第22話 高難易度だよ!
「いや~、ごめんなーゆう君? 実は昨日の夜、部屋に置いてあった漫画が面白くって徹夜しちまってさぁー」
いやぁ参った参った~。などと笑う佐倉。
あの後、佐倉を起こして紅茶を淹れ直したのだが。
凪音の言う通り、どうやら体に異常などはなさそうに見える。
寝不足だったので、一時的な気絶から流れるように寝てしまったのだろう。
「記憶を消して漫画とかアニメをもう一度楽しめるとか、ちょっと羨ましいわね」
凪音は机の上あたりに浮遊しつつ、俺にだけ聞こえる声で会話に参加している。
体を接触させてこないのは、佐倉との会話に集中できるように、自分には返事をしなくていいという配慮なのだろう。
「寝不足は良くないぞ? 若いとはいっても、体には毒だろうし」
「あーね~。分ってんだけどさぁ。あたし、立ち眩みみたいの多いしなぁ」
「立ち眩みが、多い?」
「そーそー。流石に今回みたいに気を失っちゃうってのは初めてだけどな。鉄分たりてねーのかな?」
「多分、貧血とかとは違うと思うが……」
これは、凪音の言った通り体に無理がき始めているってことなのだろうか?
その割には余裕ありそうに見えるが。
「そのうち、本当に気絶するようになると思うけどね」
補足するように凪音が呟いた。
こうして普通にしていられる期間は長くないということだろうか。
凪音の言うことが絶対当たっているという保証はないが、これは早めに対処しておくしかあるまい。
その方法が問題なのではあるが……。
「まーつっても、なんだかんだ元気だから大丈夫だって。気にしないでいいぜー?」
「あ、あぁ。分った」
気にしないわけがないだろ。
――とは思うが、今はそれを言ってもしょうがない、か。
「あ~。ところで、佐倉は今日何をしに来たんだ?」
「はぁ? 遊ぼーって言ったじゃん」
そういや、玄関でそんなこと言ってたっけか。
突然遊びに訪ねてくるとか、小学生みたいだな。
「友達ってそういうもんじゃねーの? ほら、あたしってば学校で超浮きまくってるから、友達とか中々できねーし。汐穂っちはすぐ誰かとゲームはじめちゃうしなぁ~」
それは、楓のせいかもしれない。
最近は汐穂ちゃんとオンラインで一緒にゲームやってるって言ってた気がするし。
「ってことで、この際ゆう君でいいかなって。遊ぼうぜ?」
「でいいかなって……まぁ、よくぞこんなおっさん相手に遊ぼうと思ったな、とは思うけどよ」
「そう? つきあうとか恋愛は知らんけど、遊ぶくらい別によくね?」
う~ん。
一般的にどうかはともかく、幽霊の凪音とあちこち遊びにいってた事実があるので否定できない。
「やっぱこいつなんも分かってないわ。優人は慣れてくると恋愛相手としてみても可愛いのに」
凪音が空中からいらんツッコミをいれてくるが、全然フォローになっていない。
可愛いとか言われても全然嬉しくねぇよ。つーか、俺みたいなおっさんがどこをどう見たら可愛いんだよ。
「えっと、遊ぶのは構わないが。何して遊ぶんだ?」
「ノープラン~。本当はどっか出かける気で来たんだけど、変に寝たら急に体だるくてさ~。今日はだべるだけだべって帰っかなーって」
「そ、そうか。まぁ無理はせんほうがいいだろうな」
お茶だけして帰る、みたいなテンションってことか。
実はモロに心霊現象を味わった後なのだから、だるいのは当然かもしれん。
帰りは車で送っていこう。
「しかし、話すっていってもな。俺は女子高生が好きそうな話題なんて分からないぞ?」
「またまた~。ゆう君はあたしの彼氏みたいなもんだったんだろー? JK手玉にとるくらいはお手の物なんじゃねぇの?」
「ぶふッ! ゆ、優人がJKを、私を手玉……! ふ、ふはッ」
おいなにわらってんだ凪音ちくしょうてめぇ。
「あ~、前も言ったけどさ。俺とお前はこう、恋人つーか親友つーか、一言では言い表せない関係だったんだってば」
「そういや、んなこと言ってたっけなぁ? なんつーか、超めんどくせー関係だったんだなあたしら」
心底めんどくさそうな表情で口にする佐倉。
それに対して、凪音が不思議そうに口を開いた。
「えー? 超分かりやすいのに。私は優人を超愛してる! ほら、簡単」
凪音さん、ちょっとそういうのは後でお願いしていい?
突然俺の顔が赤くなったりすると、佐倉から見たら変な人になっちゃうんで。
俺が努めて感情を顔に出さないようにしていると、佐倉の方も不思議そうに口を開いた。
「つってもさぁ、恋人っぽい感じではあったんだろー? だったら、またあたしのこと口説こうとかは思わねーの?」
「え? いや、それは――」
どういう意図の発言だこれは?
