第40話「倒すつってんのに、喜ぶところじゃねぇだろ」
「君が心配しているのは、私達を襲うかもしれない、という事だろう? そういう意味では、対処は出来るから気にしなくて良い」
遅い自己紹介を終えると、ルーベンスは少年を安心させるようにそう言った。
もっとも「対処」というのがどのレベルを指すのか、と考えれば、言葉の物騒度はスケットン達と大差はない。
だが、トビアスは指で頬をかいて、嬉しそうに笑う。
「あ、ありがとうございます。へへ」
「倒すつってんのに、喜ぶところじゃねぇだろ」
「いえ、その……前に、ある人に同じことを言われたのを、思い出しまして」
トビアスの言葉に、スケットンは仮面の下で、意外そうに空洞の目を丸くした。
トビアスは自分が何者であるかを理解した上で、何かあった時に自分を止めてくれる手段、相手に対して、喜ばしいという感情を持っている。
謙虚、自己犠牲。それを指す言葉は色々あるけれど、何かあった時の覚悟と責任を、トビアスはちゃんと持っているのだ。その事に、スケットンは少なからず感心した。
「ところでお前、何であいつに襲われていたんだよ?」
「あいつ?」
「ほれ、フードかぶった奴。あれが教会騎士だろ?」
スケットンが言うと、トビアスはハッとした顔になる。
「それは……あ! そうだ、急いで村に戻らないと……!」
そして焦った様子で立ち上がろうとして、体に負った怪我の痛みでうずくまった。
ナナシは膝をつくと、トビアスの体に
「まだあまり動かない方が良いですよ。治療をしたとは言え、聖水のダメージって結構根深いですから」
アンデッドにとって聖水は弱点だ。身体の損傷はもちろんだが、聖水のダメージはアンデッド達の魂に影響を及ぼす。
それゆえに身体は完治しても、ダメージ自体が回復するのには少し時間がかかるのだ。
だがトビアスは、休息を促すナナシの言葉を、首を横に振って断る。
「いえ、大丈夫です。早く村に戻らないと、あいつらがじっさまを……!」
「じっさま?」
「あの、えっと、竜です。オルパスを守ってくれている竜。あいつら、竜のじっさまを殺そうとしているんです」
「竜殺しとはまた奇遇」
トビアスの言葉に、ナナシとルーベンスの視線が、自然とスケットンの魔剣に集まった。
スケットンが見せびらかすように魔剣を叩く。トビアスだけは意味が分からず首を傾げていた。
そんな彼にスケットンは聞く。
「だけどよ、あいつらが目指しているのは世界樹じゃねぇのか?」
「ご存じだったんですか?」
「こっちもこっちであいつら追ってんだよ。で、あいつらが世界樹に向かってるっつーのは分かっているんだが、世界樹じゃなくてオルパスに向かう理由は何だ?」
「……たぶん、今のままでは世界樹に近づけないからだと思います」
トビアスはぐっと手を握りしめて答えた。
彼が言うには、じっさまと呼ばれた竜は、ここ最近の世界樹引っこ抜き事件を警戒して、オルパス付近にある世界樹に結界を張ったのだそうだ。
そのため、サウザンドスター教会の者達は、世界樹に近づく事が出来ない。
「それで、結界を張った竜を倒して解きに行った、と」
「はい」
スケットンは腕を組んで、オルパスの方を見た。
「それなら、先にオルパスだな」
「ですね。どの道、彼らが世界樹に近づかないと、現行犯で捕まるのは無理ですし」
「別に、事が起こる前に捕まえて叩いても、わんさか埃が出て来るだろ」
「一人いたら百人いる的なアレですか」
「アレではない。そんなもの、わんさか出てたまるものか」
スケットンとナナシの言葉に、ルーベンスは嫌そうな顔で言う。
三人の会話を聞いていたトビアスは、驚いて目を瞬いた。
「え? え? あの……手を貸して頂けるんですか?」
「違ぇよ、勘違いすんな。俺達もその、お前を襲った奴ってのに用があるんだよ。お前のはついでだついで。というわけで―――――案内しろ、坊主」
「――――! は、はい! ありがとうございます!」
感極まった様子で頭を下げるトビアスを見て、スケットンは満更でもなさそうに、鼻を鳴らしたのだった。
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