46 桜子、ララモントから部隊長を解任される




 ジャンから報告が入った。補給部隊を制圧、後続部隊と合流、と。

 成田毅はほっと胸をなでおろした。即座に、ララモントにその旨を伝える使者を送った。二千七十五年だというのに、ここではジュンガルとの交信に電波が使えない。


 成田は陶器のカップにコーヒーの粉末を入れ、お湯を注ぐ。口に含み味を確かめる。微かにコーヒーの苦さが口の中に感じる。桂木の淹れたコーヒーが懐かしかった。今日こそ、苦味のある、あの酷のあるコーヒーを飲みたかった。



 午後四時が過ぎた。

 ガルバン本体は南下を始めた。湖畔に野営するのか、それともそのまま南下を続け、天山北路に出るのか。ガルバン軍の隊列が見えなくなって二時間ほど経過したころ、ララモントの率いるジュンガル軍が到着した。

 ララモントの戦術は、堅実だった。どんなに時間を浪費しても、戦わず勝利を掴む。成田はその戦略に好感を持っている。ただ一方で、前線の戦いを桜子に押し付けているのは、紛れもない事実だ。


 夕食後、作戦会議が始まった。

 ララモントはガルバンに対して降伏を勧告することを提案した。大隊長たちは賛成した。成田も依存がなかった、その文面の要旨は以下の通りである。

 補給部隊はわが軍が制圧した。食料も武器も届かない。

 降伏する者の命は保障する。


 次に議題になったのは、桜子部隊の処遇だった。

 筆頭大隊長が発言した。

「桜子部隊の兵はジュンガル軍に再び併合する。したがってサクラコは部隊長の任を解く」

 ララモントは成田を見た。

 この発言は、桜子に対するやっかみからきていることを、成田は十分承知している。兵士たちの間で、桜子への信頼の情が高まってきていたからだ。

 

 成田は言葉を発せず頷いた。桜子を戦場の前線に置きたくなかったからだ。

「ナリタタケシ、ジュンガル本体に戻るように、わたしの名でサクラコに伝えてくれ」

「わかりました」

「あの蜘蛛の歩行輸送機を使ってもいい。戦利品の輸送に役立つだろう」

 ララモントは最後にそう付け足した。


 翌十月七日早朝、ガルバンへの使者が旅立った。

 しかし、その使者は戻ってくることはなかった。ガルバンは徹底抗戦を決意したのだ。


 ガルバンの本体は、湖を通り過ごし、天山北路に向かっていた。その先には、シルクロード交易の関所があり、警備のための小さな砦がある。


 十月十日早朝、ガルバン討伐先遣隊騎馬兵二千が出発した。

 荷馬車に食料と武器を載せて後続部隊が続く。周辺各地から兵が集まり、ジュンガル軍は、一万に膨れがっていた。



 成田はスパイダーに乗り、桜子部隊のいる東方に向かった。

 サクラコ、部隊長の任は解かれた。静かに、戦争が一日も早く終わることを祈ろう。成田は桜子にそう言って、彼女の労をねぎらいたかった。




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