第24話 私が貰っておこうかなー

「いやー、最後のアトラクションは特にやばかったわぁ。ちょい遠出して遊びにいくのも悪くないなー。めっちゃ楽しかったぁ~」

「そ、そうか、楽しめたならよかったよ」


 よかった……のかな?

 デートっていうか、ほんと普通に遊んだだけだったけど。


 佐倉がどこでもいいというので、取り合えずデートスポットらしい場所へ連れ出したのだが。

 なんか、特にデート的な雰囲気にはならなかった。


「今日は連れてってくれてサンキュー! んじゃ、またなーゆう君」

「あぁ、またな」


 因みに、そんなこんなでもう三回目のデート? 後である。

 やっぱ、進展とか無理っぽくないこれ?




「はぁ~……どうしたもんかなぁ」


 部屋に戻り冷蔵庫に入っていた炭酸水を飲んで一息ついた後、盛大に溜息を吐き出した。


 佐倉を遊びに連れ出すことには成功している。

 が、恋人とかそういう方向性に進展する気配は特にない。


「せめて凪音がいればなぁ」


 佐倉の実際の感情というか、進展度をアドバイスしてくれそうではあるのだが。


「呼んだ?」

「んぶッ!?」


 び、びっくりしたぁ。

 思わず炭酸ちょっと噴いちまったじゃねぇか。


「いきなり背後から声をかけるなよ、心臓止まるかと思っただろうが」


 何の前触れもなく凪音が姿を現した。

 前に消えて以来だ。


「ごめんごめん。幽霊の嗜みかと思って?」

「久々だったから余計にびっくりしたわ」

「あれ? そんな時間たってんの? 私的には時間経過とかないからなぁ」

「そうなのか? あれから二週間以上経ってるぞ。佐倉も夏休みに突入しちまったよ」


 俺は仕事があるから、夏休みといっても佐倉と毎日一緒にいられるわけではないが。


「マジか。んで、進展はどうよ?」

「あー、それなんだけどさ。デートつーか、何度か遊びにいくとかはできたんだよ」

「おぉ! いいじゃん。正直そんなスムーズに進展してるとは思わんかったわ。あんた私をおとすことには定評あるわね」


 なんだその定評。サンプル少なすぎるだろ。


「いやそれが、仲良くなってるとは思うんだけどさ。完全に方向性が友人っていうか。恋云々って感じになりそうもないっていうか……」

「あぁ~、そっちいっちゃったかぁ。その可能性も考えてはいたけどねぇ」

「そうなのか?」


 流石、自分のこととなるとそれくらいは予想済みということだろうか。


「まーねぇ。優人と私だって恋人ともいえるし友達ともいえるじゃん? 私達は多分、何にだってなれる。とはいえ、佐倉の記憶を引っ張り出すにはもうちょい刺激がほしいわよねぇ」

「刺激を与えるねぇ」


 正直、あまり刺激的なやりとりをした記憶はない。

 そもそもどうしたら日常生活でそんなものが得られるというのだ?


