよな」


 なんだよ、ボーウィッドとライガまで。何が俺らしいのか、何が報われないのかさっぱりわからん。除け者感が半端ない。


 クロムウェル君、泣いちゃうぞ?

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