2-3


 到着したエルシーたちは、倭人の熱い歓迎を受ける。人ひとりを助けることに感動したようだった。

 長も到着を喜び、エルシーやキャサリンたちをうたげに招待した。しかし、キャサリンには心底から宴に参加できるほど嬉しくはなかった。楽しめなかったのだ。

 鉱山の跡地で待っているであろうエルシェントの再会こそが、そして、ハリーと再会することこそが、彼女にとって本当の嬉しさに変わるときなのではと思った。

 今はただただヴェイクが、無事でいることに感謝した。


 ヴェイクの体力の回復を待って、ふたたび雪原の海原へむかい、一刻も早く鉱山跡地を目指したかった。

 ヴェイクとエルシーがひとり隅のほうで、飲み物を片手にたそがれているところへとやってくる。

「キャサリン、おかげで助かったよ。ありがとう」

「ううん、そんな。もう、歩いても平気なの?」

「ああ、ここに長居しちゃ、倭人たちにも申し訳がたたない。それに、君のためにも早いところ鉱山に向かわないといけないしな。そこで、キャサリンにひとつ提案なんだが……」

 訝しくキャサリンが小首を傾け、ヴェイクをみつめる。

 となりにいたエルシーが、代替でキャサリンに話しかけてきた。

「あんたを買かぶっていたようだ! キャサリン、わるかった。あんたの力があってこそ彼を九死から救ったと思う。私は、統率を図って指図することしかあそこではできなかった。最後の最後でヴェイクを救ったのはあんただったよ」

 大きくかぶりを振り、

「そんなことないわ! あたしだけの力じゃどうしようもなかったわ! 雪の中に震えるコネコ同然だった。でも、あなたの的確な指示があって、あたしも何かしなきゃって思えたと反省しているの。雪原の危険と向き合っているエルシーやヴェイクが、どれだけ苦労していたのかが、少しだけど分かったような気がする」

 ハリーの気持ちがすこしだけ分かったようにおもえた。どうして、自分を隊に加えなかったのか、苦しくつらい決断だったのではないか。自分がどれだけ、雪原に対して甘い考え方しかもっていなかったことが、ようやく気づいたようだった。


 『自分の身は自分で守る』


 ハリーが言っていた口癖をキャサリンは思い起こしていた。

「謙虚だな。きみの看病のおかげもあるさ。このとおり、僕は君に支えられたと思っているよ」

「バックアップ、あってこそよ!」

「なんにしろ、僕はキャサリンが恩人だと思っているさ!」

 恩人という言葉に、キャサリンは嬉しくもあり苦しくもあった。

「それで、提案って?」

「それなんだが」

 ヴェイクがエルシーと眼で合図したあと、改まって話しはじめた。

「鉱山の跡地までまだ距離がある。そこで私だけじゃなく、あんたは隊長のサポート役にまわって欲しい」

「要は、僕の副隊長としてアドバイスやサポートをお願いしたい!」

「それに」とエルシーが言葉を切る。間を置き、

「それに、長の方から申し出があって鉱山の跡地に、倭人の仲間と合流することをきいて、私たちを雪上車で送ってくれるというんだ!」

「僕たちはそれに甘えることにした。ただでさえ、僕のせいで日数が延びて遅れているからありがたいことだと思う」

「うん、嬉しいけど、すこし考えさせて。ハリーがあたしを選ばなかった理由がすこしずつみえてきたように思えるの。だから、今までどおりヴェイク班の隊員として勤めさせてもらうわ!」

 キャサリンにとっては嬉しい限りだった。エルシーにも自分が隊員として役に立っていることが認められつつあることに喜びを感じていた。

 ただ、問題があって、とヴェイクは前置きして話し始める。ヴェイクの話では旧世代の雪上車ということもあり、なにかと整備に時間がかかるということだった。エネルギーの問題もさることながら、毎回起動するたびに整備をしている。随所にみられる錆びや劣化は事故にもつながるということだった。

 キャサリンも『整備』という明確な理由であれば、待機するしかないとあきらめ、反駁はんばくなどしなかった。聞くところによると整備はかかるということだった。

                       4へつづく

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