2-5
ロウが、各自のワイングラスが注がれたのを見計らって、食事の前の挨拶をはじめた。
「とりあえずは、ハリーも元気になった快気祝いということで、次の目的地を目指しひと時の英気を養いましょう。乾杯!」
ロウに
「マイケル、さっき話した順番でみんなに皿を出してくれ!」
ロウが一声かけるとマイケルの方から、了解デス、という声が聴こえてきた。
「ロウさん、次の目的地ですけど、今度は南東にあるドームシェルターですよね。あそこを
「まず無理だろう。迂回するとなると、ドームシェルターから北に向かって深い渓谷が連なっている場所をさけ、北上を続けて回り込まなければならない。東の山脈を目指す最短距離は、どうしてもドームシェルターを通過するのが一番の早道なんだよ」
それに付け加えるように、ダウヴィが、
「ハリー、数年前と状況が変わったんだ! このところ地震は落ち着いているが、あの渓谷はいつ広がるかわからないぞ。北上して迂回するよりも南東のドームシェルターの地下から回った方が、東の山脈の入り口にも近いだろ!」
ダウヴィの説明には説得力があった。ガンマシェルターでみた3Dマッピングには、表示すらなかったが、ドーム型シェルターの北には、地震でできた亀裂が北に向かって数キロという範囲で続いていた。ハリーが東の山脈にいった数年前には、亀裂がなくドーム型シェルターを経由しなくても、通過することが出来たのだった。
「うむ、たしかに現段階だとドームシェルターを経由する方が安全道だな。しかし」
リュック博士は自慢げな顔で、話を続ける。
「私の開発した発明品を使えば一瞬にして渓谷を渡りきることができる」
「ほぉ、博士。その発明とはどういうものなんでしょうか?」
ロウが眼を瞬かせて興味を持った。
「食事のあと、ロウ大尉にもお見せしよう」
「発明といえば」
と、ハリーはリュック博士に問うように話しかける。
リンの表情もうかがいつつ、
「リュック博士は、フォーイック・ライン博士をご存知ですよね」
リュック博士がナイフでステーキ肉を切っていた手が止まる。
「ライン博士か? 久しぶりに聞く名だな」
急にリンはその発言に椅子から立ち上がる。
「知ってるんですか?」
リンはリュック博士の次の言葉を待った。
「どうした、嬢ちゃん。そんなに興奮するな」
リンは椅子に腰を下ろすと、ふたたびリュック博士に訊ねた。
「リュック博士、逢ったことがあるんでしょうか? ボクは、博士を探しているんです。もし、行き先を知っているのであれば、教えてもらえないでしょうか」
「あんたがどういう風にあいつと関わっているか知らないが、今、どうしているかは正直分からないよ。なにせ、数ヶ月前のことだ」
「そう、ですか」
落ち込んだ様子になった。
「でも、会ったことあるような様子ですね」
ハリーが気になりリュック博士をみつめる。
「おお、もちろん。ガンマシェルターの住民として、一時期ここに滞在していたようだが、二言、三言話したぐらいだ」
「彼は何か言ってましたか?」
「他の住民と話しているのを、近くから聞いていたぐらいだからたしかではないが、鉱物がどうのこうのと、そんなことを話していたようだが」
「コウブツ?」
リンには思い当たる節があるようだった。
「この世界でコウブツ、レアメタルにあたる銅や鉄が採れる鉱山はあるのか?」
リンは興奮するようにハリーの方向をみて問いかけた。
ハリーは食べている最中なために、言葉を掛けられずにいる。代わりにロウが応えた。
「鉱山跡なら、ここから南西に位置するところにあったと思うが……」
「南西に位置するところ?」
「落ち着けよ! 何もそこに確信を持って向かったというわけじゃないだろ!」
ダウヴィが諭すようにリンの興奮を抑えようとする。
「そうかもしれないけど、ボクにとっては重要なことなんだ」
「重要なこと?」
「実を言うと、ボクはライン博士の助手なんだ! 事情があって、この世界のエネルギーを探している」
一番驚いていたのは、パンツァ・ロウだった。
「助手、だって?」
ハリーは訝しく彼女の眼をみつめた。どういうわけか、彼女の言動がいまいちハリーには飲み込めなかった。
この世界のエネルギー、とは、一体どういうものなのか、どういった目的で使用するのか、フォーイックライン博士という人物の助手というが、なぜ、彼女がサバイバル術ともいえる体術や、戦闘に長けたところがあるのか、疑問が次々と湧いてくるのだった。
「そういや、キャサリンもその鉱山跡に向かっているんだったな」
と、ダウヴィはつぶやく。
(キャサリン……)
無事でいてくれればいいが、と呟き、彼女が慣れない雪原に苦労しているのではないかと心配な表情になる。
食事を終えたリュック博士が自慢げな顔でリンを見る。
「とにかく、その博士を探すにしても、情報が少ないだろう。エネルギーを求めているという話だから、ドームシェルターに向かうにも好都合かもしれない」
「好都合?」
「ああ、かつてドームシェルターは、鉱石を専門に扱う商人がいたところなんだ! お目当てのエネルギー鉱石が手に入るかもしれない」
「商人があつまる街ってことなの?」
「少なくとも数年前までは、だがな」
ロウも食事を終えると同時にリンの質問にこたえる。
「さて、諸君、食事も済んだことだろう。ちょうど、今、十八時を回ったところだ」
ロウは室内にある掛け時計を一瞬見て、
「三時間後に、今後のルート計画を立てたいので、ブリーフィングルームへ集まってくれたまえ!」
扉の近くにいたマイケルに、ごちそうさま、と一言呟くとパンツァ・ロウは、部屋を出て行ってしまった。
リンも食事を終え、席を立つ。
「ハリー、あんたに話しがある!」
「ん? なんだい?」
「あとで、部屋に行くから」
リンは、マイケルに眼を向け、おいしかったわ! ごちそうさま、といい部屋を出ていった。
なんだろうか、と訝しく首をかしげた。リンの顔色にすこし寂しげな表情が窺えるようにみてとれた。
ハリーには、彼女の表情の意味を考えたために、残されたダウヴィの雑談も聴こえずにいた。
ハリー編 PART2 完
PART3へつづく
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