 あ、いや、だから恋なのか。

 確かに、親愛の情の中でも「恋愛」は特に一過性の刺激が強いジャンルではあるだろうが。


「お前、結構色々考えて恋におとせとか言ってたんだな」

「あったりまえでしょ。でも、現状膠着状態かぁ。また私が同期して色々探ってみてもいいけど、あれやるとまたしばらく消えちゃいそうだしねぇ」

「だったら、無理はしない方がいいんじゃないのか?」


 あの行為は、ちょっと何がおこるか分らない感じもするし。


「んー、ゆうて私は元々消える予定だしね。つーか、私が完全に完璧に綺麗さっぱり消えないと佐倉の中に戻れないわけだし」

「……あ~、そうか」


 そうだった。

 凪音が二度と出てこないように消える、というのは佐倉の中に戻ることと同義。

 つまり、消えるというより佐倉と融合して「佐倉凪音」という一人の人間に戻るだけのことなのだ。


「だから消えるのは全然気にしないでいいわけだし、また機会をみて同期はしてみよっかな。それはそれとして、楓ちゃんにもちょっと相談してみようよ?」

「楓に?」

「うん。楓ちゃんってもう佐倉に会った?」

「いや、まだだな。佐倉が俺の家によくいるんで、一人だったら寂しいだろうからって汐穂ちゃんと一緒に遊んでるみたいだな。時間ある時は」


 あの二人はある意味で俺と佐倉以上に仲良く遊んでるみたいだ。

 ただ、ずっとゲームしている節はあるが。


「おー、そんなことに……。まぁ、楓ちゃんとしては優人と佐倉をしばらく二人きりで泳がせて様子見してくれてるんかもねー」

「気をつかわせてそうだもんなぁ」


 佐倉の体のことは心配しているだろうし、あいつはあいつで色々と考えてくれてはいそうだ。


「そだねぇ。相談する意味も含めて、ちょっと佐倉と顔合わせするかどうかとかも聞いてみようよ」

「分かった。そうしてみるか」


 すぐに電話で相談をしてみたところ。


『佐倉ちゃんとはずっと会ってみたかったので、どんとこいっす!』


 という返事が返ってきたのだった。







 で……この状態かぁ。


「いや~、おねーさん面白いわぁ。ゆう君の友達としては意外なタイプだけどなー」

「いえいえ、親友っす! でも、佐倉ちゃんとも深~い仲だったんっすよ? 裸の付き合いするくらいには」

「マジか!? そんな仲までいってんかよー。え~と、おねーさん名前なんだっけ?」

「だから、楓っすよ。おやまかえで~」

「あー、そうそう、それな。楓、楓っち……でっちちゃんな!」

「でっちちゃんって、なんか丁稚奉公みたいで嫌なんっすけど。っていうか、あだ名に更にちゃんをつけちゃってるじゃないっすか」

「でっちぼうこう? よくわからんけど、じゃー楓っちでいいかぁ」


 記憶が無いとはいえ、やっぱ佐倉と楓の相性は良いらしい。

 あっという間に馴染んでしまっていやがる。


 今日の夜は佐倉家に大人が誰もいないので、俺のうちにお招きして夕食を皆で食べよう。という状況なのだが。


「でー、佐倉ちゃん。佐倉ちゃんからすると私に会うのは初めましてだと思うんで、初めまして記念パーティ的なのしません?」

「ぱーてぃ?」


 そう、楓はそういうことがしたかったらしい。

 厳密には、それを口実に佐倉と接触したかったということもあるのだろうが。


「そうっす。私や優人さんは佐倉ちゃんを知っているけど、佐倉ちゃんは知らない。これはよくねーっす。私らのことを改めて知ってもらう機会をガンガン作らねば! ってことで、お話したりする機会を作ろうかと」

「別にそんなことしなくても話すくらいはいくらでも付き合うぜー? あたし」

「あれ、そうなんっすか? こんな怪しい大人コンビ相手にそれは警戒心なさすぎやしません?」


 怪しい大人で悪かったな。

 自分も含めている辺りは自虐も入っているのかもしれないが。


「え~? 別に怪しいとか思わんけどー。変な人らだなぁとは思うけどな。ゆう君もいい人じゃんね?」

「あ~、あの人はいい人ですよ。うん。いい人ではあります」


 なにその奥歯に物がひっかかったような言い方。


「だよなー。飯作ってくれるし」


 そんな理由かよ。

 やっぱ餌付け状態だった。


「飯っすかぁ。まぁ最近は優人さんもすっかり料理が達者ですからねぇ。……てか、優人さんはさっきから何をしてんすか」


 え? 何って。


「えっと、何だっけこれ? 汐穂ちゃん」

「タッグバトルです。二人で相手をぼっこぼこです」

「だって」


 汐穂ちゃんとゲームをしながらだったので、佐倉と楓の会話は耳には入っていたのだが話しに入れなかったのだ。


 あと佐倉が実質的に楓と初対面状態なので、しばし二人で話す時間を作ろうと気を遣ったということもある。

 あんだけすぐ馴染むならいらなかったかもしれないけどな。


 そんなわけで今日は汐穂ちゃんも招いていた。

 家に汐穂ちゃん一人を残しておくわけにはいかないので、当然ではあるが。


「そうじゃなくて、二人でゲームしてないでこっちの会話に入ってきてくださいよぅ。っていうか、膝に汐穂ちゃん乗っけてプレイとか超羨ましいんっすけど!」

「椅子に買ってきた荷物置いてるから足りないんだよ。後はほら、まずは初対面状態の楓と佐倉に打ち解けてもらおうと思って。その間は汐穂ちゃんとゲームしてようかなと。全然役に立ってないけどな、俺」

