第34話
その日拓哉はずっと上の空だった。昨日きたメッセージの真意が気になって仕方ない。正直ここまで頭の中を支配されると、恋なんじゃないかと疑いたくなるほどだった。それまでに強く心の中に残り、根本という存在が大きく拓哉の胸の中にずっしりと収まっていた。
「山岸、お前大丈夫か?熱?」
昼休み、斎藤が心配そうに声を上げた。今日の放課後のイベントのことを考えていてその声にも驚いた拓哉はびくりと肩を震わせてから斎藤の方を見た。
「え?全然大丈夫だけど」
「すっごいぼーっとしてたぞ、悩み事か?」
「そんなんじゃ、そうなんだけども」
拓哉は口ごもってしまう。斎藤になら話してもいいだろうと思い、昨日のメッセージのことを話す。隣に中本もいたが、彼も言いふらしたりしない人種なので信頼は出来た。
「それは脈ありなんじゃね?」
話を聞いた中本が手を叩いて強く声を上げる。目は輝き、楽しそうに笑顔を向けてきた。
「そうやって浮かれてると何にもなかった時に悲しいから浮かれない」
「なんだよーもっと期待しようぜ、大丈夫だって」
「何が大丈夫なんだよ」
「少なくとも根本はお前のこと嫌じゃないわけだろ?脈ありに等しいって」
中本は嬉しそうに手を叩いて、賛同を求めるように斎藤を見た。
斎藤はうーんと考え込んでから、中本のいうことも一理あるな、と答えた。
斎藤まで脈ありと判断したことに拓哉はどう反応していいのか分からなかった。嬉しいような恥ずかしいような気分で背中から顔まで熱くなってくるのを感じた。全身がくすぐったい。もしも本当に脈ありだとして、自分はどうすればいいのだろう。そう考えると頭が混乱した。根本のことが好きなら告白すればいいだろうが、根本のことをどう思っているのか自分で自分が分からなかった。突如として現れた根本という大きな存在にどう対処していいのか分からない。頭がパンクしそうだった。
「悩んでても仕方ないだろ。とりあえず今日行ってみてそれから考えればいいんじゃないか?」
「確かに。そうするよ」
悩んでいても仕方ない。悩んだ所で事態が変わるわけではないのだ。拓哉は悩むのをやめて時の流れに身を任せることに決めた。
放課後、校門前を指定された拓哉は一人できょろきょろとしながら根本が来るのを待っていた。歩いてくる女子全てが根本と見間違えそうになる。今か今かと待っているのはとてもドキドキした。きっと根本にとってはなんてことはないちょっとした用事なのだろうと思うが、拓哉にとっては大イベントだった。
「お待たせ!」
元気な溌剌とした声が拓哉にかかる。急いできたのか少し頬を上気させた根本が拓哉の肩をぽんと叩いた。
「お、おう」
「じゃ、行こっか」
「行くってどこに?」
「駅にあるモールだよ!」
根本は少し首を傾げ、にこりと笑顔を向けた。花が咲いたような華やかな笑顔が拓哉に向けられる。拓哉はその仕草に少しだけどきりとした。
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