第43話『そして文化祭』2
早足ぎみに廊下を歩く統夜に歩幅をあわせながら、僕は事情を聞く。
「それで徴発って何さ。昴先輩がどうしたって?」
「そう急がなくてもいい。とりあえずお前の徴発はすんだ。計画の第一段階は成功だ。第二段階までまだ時間があるから適当にイベント巡ろうぜ」
「はぁ? なにそれ? サボりじゃん……」
「いいんだよ。どうせこの後色々と振り回されるんだから、今のうちに文化祭をたのしもーぜ」
「はあ、そういうことなら僕は教室で裏方の仕事に……」
「野暮は言いっこなしだ。お前は徴発されてんだから」
そんなこんなで僕と統夜は、イベントの数々を、目に付くところからやっていった。
科学部主催のサイエンス占い。
水泳部の水着喫茶。
クイズ大会。
チョコバナナ販売。
輪投げ。
弓道部による弓道体験コーナー。
茶道部による茶道体験コーナー。
華道部による華道体験コーナー。
ビンゴゲーム。
お化け屋敷。
…………その他色々と。
僕は一学生として文化祭をおもいっきり楽しんだ。
「統夜統夜、まだまわってないとこってどこだっけ?」
「まだたくさんあるけど……時間だ」
そう言う統夜は携帯電話で時間を確認していた。
現在十一時半。
「計画は第二段階に移行する。ついてこい真白」
そういって足早に統夜が向かった先は、校内自販機だった。
「自販機?」
首をひねる僕を無視して、統夜は自販機にお金を入れていく。
「おごってやるよ。お前、何飲む?」
「ごちになります。じゃあホットミルクティーで」
「ほれ」
と言いながらホットミルクティーの缶をこっちに放り投げる統夜。
それから本人はコーヒーのブラックを買ってそれを手に持つ。
「で、これからどうするの?」
聞く僕に、
「屋上へ行く」
統夜は答えた。
*
屋上は、風がヒュルリヒュルリと舞っていて、残暑が残る季節にしては少し涼しいところだった。
落下防止のためのフェンスが高く張り巡らされてある。
統夜はといえば、
「一度やってみたかったんだよ。屋上で二人きり、互いの缶コーヒーのプルタブを開けて、ちまちま飲みながら語り合うって奴を」
なんて戯言をほざいていた。
「そのためだけに自販機に行ったの?」
「もちろん」
その肯定に躊躇いはなかった。
「まぁいいけどさ。つまり何? 腹を割って話そうってこと?」
「そういうこと」
統夜がプルタブをあける。
僕もあける。
おたがいに乾杯をして、僕はミルクティーを、統夜はコーヒーを、それぞれ喉に通す。
それから統夜は、
「前から不思議だったんだ」
と前置きをして、
「なんでお前は華黒ちゃんを抱かないのかってな」
とんでもない爆弾発言を投入してきた。
いやいや。
「あのね、統夜……」
「いや、茶化してるわけじゃない。つーかむしろかなりマジな話だ」
「僕と華黒が、かい」
「ああ」
「兄妹だからね」
「そんなのは嘘だ」
「…………」
「その程度で理性が働くほど華黒ちゃんは凡庸じゃないだろ。こういう言い方はどうかと思うが、お前の華黒ちゃんへの接し方は物理的にありえない」
「物理的って……」
そんな馬鹿な。
「マジな話って言ったろ? 俺はふざけてるつもりは微塵もないぞ」
真面目な話……ね。
「保健体育で習ったろうが。女性を抱きたいってのは本能で、善いとか悪いとか、常識とか非常識とか、そういう問題じゃない。人間ってのはそういう仕様になっているんだ。そうせざるをえないんだ。物理的に、あるいは形而下的にな」
……形而下とまで。
「しかるに、華黒ちゃんが隣にいて、おまけに慕われているだ? はっきり言って羨ましいこと山の如しだが、だからこそ何でお前がその構図の中で理性を働かせられるのかわからない。お前が良い兄貴だとか、プラトニックだとか、そんな言葉で片付く程度の魅力じゃないだろ。華黒ちゃんは」
…………。
「こういう言い方は不快かもしれんけど、華黒ちゃんの誘いを断れる男なんてゲイ以外で思いつかないんだよ……」
…………。
「ん? もしかして真白、お前……」
「違うよ!?」
さすがにそこは譲れない。
「だろうよ。だからさ。わかるか? だから物理的にありえないって言ってんだよ」
「…………」
腹を割って話そう、か。
「もしかして僕の徴発って華黒の企みだったりするの?」
「よくわかったな」
「わからいでか」
……は~あ。
「統夜……ちょっと長い話になるけどいいかな?」
「…………いいぜ」
統夜は少しの躊躇いのあとに頷いた。
その躊躇いが、少しだけ嬉しかった。
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