第4話 さらっと一生
「おい凪音さんや」
「何よ」
「俺は今ごろになって思い当たったことがあるんだが」
「言ってみなさい」
「お前、今日学校あったんじゃないのか?」
顔を逸らすな顔を。
その割に腕は離さないままだけれども。
なんで急にそんなことに思い当たったのかというと――。
廃坑の歴史を知れるという施設……つーか、まんま廃坑を資料館みたいにした場所なのかな? パンフを見ると内容的には洞窟探検みたいな感じが近そうだ。
そこを訪れた俺たちなのだが、どうやら最初はトロッコ列車みたいなのに乗って移動するらしい。
トロッコ乗り場の駅みたいな場所に行くと、小学生が大量にいた。
どうやらここは遠足スポットでもあるらしく、丁度遠足にかちあったみたいだ。
そういや駐車場にバスがあったわ。
小学生たちがトロッコを待って並んでいる列の隅っこで、他の数人の一般客と混じって並びつつ――はたと気がついた。
学校行事の遠足って、普通平日にやるよな?
今日は仕事がたまたま休めた。
じゃあ予定を空けておけと凪音に言われて、そのままデートだなんだとここに来たわけだけど。当然凪音は学校があるはず。
凪音がもう普通の学生だと頭では分かってはいるんだが、なんか普通に毎日学校に通っているイメージまでは追いついていなかった……。
――ってことで。要するにこいつ、サボリやがったな。
「凪音さん?」
「べ、別にいいじゃん! 減るもんじゃないし!」
いや、減るだろ。出席日数が。
「はぁ。別に、俺もそんな真面目な生徒でもなかったし。うるさく言う気は正直全然ないけどな。ただ一応俺は一方的に大人だから言っておくが、なんかあるんなら言えよ?」
サボること自体は別にいい。
学校をサボるデメリットをこいつが理解していないわけがないのだ。
その上で、サボっても別に問題ないと判断したんなら俺から言うことはない。
けれど、問題を自覚しつつもなんらかの理由でサボる選択をとっているんなら話しは変わってくる。
「なんかって?」
「なんでもだ」
「……急に年上みたい」
「いや、お前おっさんってよく言ってるだろが」
「そういう意味じゃなくて~。優人は実際大人だからなぁ」
拗ねるというか、何かに困ったような顔でこぼす凪音。
そうだよ。たまにちょっと悲しくなるくらいには大人なんだよ。
凪音と同級生だったりしたら、また俺たちのノリもまた違ったのかもしれんが。
いや、それだったらそもそもこんな関係にはなってないだろうけれど。
「まー悩んでることはあるよ、正直言うとね。留年生ってやっぱ学校じゃ目立つし。それに、他にもまだ優人に言ってないことも、あるっちゃある」
……なるほどな。
わざわざ妹のフリしてまで俺に正体を隠そうとしていたくらいだ。
色々と隠していることがあっても不思議じゃない。
それらも恐らく、多くの部分が元幽霊だったことに起因するんだろうが。
「でも、また留年するくらい学校サボりまくってるわけじゃないし。他の悩みもまだ優人に話す段階じゃないかなって思う」
「なんで段階踏む必要があるんだ?」
俺にできることは限りがある。けどいざとなれば、例えば凪音一人を一生食わせるくらいは少なくともできるはずだ。
だから、言ってくれれば――。
「優人はさ、私が困ってるってなったらなんでもしちゃうでしょ? こんな段階からそんなのされたら絶対甘えちゃうじゃん。私は一生甘え続ける気なんて、ないんだから」
なっ。
なんか、すごく大人な意見で返された!
あっれぇ? さっきまでは俺の方が大人っていう話しだったのになぁ。
っていうか。
「お前、さらっと一生傍にいる気なんだな」
「――!? ばっ! 今更そこに注目すんなっ!!」
まぁ、俺も今思うとさらっと一生凪音といるつもりだった気がするが。
今は深くは考えまい。
それより。
「凪音が叫ぶから……」
「ふぇ?」
列の後ろの方の小学生たちがめっちゃこっち見てるじゃねぇか。
「おねーちゃんたち、恋人ー?」
「腕くんでるもん、恋人にきまってるよ」
うわぁ。そして話しかけられてしまった。
俺、子供と話すの苦手なんだよなぁ。しかも女児だし。二重で苦手だ。
「あ~。腕組んでるから恋人とは限らないじゃん? ほら、このおっさん大分年上っしょ? おにーちゃんとかおとーさんかもしれないじゃん?」
凪音が対応してくれたけど。お父さんはないだろ、流石に。
「え~? どっちも大人じゃん」
「そうだよねぇ」
「うっ、マジ? そう見える?」
どうやら、小学生からすると高校生以上は皆大人に見えるらしい。
自分がこのくらいの時はどうだったか、もう覚えてないなぁ。
「ん~。ま、なんていうかあれかな。おねーちゃんたちはー、恋人だったり兄妹だったり親子だったり友達だったりセフレだったりするかもな感じなの。今んところね」
「あほかっ!?」
「んぇ?」
なに小学生の前でデンジャラスな単語さらっとおりまぜてんだ!
列の前の方にいる引率の先生がすごく怪訝な顔でこっちを警戒しはじめちゃってるじゃねーかっ。
「あぁ、ごめ。セフレの意味とか知らないよねー」
「そこじゃねぇよ! もうお前ちょっと黙っとけ!」
「けんかー?」
「違うよ、ちわげんかって言うんだよ」
お前らも黙っとけ小学生!
「いやー、やっぱ子供はかわいいねぇ」
コットンコットンとえらくのんびりした速度で進むトロッコに揺られながら、ほっこりした表情で呟く凪音。
トロッコが到着し、小学生たちはまとめて先に乗っていった。
俺らは次のトロッコに乗り込んだところである。
「その子供に変な単語を吹き込むんじゃないよ」
「あはは、ごめんごめん。小学生にセフレは確かにまずったわ」
「っていうか、小学生関係なく言うこっちゃないけどな。セフレってお前」
「そーねぇ、私と優人だとちょっと違う意味のパパ的な感じがねー」
「だからぁ、そういう問題じゃなくてっ」
もう、こいつはほんとにっ。
「大体お前、仮にそんな関係になっちまったとしても本当にいいのかよ?」
今の、これからの俺たちには色々な関係があり得るのであろうとはいえ、流石にセフレはないだろうと思うのだが。
「ん~……」
周りを囲む山々や、標高が高いせいか今さら綺麗に咲いている桜を眺めつつ考えこむ凪音。
隣に座ってそうしている彼女は背景も合わせると凄く綺麗で絵になるけど、まさかセフレのことについて頭をひねっているとは傍からみたら想像できまい。
「幽霊のころはさぁ。優人が幸せになってくれるんなら、なんでもいいって思ってた。あん時は体なかったけど、それこそセフレだろうがなんだろうが、本当に関係性なんてどうでもよかったんだよねー」
……確かに。幽霊の凪音は言っていたな。そんなようなことを。
「今の私は~。――正直、わかんないや」
「わかんねーか」
「うん。ま、でもさ。優人と沢山いっしょにいれば、そのうち段々分かってくるんじゃない?」
「はぁ~。そうかい。んじゃ、そうしよう。ただセフレはない」
「りょーかぃ。セフレはなしねっ」
そもそも、彼氏も作ったことないやつにそんな関係は無理じゃないか?
とは言わないでおいた。
絶対藪蛇だし。
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