060 イースターエッグ


 世界はまず何も無かった。


 まったくのヌル。天地未だ別れず、陰陽一体なりし無。時間と空間という概念すらそこには無かった。かに思えた――。


 なにもない時空にいつの間にか一個の存在があった。それは生まれた訳ではない。ただ、いつの間にかあったのだ。


 その存在は万能だった。


 万能のそれは神と呼ばれるものであった。


 神はまず世界を作った。神は万能であるからして、一瞬にして世界の全てを創り上げた。天が生まれ、地が生まれ、広く果てしない宇宙はその時から膨張をはじめた。


 創り出された世界を見て満足した神は、しばらくすると自分が暇を持て余している事に気がついた。万能の神は万能であるからして、瞬時に自らへの慰みを創り出した。


 自らに模して創ったそれは人間と呼ばれた。神はこの存在をいたく気に入り、愛した。


 世界はこの愛すべき人間を軸に廻り始めた。


 だが、神は茶目っ気のある存在だった。自らが創り出した完璧な世界に遊び心を加えた。それは神の創り出した隠された卵――イースターエッグと呼ばれる常ならざる存在。


 新たな扉を開けるように、神は次々と世界に隠された卵を仕込んでいった。


 それはやがて孵化し、創造主である神の手すらも離れて世界を跋扈しだす。


 だがそれらは常人には分からない場所で巧妙に隠れている。人の集合的無意識にすら認証されない。


 神は自らが創り出したそれが自らの創造を越えた時、役割を終えたように隠れた。

かくして、現在の世界に神はいない。


 残された神の作品たちは、かつていた創造主を忘れ、この世界を自らが創り出したものであるかのように驕り高ぶり繁栄していたのであった。


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