50 桜子、綾人と共に日本へ旅立つ
東の空に赤みが差している。
行政庁舎ドーム前の広場に兵士が集まってきた。桜子と共に戦った兵士たちだ。彼らは桜子が日本に帰ることを聞きつけて集まってきたのだ。陽が昇りきった頃には、その数は千を超えていた。
成田毅はドームの扉の前で、その光景を眺めていた。桜子を旅立たせるのは心配だが、今の彼女なら待ち受ける困難を乗り越えていけるだろう。それに、ジャンが付いている。
モンゴル馬三頭がジュンガルから贈られた。二頭には桜子と綾人が乗る。もう一頭は荷物運搬用だ。
ジャンとレッドが待機している。
桜子と綾人がスパイダーから降りた。桜子はまっすぐ成田の所に歩いてくる。そして目の前で立ち止まった。成田は黙って頷いた。
桜子の目が潤んでいる。
「タケ爺、必ず迎えに戻ってくるから」
「お嬢さん、ここに二度と来てはだめです。東京で、わたしとドクターが戻るのを待っていてください」
「タケ爺、わたしたち仲間だよね」
成田は頷いた。
「ドクターも、ジャンも、レッドも、グレイも、ブルーも、そしてスカイも、みんな仲間だよね」
成田は頷いた。
「みんなで、一緒に帰ろう。タケ爺、みんなと一緒に帰ろう」
「だめだ。サクラコ、おまえは、自分の任務を果たすんだ」
桜子は唇を噛みしめた。
「サクラコ、わたしたちのことは、心配するな。必ず帰る。一年経とうが。二年経とうが、三年経とうが、ドクターを連れて、わたしは必ず日本に帰る」
成田は桜子の肩を押して、ジャンとレッドのいる場所に歩いた。桜子の乗馬を補助する。
「ジャン、サクラコを頼むぞ」
「わかりました」
ジャンは屈みこんで、成田と顔を突き合わせた。
「シベリア前線本部と連絡がつきました。三日後に迎えに来るとのことです。それと、もう一つ重要なことがあります」
ジャンの声が急に小さくなった。成田は耳を近づけて聞き耳をたてた。
「スパイダーですが、あれはただの輸送機ではありません。戦闘用兵器です。運転操作盤の右端に緑色の蓋がありますね。その蓋を開けると、赤いボタンがあります。そのボタンを押してください」
「何故、黙っていた」
「敵に利用されないためです。知らなければ、見抜かれることがありません」
「なるほど、おまえらしいな」
「ただし、ロボットスーツを着用していなければ、操作できません」
ドームから、ララモントが現れた。
兵士たちに緊張感が溢れた。
成田は自分の肩からスカイを飛ばした。スカイは羽ばたき、桜子の肩にとまった。
成田は右手を上げた。
桜子は手綱を引いた。そして右手を上げる。
兵士たちから歓声があがる。
サクラコ、サクラコ、サクラコ、の歓声があがる。その中を桜子の一行が進んでいく。一行の姿が見えなくなるまで、歓声は続いた。
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