第7話 真の恋バナ

 自分の操作するキャラが空中で二度三度と蹴り飛ばされて、画面の外までぶっとんでいった――。


「だっー! もう、勝てるかっ」

「へっへ~ん。年季が違うんっすよ!」


 なんて分かりやすい勝ち誇り方をする奴だ……。

 しかし、実際まともにやられるとマジで勝てない。俺もまったくのゲーム初心者ってわけでもないんだけどなぁ。ブランクが長すぎるか。


 今日は、凪音と一緒に楓の家に遊びに来ていた。

 二人で肝試しデートをした時に、そのうち楓の所に遊びに行こうと話していたのでそれを実行したというわけだ。


「あーもう休憩。ちょっと休憩にしようぜ。飲み物淹れてくる」

「私の分もお願いしますー」

「はいよ」


 コーヒー二つ。凪音は紅茶か。などと考えつつ立ち上がると。


「あ、私淹れてくるよー? 二人はコーヒーでしょ」


 最初に脱落し俺と楓の決着を眺めていた凪音も、立ち上がろうと腰を浮かす。

 だが、急に立ち上ったせいか? 何もない所で凪音は足がもつれたように転びかけた。


「あっ――」


 凪音が転びそうになる。というあまりにも不慣れな状況に、俺の体は過敏に反応してしまう。

 具体的にいうと、体ごと抱き留めにいってしまった。


「うぇっ!?」


 急な状況の変化についてこれないのか、若干パニック気味の表情で俺の腕の中からこちらを見上げる凪音。


 だが、悪いがこっちも割とパニクっている。

 だって、なんか髪からシャンプーの匂いとかするし。こういう距離感は初めてじゃないにしろ、不意にこの密着度はなんつーか、よろしくない。


「す、すまん。咄嗟だったもんで」


 なるべく平静に見えるように装いつつ、腕を離して彼女を解放する。

 解放、したんだけど。


「……おぃ。どした?」


 凪音がしがみついて離れない。


「え? 折角だからもうちょい補充しておこうかなって。普通に抱きつこうとすると、優人照れて逃げ腰になるんだもん」


 いや、そんなこと言われても。

 だからってこの状態が長く続くのはよろしくない。非常によろしくないぞ。


「あ~幽霊の時は何にも触れなかったせいで異常に人肌恋しいんだったよな! そうだったそうだった」

「何その変な口調? そういう理由とはちょっと違う気もするけど。まぁいっか」


ちょっと違うのか、どう違うんだろうか?

いや、でも今はそれよりも。


「あ~、やっぱ優人との距離が近いとなーんか落ち着くぅ。これさぁ、服とかなしで直接の方がもっと落ち着くんかな?」

「ばっ、おま、絶対今脱ごうとすんなよ!?」


 お前からは見えないだろうけど、俺にはずっと見えてるんだからな!


「――あんたらねぇ……そういうのは余所でやってくださいよ!?」


 リア充マジで爆発しろっ! って表情の家主が。






「あはは~、ごめんってばぁ。珍しく優人からくっついてきもんだから、つい我を忘れただけでさぁ。楓ちゃん忘れてたわけじゃないからっ」

「だからって……だからって私の目の前であそこまでイチャつきます普通!? いや、イチャつくのは全然いいっすけどなんでよりによって独身OLの部屋で!? 嫌がらせっすよこれ!」

「ちがうってばぁ~」


 ぶちギレた楓に凪音が抱き着きつつ弁解? を初めて数分。

 ここで俺も一緒になんか口を出すと逆効果だろうなぁと思ったので、こっちは予定通りに飲み物なんぞをいれておくことにした。


 しかし、二人の距離が近い。

 凪音の人肌恋しさからくる抱き着き癖のようなものは、実際あるみたいだな。

 それにまぁ、ぶっちゃけ楓はなんか抱き心地よさそうではある。


「ほらお前ら。コーヒーとか入ったから、じゃれあうのはそれくらいにしとけー」

「お。あんがと優人~」

「ちょっ、凪音ちゃっ……中まで手いれちゃだめっすよっ」


 凪音は答えながらまた楓の胸を揉んでいるらしい。いいぞもっとやれ。

 じゃなくて。


「ほら凪音、同性でもセクハラは成立するらしいぞ」

「えー? それ言ったら優人だって花見の時に楓ちゃんの感触楽しんでたじゃん!」

「なんだその濡れ衣は!?」

「私そんなのされましたっけ?」

「だっておんぶしてたし、背中あたってたでしょ?」

「あれは酔いつぶれてたからだろーがっ!」


 凪音が戻ってきた時に、三人で花見にいく、という目標は果たしたものの。しっかりと楓が酔いつぶれてしまったのだ。

 それで俺が背負うことになったわけだが、別にやましいことをしたわけではない。

 断じてないったらない。


「あ~、あれっすか。でもまぁ、別に優人さんならその辺は適当でもいいかなーって感じっすけどね」


 ……なんか凄く馬鹿にされている気もするけど、信頼の証なのだと勝手に解釈しておこう。


「ふ~む? そういやさー。お花見の時は結局聞けなかったけど、私がいない間に二人ってすんごい距離近くなってるじゃん? 何があったか詳しく聞きたいなぁって思ってたんだよねぇ」

「――え?」

「優人さん、まだその辺ちゃんと話してないんっすか?」


 それは、その。


「バタバタしてたし。えーっと、正直あんまり話したくなかったし?」


 だって、要約すると俺が泣いて楓に慰められた……って話しになっちゃうんだが。


「って優人は言うと思ったから~、今日はそれを聞きに楓ちゃんちに来たってのもあるんだよね! なんかノリでゲーム大会はじめちゃったけど」

「なるほど、そういうことだったんすか。独り身の私に嫌がらせをしに来たわけではなかったんっすね!」


 なんでわざわざ休日に嫌がらせにこなくちゃならんのだ。

 そんな悪趣味なことするほど暇しとらん。


「つっても、もう結構いい時間だぞ? 凪音は門限とかどうなってるんだ?」


 途中、軽く食べ物をつまみながらなんか映画とか動画でもかけておく? みたいな話になったんだけど。その際に凪音と楓がアニメが好きかどうかって話しで盛り上がってしまったからな……。

 楓はゲームは好きだけどアニメはそこそこ程度、凪音はある特定の子供向けというか女児向け? アニメ作品がえらい好き、ということだった。


「ん? あぁ、私今日は泊まるつもりで来てるし。だから荷物持ってきたんじゃん」

「あぁ、これ泊まり用だったんだ――って泊まりっ?」


 やたらでかいバック持ってんなぁと思ったら、お泊りセットかよ。


「えっ? 凪音ちゃん、ウチに泊まるんっすか?」

「だめかな? 積もる話もあるかなーって思って」

「あ~。いや、別にいいっすけど。ベッドは一つしか……布団とかもないですし」

「楓ちゃんと私なら二人で寝れるんじゃない?」

「凪音ちゃんがそれでいいんならいいっすけどね~」


 なんかあっさり泊まる話しがまとまっている。


「ふふーん。これでやっと、優人抜きにして女だけの真の恋バナできちゃうね!」

「そういやそうっすね! 私と凪音ちゃん二人っきりで話すのなんて初めてですもんねっ」

「――それは、確かに居たくないな! 是非抜きでやってくれ」


 恋バナという単語にいい思い出がないしな。すぐ帰ろう。

 しかし、この二人が二人きりで会話かぁ。

 どうなることやら。


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