第213話 フレノール探検隊、森を行く

 探検隊結成後、アルカは毎日のようにロニと会っていた。時にはクロからの誘いを断ってまで村へと赴き、夜遅くまで森の中を探索した。探索と言ってもやっていることは村の周りを二人で回っているだけ。木を登ったり、美味しそうな果実を見つけたら食べてみたり、魔物がいたら遠くからおっかなびっくり観察したりと、村にいた時の遊びの延長のようなものであった。

 それでも、アルカは楽しかった。アルカには友達と呼べる魔族がたくさんいたが、自分と同世代の者はいない。一番年が近くて城の女中であるマキなのだが、それでもやっぱり年上感は拭えない。だから、こうして同じくらいの年代の子と遊べるのは嬉しかった。


 そんなある日、いつものように村で二人が落ちあうと、ロニが演技じみた口調でアルカに提案してきた。


「副隊長アルカよ……この辺りの森は十分に探検した、そうは思わないか?」


「はい!!アルカもそう思うであります!!」


 隊長っぽい物言いにアルカはウキウキしながら答える。


「と、いうわけで、今日は遠出をしてみたいと思う。……危険な道のりになると思うが、副隊長はついてこれるか?」


「隊長と二人なら問題ないの!!」


「いい返事だ!!よーし!!今日はまだ見ぬ未開の地へ進んでいくぞー!!」


「おー!!」


 二人は威勢よく片手を上に掲げると、森の中を進み始めた。先頭を歩くのは隊長のロニ。今回は勝手知ったる村の周りではない、ということでその表情は少し緊張しているようであった。殿を務めるアルカはいつもと変わらない。むしろいつもより楽しそうであった。確かに、森の奥に行けばそれだけ獰猛な魔物に出会う可能性がある。だが、それよりも自分が行った事のない場所に行くワクワク感の方が遥かに勝っていた。


 お昼になり、適当な場所に腰を下ろすと、アルカが持ってきたお弁当を二人仲良く食べる。なぜだか、最近はセリスが作るお弁当がかなりの量なので、二人で食べてもまったく問題なく満腹になった。


「うめー!!いつも思うけど、アルカのいる家の飯ってめちゃくちゃうめーよな!!」


 ロニが巨大なおにぎりを頬張りながら、幸せそうな笑みを浮かべる。


「だけど、油断するなよ?いずれは敵になる相手なんだからな!!」


「う、うん!わかったの!!」


 ロニの言葉にアルカはぎこちない笑顔で返した。人間や他の魔王軍に対し、いい印象を持っていないロニには、自分が住んでいる所に関してあまり詳しく話していない。それをすることでロニに嫌われてしまうことがアルカは怖かった。


 昼食を終え、二人は行進を再開する。


 時間帯のおかげだろうか、凶悪な魔物も現れない。それに気をよくしたロニがズンズンと森の中を進んでいった。アルカもキョロキョロと辺りを観察しながら、その後ろをついていく。

 今いるのはフレノール樹海でもかなり辺境の場所。要するに森の端っこに位置する所だ。フレノール樹海でアルカがよく狩りをしていたのは、森の中心だった。そこならば魔物が豊富にいて、探す手間も省ける。グランジャッカルに襲われていたマリアと出会ったのもそこであった。


 そのため、この辺りは完全に初見の場所。否が応にもアルカの好奇心は高まっていく。


「ん?なんだあれ?」


 森を見回していたアルカは前を行くロニの言葉に反応して、視線をそちらに向けた。


 二人の前に突如として現れたのは巨大な建造物。家と呼ぶには大きすぎ、武骨なデザインをしているその建物は、アイアンブラッドにある工場を思わせた。


「こんな所に魔族の街なんてあったっけ?」


「聞いたことないの」


「……もう少し近づいてみるか?」


「うん」


 緩みきっていた気を引き締め、ロニは慎重に建物に近づいていく。アルカもそれに続こうとしたのだが、不意に何かの気配を感じ、ロニの肩をツンツンとつついた。


「隊長、隊長」


「なんだよ。今こっそり忍び寄ってんだから話しかけ……」


 うっとおしそうに振り返ったロニはアルカの視線の先にいるものを見て凍り付く。


 鎧を容易く切り刻めそうな鋭利な爪、大木のように太い手足。何でもかみ砕けそうな牙が生えた口からは、食料を見つけダラダラとよだれが垂れていた。


「グ、グリズリー!?」


 熊のような見た目で、熊よりも数段巨大な体躯。フレノール樹海の中でも屈指の危険度を誇る魔物が、何も知らずに歩いていた獲物に狙いを澄ましていた。

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