第156話 毎年、約6万平方キロメートルもの大きさで砂漠は広がっている
シェスカ隊の素材採集を視察するために森へと赴きました。ザンザ隊の鉱石採掘を視察するために炭鉱まで行きました。
では、ライガ隊の魔物狩猟を視察するために、ライガは俺をどこに連れていきやがったでしょうか?
俺はゆっくりとあたりを見渡す。
砂、砂、砂。どこをとっても砂。頭上には三歳児のように元気いっぱいの太陽。その照りつける太陽光により地面が熱せられ、船酔いした時みたいに景色が波打っている。
そう、ここは砂漠。過酷な環境により来訪者を選別し、適応することができた者以外住むことが許されない地。人なんてもってのほか、魔族ですらそう易々とは足を運ばない不毛地帯。
俺は無言でライガ達についていきながら空間魔法から水筒を取り出し、静かにのどを潤した。
「大丈夫ですか?」
そんな俺に、セリスが後ろから声をかけてくる。俺が目を向けると、セリスは心配そうな表情でこちらを見つめていた。
「セリスは平気なのか?」
「そうですね……少し暑いですかね」
多分、気温は5,60度ぐらいはありそうだっつーのに、セリスはいつものビジネスルックで、割と涼しげな顔をしている。いくら容姿が人間と変わらないとはいえ、流石は魔族といったところか。活動できる気候の閾値が違うんだろうな。
まぁ、かくいう俺も蒸し暑いくらいで済んでるんだけど。
「俺も同じようなもんだ。こいつのおかげだな」
俺は自分が着ている黒いコートを指で示した。砂漠にコートとか気が狂っているとか思われそうだが、この厨二コートは普通じゃない。
フェルからもらったこれは、衝撃耐性と自浄作用、更に環境適用の効果が付与されている国宝級のシロモノ。なんだけど、ぶっちゃけ前の二つは期待していたほどの効果はなかった。
衝撃耐性はフェルも言っていたけど、本当に少しぐらいの打撃にしか効果がない。それこそ小石を投げつけられてもいたくないくらいのレベル。そんなん厚着すればどうとでもなるっつーの。
自浄作用の方はよくわからん。多分、長時間放置していればいつの間にか奇麗になっているんだろうけど、毎日着てれば普通に汚れてくるし、度を越えれば洗濯にも出しちまってるしな。
ただ、環境適応の方はマジで役に立っている。これを着てから寒いと思ったことはないし、暑いと思ったのもフローラルツリーで火山の火口に行った時くらいだ。
「それは確かルシフェル様にいただいたものですよね?」
「あぁ。魔族領に来た日にな」
「流石の性能といったところですね。……その分お洗濯をするのは大変ですが」
セリスが少しだけうんざりした様にコートに目をやる。なんか、服っていうより魔道具だからめちゃくちゃ洗いにくいらしい。だから俺はなるべくコートを汚さないようにと、うちの家事をしてくれているセリスさんに釘を刺されているのだ。頭が上がりません。
「ま、まぁ、そういうわけだから全然平気なわけだ!」
「そうですか。それならばよかったです」
「あぁ。この程度で弱音は吐いてらんねぇからな」
俺はわざと余裕のある笑みを浮かべた。なぜなら、先頭を歩くバカ猫がこちらをチラチラと見ているからだ。人間にはきつい場所に連れてきて音を上げさせようって魂胆だろうがそうはいかねぇよ。
俺は水筒を空間魔法に戻しながら、前を歩く獣人族達に目を向けた。
ライガ隊はザンザ隊とシェスカ隊とは違って男女混合で構成されている。
魔物を狩ることに特化した隊だ、前の二つの隊の連中とはまるで雰囲気が違うな。あいつらも決して平和ボケしているわけじゃないが、ライガ隊の奴らは常に神経を張り巡らせている感じがする。隊長の二人にも匹敵するような輩がちらほらと見受けられるし。
でも、そんな手強そうな奴らも、耳やら爪やら牙は獣のモノだった。
