44 成田毅の援護作戦

 ガルバン本体軍は、今だ二万以上の軍勢を保ち。天山北路を目指して南下を続けている。ララモントの率いるジュンガル軍は、ガルバンとの二キロの距離を保ちながら追尾していた。

 アジムアカフエの予想した通り、ガルバンは周囲の集落を襲い、食物の強奪を始めた。ララモントは二大隊に対し、集落近郊に向かいガルバンの蛮行を阻止するよう指示した。


 まだ桜子から連絡が来ない。

 桜子には荷が重すぎたのかもしれない。彼女を止めるべきだったのか。成田毅は後悔した。

 

 ガルバン軍の補給所は、現在位置から東に約五十二キロの地点にある。ガルバン軍本体が東に向かえば、桜子部隊に危機が及ぶかもしれない。そう思うと、成田は急に不安になった。


「司令官殿、ガルバンを東に行かせないために、千人の兵を東に布陣させようと思いますが、よろしいですか」

「東に? 今、なぜ?」

 ララモントが訊き返してきた。

「東にある補給所の軍と合流させないためです」

「ガルバンが東に向かわないのは、我らからの側面攻撃を恐れているからだ。それに、我らの守りはどうなる? 手薄になるではないか」

「やつらの見える位置に、戦車を配置しましょう。それから迫撃砲を一発お見舞いしたらどうですか。きっと、彼らは南下を続けるでしょう。新たな武器と食料を手にしなければ、積極的な行動にでないと思います」


 ララモントは腕を組んで天幕を見上げた。

「奴隷兵千を、わたしにお貸しください。それで十分です」

「ナリタタケシ、あなたが行くのですか」

「はい。命に代えても、東を死守します」

「わかりました。許します」



 成田は本隊付となった奴隷兵の残り千人を集合させた。殆どが軍務経験のない者たちだった。数時間ライフルの射撃訓練を経験しただけだ。だが、彼らは真新しい軍装備を整えており、見た目には精鋭の部隊に見える。


 成田は木箱に乗り、奴隷兵たちに話し始める。

「今、桜子は、あなたたちの仲間と共に、ガルバンの補給路を断つため、天山北路に向かっています。これは、今度の戦いの行方を左右する極めて重要な作戦です。もし、ガルバン軍が東に向かい、桜子部隊と遭遇することになれば、我らの勝利は難しくなるかもしれません」


 成田はそこまで言って呼吸を整えた。

 奴隷軍の兵士の一人一人の顔が見えた。鋭い眼差しが成田の眼に食い込んでくる。

「桜子部隊、あなたがたの仲間を守るために、わたしが指揮をとる。我々の使命は、ガルバン軍の東への移動を阻止し、少しでも遅くすることだ」

 兵たちは一斉にライフル銃を掲げ、歓声を上げた。


 ジャンから連絡が入った。

 ガルバンの補給所に着いた、と。スカイの空からの情報によると、補給部隊はまだ補給所を出発していないとのことだった。

「天が味方するか」

 成田は呟いた。




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