第41話「上から魔力で圧をかけるタイプか、前にやられた事があるわ」
竜の守る村オルパスに到着したのは、それから数十分後の事だった。
襲撃を警戒して、歩けないトビアスを背負ったルーベンスを真ん中に、先頭スケットン、後方をナナシが歩く形だったが、特に何も起こらなかった。
その事に多少の安堵をしていると、村の入り口が見えてくる。
昔ながらの木製の門を鉄で補強した門だ。そこで数人が話をしているのが見えた。
「ティエリお嬢様!」
その中の一人を見て、トビアスは声を張り上げた。
お嬢様と呼ばれて振り返ったのは、サラリとした金髪の少女だった。
ティエリと呼ばれた彼女は、トビアスを見て目を見開き、次いでスケットン達を睨む。その目には明確な怒りと敵意が見えた。彼女の背後に控えるように立っている双子の男女も、同じような視線をスケットン達に向けていた。
「トビアス! 良かった、無事でしたのね!」
ティエリがトビアスに向けたのは心底安堵したような声だった。
そんなティエリの隣には、スケットン達が遭遇したフードの男が立っている。
ハッとしたトビアスはティエリに逃げるように言う。
「お嬢様、そいつから離れて下さ……」
だが、その時。
ティエリの手から数本のナイフが飛ばされた。そのナイフはカカカッと音を立ててスケットン達の周囲に刺さる。
見れば、円状だ。ナイフに囲まれた形になっている。
スケットンが「何しやがる」と言いかけた時、ティエリの背後に控えていた双子の男女が、同時に詠唱を開始した。
「ああ、これは」
その詠唱を聞いたナナシが、これが何か理解するのと同時に、魔法が完成する。
足元に刺さったナイフの間を光が繋いだかと思うと、スケットン達の身体がグン、と体が重くなった。
ティエリはスケットン達を睨んで怒鳴る。
「よくもトビアスをいじめてくれましたわね。許しませんわ!」
「わあ! ま、待って下さいお嬢様、この人達は……!」
トビアスが大慌てで止めようとするが、ティエリは聞く耳を持たない。
慌てる彼の隣ではスケットンとナナシが、いつも通りの顔で呑気に話をしていた。
「ほほう、これはまた面白いタイプの結界魔法を使いますね」
「結界にも色々あるんだな。上から魔力で圧をかけるタイプか、前にやられた事があるわ」
「え? やられたんですか? これ捕縛用の結界ですよ、何をしたんですかスケットンさん」
「うるせぇ」
「あ、あの、そういう場合では……」
「トビアスの言う通りだ。まったく君達は……」
ルーベンスは頭を抱えた。だが、怒鳴らなくなったあたり、大分慣れてきたのだろう。
そんな彼にスケットンは「ケッ」と悪態を吐いた。
「別にこの程度なら簡単に脱出できるだろうが」
言うが早いか、スケットンは腰から魔剣【竜殺し】を抜き、身体に掛けられた重さなどないかのように振り抜く。
すると【竜殺し】の刃が当たったところから、ガラスが砕ける音を立てて結界は割れた。
「け、結界を斬った!?」
「フン」
「それだけ出来るなら、何故屋敷の結界の時は駄目だったんだ?」
「屋敷の結界は全ての攻撃に対して
魔剣の性質、という奴だ。
スケットンの持つ魔剣【竜殺し】は、破壊する事に置いては他の魔剣から頭一つ抜きん出ている。
物理攻撃が完全に無効化されるタイプの結界や相手ならば無理だが、耐性を持っている程度ならその気になれば壊せるのだ。
「はー、魔剣って凄いんですねぇ……」
スケットンの魔剣を見て、トビアスが感心したように言う。
「感心してねーで、とっととあいつら説得しろ」
「あっすみません! お嬢様、僕は無事です! 大丈夫です! この人達は無害です!」
「トビアス、でも……」
トビアスの言葉に、ティエリ達はまだ不審げだ。どうやらフードの男に何やら吹き込まれていたようだ。
ティエリが戸惑っていると、フードの男はバッと手を広げ、その思考を遮る。
「騙されてはいけませんよ! そいつが持っていやがるのは魔剣【竜殺し】です!」
「あっ」
その口から出た指摘に、スケットン達は「そう言えば」という顔になった。
魔剣【竜殺し】。つまり、竜を殺せる剣である。竜の守る村オルパスにおいて、その名前を出すのが不味い事など、するりと理解出来た。
【竜殺し】の名を聞いて、揺らぎかけていたティエリの感情が完全に敵対のものになる。
彼女達はギロリとスケットン達を睨むと、それぞれに武器を構えた。
「本当にじっさまを殺しに来たのですのね。……許せない」
「え? いえ、違います、本当に違いますよ、お嬢様!?」
「大丈夫、トビアス。その怪しい仮面の男に脅されたんでしょう、かわいそうに。待っていて、すぐに助けてあげますわ!」
「あああお嬢様、僕の話をちゃんと聞いてます!?」
戦う気満々のティエリ達に、トビアスは「悪い癖が出た」と頭を抱える。
スケットンとナナシは顔を見合わせ、肩をすくめた。
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