「いえ、縛りプレイに丁度良いですので」


 あれ? 俺って本気でお荷物状態?

 たしかに、タッグバトルなのに汐穂ちゃん一人で相手をバンバン吹っ飛ばしまくっている。

 対戦相手は、まさか獅子奮迅の活躍をしているのが女子小学生で一人でウロチョロしているのがおっさんだとは思ってないだろうなぁ。


「汐穂っちゲーム好きだよね~。うちでもよくやってるし。あたしをほったらかして。あたしをほったらかしてな」

「なんで私が姉さんの相手をしなきゃならないんです」

「え~? だって姉だぞ? 妹は姉の相手しなきゃだめじゃね?」

「最初はしてましたよ。最初は」


 汐穂ちゃんと楓は最近すっかり仲がいいので、ゲームを通してよく話しているらしいのだが。

 その楓からの話しを聞く限り、最初は「記憶の無い姉」を心配して色々と甲斐甲斐しく相手をしていたらしいのだ、汐穂ちゃんは。


 そして、すぐに今までと同じような塩対応に戻ったらしい。

 仲が悪いのとは違うだろうが、どうにも根本的に汐穂ちゃんと佐倉はノリが会わないようだ。


 まぁそれでいて俺や楓に姉の普段の様子を報告したり相談したりは頻繁にしているので、心配は変わらずしているみたいだけどもな。


「まぁまぁ。いつもはともかく今日は皆でお話しましょうよ。ってことで、ゲームはその辺にしてご飯にしましょ」


 楓がゲームを止める側に回るのは珍しいなぁ。


「ご飯って、何食うん?」

「今日はタコ焼きパーティっす! ほら、タコ焼き用のホットプレートもありますよ」

「あ~、タコパかぁー。いいじゃん」


 タコパなんて言葉があるのか……。

 楓のことだ、調べて知ってはいても実際にやるのは実は初めてなのに違いあるまい。

 当然、俺はやったことなどない。そもそもタコ焼いてパーティという発想がなかった。


「ほらほら、優人さん。準備よろしくっすよ」

「えぇ。俺、あんまりこういうのは詳しくないぞ?」


 凪音に色々と料理のことは教わったが、この手の焼き物はやる機会があんまりなかったのだ。

 このタコ焼き用プレートも今回わざわざ買ってきたのである。


「そこは私にまかせてください。こういう日の為に一人で焼く練習だけはしてましたので! 優人さんは下ごしらえとか手伝ってほしいなぁと」


 またサラッと悲しいことを言いやがるなこいつは。


「分かったよ。んじゃ、ちゃちゃっとやっちまうかぁ」

「あたしはなんか手伝わんでいいのかー?」

「私も、少しくらいはお手伝いを……」

「大丈夫っすよ~。すぐ終わりますし座っててくださいっす」


 だよな、タコとか切るだけだし。


 と、思っていたのだが予想以上に具材が沢山あった。

 俺がホットプレート買いに行ってる間に食材を買っていたのは楓だが、どうやらタコ以外にも色々なモノを入れて焼く気らしいな。


 流石、一人で研究してただけはある。

 買ってきた物の中にちゃっかりビールとか入ってるけど、大丈夫かね……。




 結論、あんまり大丈夫じゃなかった。

 最初は会話が盛り上がる程度であったのだが……。


