2-6


 キャサリンはエルシーの言葉に励まされ決意した。ハリーにどうしても認めてもらい、姉であるフリージアに逢って確かめたいこともあったからだった。

 別れ際にエルシェントがいった言葉がキャサリンの胸に響いた。

『生きて、きっと戻ってこい!』

 エルシェントと強く抱きしめあったキャサリンは、一粒の涙をこぼした。だが、それ以降は堪えて一滴もでることがなかった。

 エルシェントが認めてくれたことがなによりも嬉しかった。



 ヴェイクは、雪上車に乗り込まず黙ったままたちすくんでいた。

 雪上車を一台借り受けることになり、キャサリンは乗り込んだ。

「ヴェイク! エルシーさん何をしているの? 早く!」

「キャシー、ここでお別れだ!」

 エルシーは黙って荷物を雪上車に載せている。

「あんたなら、この先でもハリーを探していけるさ」

「エルシーさんまで何を……いったい、何を言ってるの?」

 乗り込んだ車からドア越しにヴェイクとエルシーに問いかけていた。訝しくキャサリンは彼をみつめる。

 地上から降りてくる風が、彼らの身体を横殴りに吹きつけている。

「これからは自分を信じて行動するんだ! 俺はおまえがアルファシェルターに帰って来るのを待っている」

「あたしにはアルファシェルターを防衛しなければいけないんだ!」

「ちょっと待ってよ! 私はあなたたちがいたからここまで来れたのよ! これから先だって……あなたがいなきゃ」

「キャサリン、ベータシェルターの救出が俺たちの任務なんだ! 最初は君のエルシェントと一緒に帰れるとおもっていたが、彼があんな形ではベータシェルターの住人たちも不安がるはずだ! この鉱山跡も何が起こるかわからない!」

 そんな、とキャサリンは不安にかられた。この先相談できる人物もいない中で、どうやってハリーと会えばいいって言うのだろうか、と胸が張り裂けるほど孤独さに満たされるようだった。しかし、エルシェントやベータシェルターの住人をアルファシェルターに連れて帰ることは、ホルクとの約束だった。約束を破ってハリーの下へいこうとする自分は卑怯者でもあるように心苦しくもあった。総隊長であるヴェイクにとっては、任務を何が何でも遂行しなければならない。仕方のないことだった。

 ライン博士が、ヴェイクに助手席から

「彼女のことは任せておけ!」

 と、自信満面の笑みを浮かべる。

「雪原の迷子にならないことを祈るわ!」

 皮肉のようにエルシーがいい放つ。

 納得した笑みをキャサリンはすると、ヴェイクとエルシーに握手を求めた。力強い握手だった。握力の差がこんなにも違っていたのかと思い知るほどに離した時痛く感じた。

「コネコ、なんていじって悪かったね! もうあんたはコネコじゃないわ!」

 キャサリンは首を振り

「エルシーさんのほうが私より数倍頼もしかったわ! ありがとう。義父さんとベータシェルターの住民のことお願いします。それと……」

 ヴェイクは、キャサリンの心を読み解くように、

「ホルクには事情を説明しておくよ! その代わり、ハリーと一緒にかならず帰ってこいよ!」

「はい!」

 肩を置きフォーイックは彼女にいった。

「キャサリン、そろそろ出発するぞ! 捕まってろよ!」

 ディーゼルエンジンの激しい音がけたたましく鳴り響く。それとともに車が動き出した。

「行ってきます!」

 キャサリンの胸に希望と期待のこころが募ってきた。

                  キャサリン視点 完

                   ハリー編へつづく

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