第39話 メグルとリリーと
「よし。おまけのおまけ!」
そう言って僕はブローチを両手で包み込んだ。
魔力を込めブローチ内の金属分子を
こうすれば…磁石の完成だ。
魔法とは原子よりも小さな魔粒を操り、起こす現象なので、このような事ができてしまうのだ。
しかし魔粒を一つ一つを
その為、いくら魔力の扱いが上達したとしても、一粒一粒を扱うのは困難。
僕ぐらいだと、
魔粒にも様々な性質があり、例えば水素と結合する物や、酸素と結合する物もある。
これらを引き寄せるには当然違う性質の魔力を用いるので魔法に得手不得手が出てくるのだが…。
原理を深く理解している僕は魔粒の反応を感じて魔力をチューニングできてしまう。
その為、時間をかければ何でも操れるようになるのではないかと思うが、やはり操りにくい物はある。
僕は磁石になったブローチから手を離す。
そして、こちらも同じく金属で作った矢の小型模型を彼女の胸のあたりに突き立てた。
リリーはビクッとして目を閉じたがいつまで経っても襲ってくることのない痛みを不思議がってか薄っすらと目を開けた。
「僕が今お守りの魔法をかけたからね。こうやって本当に危ない事があると守ってくれるんだ」
そう言って僕が手をどかすと、矢を引きつけ、その身で防いだブローチがあった。
実際の大きさの矢を引きつける事などはできないが、相手もそれは理解しているはずだ。
…ちょっとロマンチックな話をしたい気分だったのだ。
少し冷静になると急には恥ずかしくなって彼女の顔が見られなくなる。
目を逸らせばいつの間にか興味深そうにこちらを睨む二人の視線。
僕はもう耐えられなかった。
「それじゃあまたね!」
メグルという男の子は突然走り出すと窓に足をかけた。
一体何をするつもりなのかと私は駆け寄るが、彼はそれよりも先に窓辺から飛び降りる。
「まって!」ここは二階なのに!
私は
そしてこちらに振り向くこともなく走り去る。
その姿を見て私は力が抜けた。
本当に無茶な事をする子だ。
いや、彼の中ではそうでないのかもしれないが、見ているこちらがひやひやする。
と、窓から身を乗り出して大きな声を出した私に、村中から視線が飛んできていることを感じた。
それに気が付いた瞬間プレッシャーで押しつぶされてしまいそうになる。
いや、彼は私に勇気をくれた。それにお守りだってある。
まずは一歩。一歩歩み寄ってみよう。
そうすれば何かが変わるかもしれない。
私は彼から貰ったお守りをギュッと握ると大きく息を吸い込んだ。
「こ、こんにちは…」
私は消え入りそうな声と共に窓の
完全に外から姿が見えなくなると私はやっと息をする事ができた。
大丈夫、怖くない。大丈夫、怖くない。
私はお守りを強く握り、呼吸を整える事で何とか正気を保てた。
あんなに大勢の人に見られた。
それに声もかけてしまったんだ。
…でも何があってもこのお守りが守ってくれる。
だから大丈夫なんだ。
…落ち着いて考えてみれば、これだけの事をしたんだからもう怖い事なんてないんじゃないかと思う。
思うだけで怖いことには変わりないのだが…。
彼の事を思えば…多分、頑張れる。
「お姉ちゃん。私お祭り行く」
私の決断に、お姉ちゃんは
そして、少し時間を空けると、思い出したかのように「行くか」と腰を上げた。
それに釣られたようにコランさんも立ち上がる。
村に出るのはいつ振りだろうか。
この家に来た時、以来かも知れない。
玄関に出ると足や手が震えて中々うまく
「大丈夫か?…無理しなくてもいいんだぞ?」
お姉ちゃんはそう言うと心配そうにこちらを見つめてくる。
しかしこれは初めて私自身で決めた事なのだ。
絶対にやりきる。
私は自分に言い聞かせるように「大丈夫」と返事を返す。
岩の様に重たい扉を少しずつ開く。
その隙間からは今まで拒んできた優しい日の光が流れ込んできた。
祭りの
「よし…」
こうして私はまた一歩、新しい世界に踏み出した。
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