シェスカが言っていたな。獣の力を完全にコントロールできるのは親父だけだ、って。それがどれほどすごいことなのかはよくわからねぇが、とりあえずあの筋肉バカが特別だってことは事実なわけだ。
俺がそんなことを考えながら前を見ていると、突然ライガが立ち止まり、右手を上げた。それを合図にライガ隊の面々が一斉に獣耳をぴくぴくと動かし始める。なんか可愛い。
「なぁ、なにしているんだ?」
「恐らく索敵かと……」
「索敵?」
こんな見晴らしのいい場所でか?つーか魔物の姿なんてこれっぽちも見当たらないぞ?セリスもキョロキョロと周りを見回し、困ったように眉をへの字に曲げた。
「獣人族の索敵能力は魔族随一と言われています。その中でもライガは群を抜いているらしいので、あぁやって注意を促すということは間違いなく近くに魔物がいるんですが」
「そうはいっても周りに敵なんか───」
「おい!!セリスと人間っ!!邪魔になるから何があっても絶対に手を出すんじゃねぇぞっ!!」
会話の途中でライガの怒声が響き渡る。ライガは俺達を一睨みすると、そのまま腕を振り上げ、思いっきり地面を殴りつけた。その瞬間、ライガを中心に巨大なクレーター広がる。
って、おいまじかっ!!こいつ今、
ライガのパワーに驚いているのも束の間、奴の作り出したクレーターから細長い何かが無数に飛び出してきた。うわっ!本当に魔物がいやがったよ!!
「ひっ……!!」
隣で息をのむ声が聞こえる。現れたのはサンドワーム、二メートル程のミミズの化け物。当然、セリスさんの「生理的に受け付けない生物」にカテゴライズされているわな。
ライガに手を出すなと言われた俺は、盛大に顔を強張らせているセリスと一緒にサンドワームとライガ隊から距離を取った。さて、お手並み拝見……って、早っ!!もう終わってんだけど!?
さっきまで砂しかなかったのに、今はサンドワームの成れの果てがゴロゴロと。なかなかにすさまじい光景だ。
セリスが俺の背中にぴったりとくっついて栄光のサンドワームロードをおっかなびっくり歩いているのを見たライガが、バカにしたように鼻で笑った。
「はっ!!サンドワームごときで女に引っ付かないと歩けないとは情けねぇ!!男だったらシャキッとしろやっ!!」
バカか、お前は?どう見たってセリスがくっついてんだろうが。腐っているみたいだから、お前の眼球に水属性魔法をぶつけて洗ってやろうか?
ライガに言い返そうとした俺だったが、何も言わずにライガを睨みつけた。ライガのパワーに恐れをなした?ノンノン。信じられない力でセリスさんが俺の服をつかんでいるせいで首がしまってしゃべれないからだ。
「ブルって声も出せねぇみたいだな!つくづく見下げ果てたやつだ!!」
なんだと!?野良猫相手にビビるわけねぇだろうが!!なめてんじゃねぇぞ!!
って言いたい。超言いたい。だけど、声が出せない。ってか息が出せない。セリスさんや、マジで死にそうなんだけど。
「いいか!?てめぇみたいな雑魚のせいで隊が危険な目にあったらたまったもんじゃねぇ!!俺たちの戦いに死んでも手を出してくるんじゃねぇぞ!?」
酸欠で顔が青くなってきた俺に対してビシッと指をさしながら告げると、ライガは肩を怒らせながら隊の前へと歩いて行った。
マジでむかつく猫野郎め!!どんなにお前がピンチになろうと、ぜってぇ助けてやらねぇからな!!くそが!!
必死にセリスの手を自分の服からはがしながら心に強く誓う俺。ライガ隊の面々よ、もし危ない目にあっても俺は一切手を出さん。恨むんならバカで傲慢で脳筋なお前らの長を恨め。
だが、悲しいかな。この後も何度か魔物の襲来があったものの、ライガ達はまったく苦戦することなく魔物を蹴散らしていった。途中から俺は魔物側を応援していたというのに。
魔物共め……もっとガッツを見せろよ!
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