JKのいる生活と新しい日常
第2話 大丈夫?
「ふぅ。しっかし、朝はびっくりしたなぁ」
仕事帰り、自宅への道を歩きつつも今朝のことが思い出されてしまった。
まさか、こんな速攻で凪音がウチに来るとは思ってなかったからなぁ。しかも朝っぱらから。
勿論、驚きつつもとても嬉しかったんだけれど。
「しかも弁当まで……」
健康にも気を使ったメニューみたいだったが、幸福の過剰摂取でそのうち体がどうにかなんじゃねーかなとか思えてくる。
普通に考えて、俺のようなやつには過ぎたアイテムだろう。
楓のやつもお昼食べた時に。
『そのお弁当って――凪音ちゃん? 凪音ちゃんが作ったとか? ……やっぱり! うわぁっ、JKの手作りお弁当持参とか世の中舐めんてんっすか!? ってか凪音ちゃんの手作りいいなぁ!』
とか、訳の分からんキレ方をしてた上に弁当ちょっと取られたし。
実際、楓と凪音の二人は相当に仲がいい。
こないだ公園で凪音と再会したあと、当然楓にも連絡したんだけど。そうしたらすぐにすっ飛んできた。
言ってみれば実質それが初対面みたいなものなのにも関わらず、二人して泣いて抱き合うほどの感激っぷりだったぐらいだ。
挙句、抱き合ったまま凪音が楓の胸を揉みまくるし。
『なんで私より背が低いのにこんなにおっきいの!?』
って、なんか泣いてる理由が後半から変わってたんじゃねーのかなあれ。
幽霊の時の凪音はそういうのあんま気にしてなかったと思うので、これも生身に戻ったことによる変化と言えなくもない、のかもしれん。
その後は、いつか話していた通りに三人で花見に行って、案の定酔いつぶれた楓を背負って帰ったりしたんだけど。
あのはしゃぎようを見れば、楓も相当に凪音が帰ってきたことを喜んでたのは間違いない。
なんて思い出してるうちに自宅についたので、鍵を開け……て? あれ?
「あい、てる?」
おいおい、これってまさか。
恐る恐る中に入ってみると、電気もついているし、なんかいい匂いもする。
「んっ? おー、おかえり~。ってかおつかれー」
そして、エプロン姿の凪音がひょっこりでてきた。
「た、ただいま……?」
「ん~。もうご飯できるよ。あ、カレーね。一応お風呂もはいれるけど、どする?」
「風呂まで沸いてんの!?」
なんだその至れり尽くせりっ。
「いや、あのさぁ、凪音」
「うん?」
「すんげーありがたいし、別に文句言うつもりはまったくこれっぽっちもないんだけどさ」
「うん」
「ここまでしなくていいんだぞ、マジで。俺は凪音が元気にしてて、また会うことができただけで十分つーか」
「うん?」
なんでそこで「何言ってるのかわからない」みたいな顔になるっ?
「十分だけどもっと会いたいからここにいるんじゃん」
「う……そりゃまぁ、俺もなるべくなら一緒にいたいんだけどさ。凪音はもう幽霊とかじゃなくて普通の女子高生、つか女の子だろ?」
「優人の口から普通の女の子とか言われると妙に恥ずいね?」
茶化すなよ。言いたいことはわかるけれどもっ。
「あ~、だからさ。もう時間も時間だし、家族も心配とかするんじゃなのか? 学校だってあるだろうし」
この前ちらっと聞いたところでは、凪音は留年しているらしいからな。
ずっと入院してたから無理もないけど。
家族のことにしたって……そういえば俺、凪音の家族に会ったことないのか。
いずれその辺もなんとかしないといかんかなぁやっぱ。
今の関係性のままでは、下手に会いにいくわけにもいかないが。
「心配性かっての」
「いって! 脛を蹴んなこらっ」
「ふふんっ。今の私はちゃんと触れるんだから、蹴れる時は蹴っとかないとね!」
蹴れる時ってなんだ蹴れる時って!
「その分、そっちも触りたい時はばんばん触っていいよ。ほら、疲れてる時は言うんでしょ? 大丈夫? おっぱい揉む? とかなんとか」
「なんで触るイコール胸なんだよ。ってかどこで言われてんだそんなこと」
今のJKは疲れたらおっぱい揉むのか?
若者って怖い。
「別に胸じゃなくてもいいけど、男は好きだっていうからさ」
「好きだけども。そういうのはほら、一線を越えた男女のやることなんだよ普通は」
「私ら一線どころか色々越えてない? 死線とか」
「言い得て妙なことを……」
確かに越えているのかもしれんが、だからってここで流されて胸なんて揉んだ日には自分が何をするか分からない。
幽霊の時の凪音には、不思議とどういう格好していてもそういう感情はあまり浮かんでこなかったし。そもそもどの道触れなかったわけだが。
今は、やろうと思えばなんでもやれてしまう。
そのうえ、おそらく凪音自身も俺が手をだしたら拒絶しないであろうあたり質が悪い。
「そこはほら、凪音も言ってただろうが。俺らの関係はまだよく分からんって。はっきりさせるまではそういうはっきりした行為は控えたほうがいいだろ?」
「そう? ま、優人がそー言うんなら別にそれでもいいけど。でも、私からは遠慮なく触るけど、ねっ」
凪音は言うや否や、俺の方に倒れ込むようにして抱きついてきた。
ちょっ――結局俺の理性が試されるんかい!
「あの、凪音さん? これ、一日中着てたからその」
「ん~? ちょっと汗くさいね」
「だから離れろってば、せめて着替えをだな」
「それはそれ、これはこれ~」
おでこでぐりぐりすんなっ。
「これってどれだよっ」
「説明してほしいん?」
凪音は、しっかりと抱き着いたままで喋り始めた。
声の振動が直接体に響いて、なんかこそばゆい。
「私ってしばらくすけすけだったからさー。最近は妙に人肌恋しくって。家では妹に抱き着きまくって解消してるけど、やっぱ憑りついてた相手の方がしっくりくる的な? 幽霊の時は体の境界線とかが曖昧だったからかなぁ」
なんか分かるような分からないような理屈だな。
そして、本物の妹さんには同情を禁じ得ない。
実際どんな子なのか知らないが、構われ過ぎてフシャー! ってなってる猫のイメージが思い浮かんだぞ。
「っていうのが建前でー。本音は、ぶっちゃけよく分からん。優人にくっついてるとなんか落ち着く。離れると落ち着かない」
「……そりゃ、シンプルな本音だなぁ」
お前らしいよ。ある意味。
抱き着く凪音の頭にぽんっと手を置いてみる。
胸は揉めないにしろ、これくらいならいいだろう。
「ちょっと、髪型崩れるでしょーが」
「あ、すまん」
違う理由で駄目だった。
生身の女の子の難しさよ。
「冗談だって。ま、頭はしっかり髪をケアした後にまた撫でまくってもらうとして。今日のところはこれで勘弁したげようかな」
そう言って、凪音はさっと俺から離れるとエプロンを外し始めた。
「勘弁って、帰るのか?」
「優人をあんま心配させると悪いしね。ご飯は好きに食べちゃって。お風呂もね」
「あぁ、ありがとうな。凪音を送った後で食べるよ」
「ん? 送ってくれんの?」
「そりゃな。夜だし」
「女の子だし?」
「――あ~、そだな」
俺の答えに、凪音がへらっとした笑みを浮かべる。
こいつのこういう笑顔にはどうにも弱いんだよなぁ。
いや、どういう顔にも大体弱いんだけど。
「そっかそっか。んじゃ、頼んじゃおっかなぁ」
「あぁ、そういうのはいくらでも頼んでくれ」
車で送っていこうかと思ったのだが、凪音は自転車で来ていたので無理そうだ。
なので俺が自転車を押しつつ、歩いて凪音を送っていくことになった。
お互いの近況とか、幽霊だったころの話とかをぽろぽろと話しながら歩いていたのだが。
不意に凪音が立ち止まった。
「――? どした?」
凪音は道、というか。何もない空間をじっと見つめた後、答える。
「そだ、優人に付き合ってもらいたいことがあったんだ」
「付き合ってもらいたいこと? なんだ?」
まぁ、凪音が付き合えというならなんでも付き合うけれども。
「肝試し兼デート? みたいな感じ」
……はぃ?
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