まさか口説いてくれるのを期待しているとか、そういうわけではないのだろうが。
「優人、こいつなんも考えてないよ。ただ思ったこと口にしただけだと思う。今の佐倉の優人への感情は、本当にただの友達って感じかなぁ。でも、なんだかんだ割と好意的には感じてるみたい」
な、なんだと?
なんじゃその分析は。どっから出てきた?
「だから、取り合えず今は無難に答えておけばいいよ。あ、でも好意はある、程度のチラみせはしていこっか」
えぇ……なにその何気に要求の高いアドバイス。
うーん、しかし佐倉凪音本人のアドバイスなのだ。従っておくべきか。
「口説くっていうか、あの。元々、前も佐倉を口説いたわけじゃなくってだな。いつの間にか惹かれあったつーか。あ~、その、今の佐倉も嫌いじゃないんだぞ?」
「下手くそか!? もっと自然にできるっしょ! いや、優人にこういうの期待した私も悪いかもだけどっ」
そうだよ! 意図的に自然な好意のチラみせって高難易度だよ!
「ふ~ん? いつの間にかねぇ。あぁでも、あたしもゆう君嫌いじゃなぜー? 惹かれあうかは知らんけどな! 嬉しいっしょ~?」
佐倉はといえば、割と爽やかに笑いながらクッキーを齧りつつそう答えた。
多分、これもなにも考えずに答えているということなのだろうが。
「あ、あぁ。嬉しいかもな」
「かもってなんだよかもって。もっと喜んでいいぞ~?」
あぁ、なんか凪音と話しているのとはまた違った趣があってめんどくせぇ。
どうしたもんかなと思っていたら、凪音が不満そうな顔になっていた。
「こいつぅ……なにが、嬉しいでしょ~、よ。なに様なわけ?」
おいおい自分に喧嘩腰になってどーすんだ。
凪音は基本穏やかな性格だと思ったが、自分相手だと遠慮が消滅するせいもあってか妙に攻撃的だなぁ。
これも、自己嫌悪とか同族嫌悪とかに入るのだろうか?
「チッ。今はいいか。こんなこと言ってるけど、こうやって会話しててもちょびっと好感度上がってきてるっぽいし」
はぁ!?
まさか凪音のやつ、佐倉の好感度とかリアルタイムで分かるのか!?
「ふっ、ふふふ。みてなさい? そのうち絶対、優人なしではいられない体にしてやる!」
ちょッ凪音さん!?
何あぶねー野望を勝手に決めてんだおぃこら!
「あ~、その。嬉しいつーか、嫌われてないのなら安心したよ」
「嫌わないってーの。あはは、ゆう君ってある意味おもろいよな~。今日はあんまり長居は無理めだけどさぁ、今度まだ遊ぼー?」
「まぁ、俺が捕まらない範囲なら」
「捕まる? あぁ、そっかそっか。あたしが訴えたら速攻ゆう君犯罪者になっちまうもんな。うけるわっ」
全然うけない。洒落にならん。
「んなことしようとしたら、取り憑いて沈めるけどね」
凪音が自分に向かって物騒なことを呟いている。なんか怖い。
「ま、そんなことしないから安心しなってー。あたしもほら、ちょっと記憶はねーけど元々身持ちは固かったみてーだし。健全なお付き合いてーの? しよーぜ?」
「あー、うん。はいはい。健全にな」
「体あるんだからとっとと一線こえちゃえばいいのに。優人のへたれ」
そんなことしたら訴えられなくても捕まるわ。
「そいやさぁ。ゆう君料理できるんだろー? ちょっと寝たら腹減っちゃってさ。なんか作ってよ! あたし、できたてのやつ食べてみたいな~?」
「え? そりゃ構わないが……。何が食べたいんだ?」
「んぇ? えーっと、すっげーうまいもん食いたい?」
アバウトすぎるわ。せめてジャンルを言ってくれ。
「遠慮のない奴ねぇ。でも、ここは好感度の稼ぎ時かなぁ。よし、優人。超豪華なパンケーキとか焼こう。こいつ馬鹿っぽいしそういうシンプルで映えそうなのが有効だと思う!」
……自分を馬鹿にしてる自覚あるんだろうか凪音のやつ?
まぁ、俺もよく凪音に馬鹿って言われるし、案外とこいつの馬鹿は好意的な意味合いなのかもしれないが。
パンケーキねぇ。
まぁ時間かからないし、簡単に豪華感を演出できるメニューではあるか。
「簡単なものでいいか? パンケーキとか。トッピングとかで何種類か作れるけど」
「おぉ!? うん! それでおなしゃす~。どんなの出てくるか楽しみだぜー。あたし好みのトッピングあるといいなぁ」
「優人は私の好きな味なんて、お手の物よね?」
そりゃな。どんだけ一緒に暮らしていたと思っているのだ。
佐倉凪音の好き嫌いくらいは把握してるさ。
「分かった。作ってくるから、アニメでも見ててくれ」
好きなアニメだって、当然知っているとも。
っていうか、家にはボックスで買ってあるしな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます