明日も同じ空を見てる。

作者 はとり

あの日、彼が見た明日の空を僕達はまだ知らない。

  • ★★★ Excellent!!!

 本作品は、「渡り鳥三部作」と銘打たれたシリーズの、三部目に該当する短編小説である。作品が持つ魅力については、すでに素晴らしいレビューが投稿されているので、当方はそれらとは少し違った角度で、本作品を紹介したいと思う。

 一読して、まず宮本輝の短編小説『蛍川』を連想した。
 夏の終わりのある日に、過去に亡くした友への想いを馳せるという内容が、そういう印象につながったのかもしれない。本編もまた、静かな対話の中で、語り手である主人公が過去に犯してしまった罪――しこりとなっていたそれが浄化されてゆく、そういうストーリーである。
 とはいえ、『蛍川』の結末が不条理さと無気味さを併せ持つ、やや不可解なものだったのに対し、本作品で提示されているのは未来(あす)へ向かおうとする若者たちの決意そのものである。
 それは、まさに夏の終わりに吹く秋風のごとく爽やかで、天高く舞い上がる渡り鳥の視点にも似た飛翔感を味わわせてくれる。

 ポイントとなるのは劇中で行われるキャンプファイヤーだ。
 しかし本格的な物ではない。
 ちょっとした小道具を組んで作った櫓を焚き上げる、そういう類のもの……。


 そう、「お焚き上げ」なのである。

 本編を一読していただければお分かりかと思うが、ここで紡がれるのは、遺された親族と主人公による、亡き友への鎮魂と追悼の儀式なのだ。劇中の季節的に、「送り火」と言い換えても差し支えないかもしれない。

 ネタバレを避けるため詳細は書かないが、それによって主人公を縛る「過去からのしこり」は浄化されてゆく。
 そこに描かれているのは、「想いというのは時として断ち切らねばならないものもある」という、強い決意の表れだ。思い出に別れを告げることこそが、亡き魂に対する最大の供養である……。あくまでも私見だが、そのようなメッセージが込められているようにも思えた。

 しかして、キャンプファイヤーという名の「送り火」が果たす役割はそれだけではない。
 それは、友の魂を向こう側へ送り届ける「別れ」を告げると同時に、主人公の、現状からの「別れ」をも演出する。これが実に巧みな仕掛けなので、ぜひ読んで味わってみて欲しい。一連のやりとりの直後に、「海の向こうに行ってしまうのですね」と言う台詞に繋がることからも、このキャンプファイヤー=送り火という図式には、間違いなく大きな二つの意味が込められたのではないかと推察され、大きな衝撃を受けるのである。

 こうやって噛み砕いてみると、一時期に流行った「ある作品」を思い出す方もいるのではないかと思うのだが、いかがだろう。

 それは、数年前に大ヒットを記録し、テレビドラマや劇場映画化もされたTVアニメーション『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』である。
 当該作品をご存知の方ならもうお分かりだろう。
 本作品が提示するテーマも、『あの花』と同一のものなのだ。
 友の魂との再会をきっかけに浮かび上がる、過去の過ち。
 そして最終的に訪れる別れ……。
 ひと夏の終わりに描かれる、爽やかでほろ苦い青春の一ページである。


  君と夏の終わり 将来の夢 大きな希望忘れない
  十年後の八月 また出会えるのを信じて
  最高の思い出を… 
     (町田紀彦・作詞「secret base 〜君がくれたもの」より)


 一つの終わりは新たな始まりでもある。
 彼らが羽ばたく明日という名の空。
 それはいつか必ずどこかで巡り合うことを予感させる、希望の途だ。
 これは、そういう物語なのである。

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