「うぅ~、やっぱ私のことすっかり忘れられて正直ショックっすよ~。また仲良くしてくださいよ~」

「ちょ、泣きながら縋り付くなって――おぃでっち! うっとうしいぞこら!」

「あー、でっちって言ったぁ! でもあだ名で呼ばれるのちょっと嬉しいっす~」

「だぁ~! もうっ」


 ビールをちょいと飲んだだけでこんなことになるとは、相変わらず酒に弱いな。

 因みに汐穂ちゃんは、そんな楓を呆れたような表情で眺めつつタコ焼きを頬張っている。


「ねぇ、これどうゆう状況よ優人」


 突然背後から凪音の声。

 またいつの間にかバックを取られていた。


 今日は朝にちょっとだけ出てきて以降消えていたのだが……本格的に幽霊っぽい出現をするようになってきたな凪音の奴。


(えーっと、佐倉と汐穂ちゃんと楓とで、タコ焼きパーティという名目の親睦会をしているような感じかなぁ)

「あー、なるほど。うわぁ汐穂だ。なんか、懐かしいなぁ」


 凪音は汐穂ちゃんを見てなんともいえない表情を浮かべた。

 ……凪音からすると、汐穂ちゃんを見るのは久々だからな。


(俺から汐穂ちゃんに事情を説明しようか? 信じてもらえるかは、分からないが)

「ん? いいよ、汐穂を混乱させちゃうだけだろうし。私はそういうの大丈夫だからさ。ありがとね」

(そう、か。分った)


 凪音はあっさりと答えた。

 彼女の幽霊としての感覚は俺には理解しきれるものではないが、大丈夫というのが本当なのは伝わってくる。


 それに汐穂ちゃんの方からすれば、姉が記憶喪失なだけで意識不明という状態ではないのだしな。

 姉妹が互いに寂しかったり悲しかったりしないのなら、俺が無理に口を挟むことではないのだろう。


「ただ、この酔っ払い楓ちゃんには汐穂もびっくりしてそうねー。ドン引きしてないといいけど」

(それは、確かに)


 教育的にもよくなさそうだしなぁ。


「あー、ごめんな汐穂ちゃん。こいつ酒に弱くてな。俺が飲むのを止めてればよかったんだが」


 一応フォローを入れておこうと思ったのだが、意外にも汐穂ちゃんは首を横にふった。


「いえ。見てて面白いので、問題ありません。可愛いですし」

「か、かわいい……?」


 酔っぱらった楓が? ど、どの辺が?


 混乱する俺を尻目に汐穂ちゃんは立ち上がると、水をくんできて楓の傍に寄っていき。


「ほら、楓さん。これを飲んでちょっと落ち着きましょう」

「ふぇ~? 汐穂ちゃん?」


 佐倉に絡んでいる楓の頭を撫でつつ水をさしだした。

 なんだろう、このいたたまれない図は。


「姉さんは逃げませんから。こうして何度か遊んでいれば、きっとまた仲良くなれます――ですよね、姉さん?」

「えっ? おぉ。うん、超遊ぶ。よゆうよゆう。最近はゆう君ばっかりと一緒にいるんで地味だったし、楓っちいたほうが華があっていいかもな!」

「おぃこら、思っても口には出すなそういうのは」

「本当っすか~? えへへー、よかったです」


 丸く収まった、のだろうか?

 俺が地味なのは仕様なんでどうしようもないが。


「はぁ~、汐穂って楓ちゃんとあんな感じなんだ。仲いいとは聞いてたけど、流石にびっくりだわ」


 凪音が、楓と汐穂ちゃんの様子を見て感嘆の声を漏らした。

 俺もあそこまで仲良くなっているとは思わなかったので、びっくりではある。


「しかし、楓は泊まりパターンかなこりゃ」


 この酔っぱらい方だと帰るの面倒くさがりそうだし。

 そう思って呟いたら、佐倉が反応した。


「泊まり? 楓っちって、よく泊まるん?」

「え? あぁ、ここ最近はそんなでもなかったけど。一時期はよく泊まってたな」


 俺の言葉に、佐倉が不思議そうな表情になって首をかしげる仕草を見せる。


「ん~? なんつーかさ、ゆう君ってあたしより楓ちゃんと付き合ってたって感じの方が自然っぽくねぇ? 二人の雰囲気とか見てるとさぁ。年齢も近いし」


 う……そうか、そう取られるか。

 これは失敗だったかもしれん。


 凪音の方が俺と楓の仲をどうこうという感性が全くないので油断していたが、普通は男女の仲を疑われる距離感だよなぁ確かに。


「いや、俺と楓はそういう関係じゃなくてだなぁ」


 俺がしどろもどろになっていると、汐穂ちゃんに介抱されていた楓が割って入ってきた。

 されていたというか、今でも頭撫でられっぱなしだけども。


「私と優人さんはそーゆうのじゃないっすよ? 親友ですからね! でも、このまま佐倉ちゃんが優人さんを忘れてただの友達でいるようだったら、私が貰っておこうかなーとかも思ってますけど」

「ちょ!? おま、何言って」


 色々な意味で本当何言ってんだ、楓の奴は。

 佐倉の体の状態とかは説明しただろうに――。


「あー、なるほど。楓ちゃんそういうつもりか」


 俺が何を言おうか迷っていると、凪音が納得したように呟いた。


(な、何がなるほどだって?)

「うん。つまりさ、佐倉の性格をある程度確認した後、酔っ払ってフランクに接することで佐倉との距離感を一気に潰しつつ、優人のことを男性として意識させる布石を打ちたかったんじゃない。楓ちゃんの作戦としては」

(はぃ?)


 うっそだろ、そんなことまで考えてこの酔っ払い状態なの楓?

 本当にそうなら相変わらず恐ろしいやつだな。


「ん~、思い出すかどうかは知らんけど。貰うんなら貰っちゃっていいんじゃねーの? あたしから見てもお似合いに見えるぜー? ゆう君と楓っち」


 ――この佐倉の反応を見る限り、色々だめなんじゃないかその作戦。


(失敗してない? これ)

「そうでもないんじゃないかなぁ……意外と。それにさっきの楓ちゃんのは、佐倉の反応で優人をどういう風に認識しているのか確かめたかったのがメインだと思うし」


 そ、そうなのか。

 頭を撫でられつつ汐穂ちゃんに抱きついている姿からは想像もつかない心理戦を繰り広げていたということなのか。


 全然そうは見えんな。


「お似合いっすかぁ? でも、私から見たら佐倉ちゃんと優人さんの方がお似合いだったんっすよねぇ。前に二人が一緒に居た時は、見てるこっちがお腹いっぱいになるくらいでしたし」

「そ、そうなん? つっても、あたしは記憶にねーしなぁ」

「記憶ばっかり気にしなくてもいいと思うっすけどねぇ~。何にしろ、もしそうならなかったらそん時はこっちで引き取るってことで」


 おいこら、俺はペットかなんかか。


「だったら、姉さんがお兄さんをまた気に入って楓さんがいらなくなった時は、私が楓さんを引き取りますね」


 汐穂ちゃん!?

 何を言いだすんだこの子はっ。


「し、しほちゃん? あの~、私を引き取るっていうのは……」

「姉さんとお兄さんが二人でいるようになって、一人になっちゃったら寂しいでしょう? 楓さんも」

「えっ? それは、あの、そっす、ね?」


 すげぇ、珍しく楓が混乱している。




 しばらくして、流石に楓が限界間近になってきたようだ。

 宴もたけなわですがってやつかなこれは。


「おい、楓。お前もうふらふらじゃねぇか。完全に寝る前にちゃんと」

「まだらいじょうぶっすよ~。そーだ、佐倉ちゃんも汐穂ちゃんも夏休みっすよねぇ? 今度皆で遊びにいきましょー……よぉ~。いきたい……場所あったら……」


 全然大丈夫じゃないだろうが。

 こら、つっぷして寝るな。


「だめだこりゃ。ったく、ベッドに運ばないと」


 俺が立ち上がろうとすると、佐倉が突然何かを思いついたように口を開いた。


「あー、あたしはあるぜー。なんだか最近、妙に行きたいな~って思う場所」


 ……何?


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