第59話 噴水広場での激闘

 迎え撃つとなるとちょうどこのまま進めば、噴水広場に出る。

 そこで一気に反転して突撃するか。


 この作戦とも呼べない行動は何も考えていないように思われるが……実際その通りである。


 何も考えず取りあえず突っ込んで戦場をかき乱し、勝利の糸口を探すというお前アホだろ、と言われて当然なことをリューヤは行おうとしている。


 実際リューヤは多人数で行う格闘ゲームなどではこの戦法をよくやる。

 そんなことやっても普通は何も出来ずに逆にタコ殴りにされるが、リューヤは持ち前の勘と反射速度、そして高い戦闘力によってこれを使い物にすることが出来るのである。よく言えば臨機応変、悪く言えば行き当たりばったりだ。


 これを行った時のコウ達との勝率は4割。

 半分を切ってはいるが最初は何も考えていないと言うことを踏まえれば驚異的な高さである。コウ達をナツメ達に置き換えて今の状況で勝てる確率は……良くて2割といった所。


 十分だ。このままだと何時かは負ける。1%でも勝てる確率があるならそっちに掛ける方がずっといい。


 噴水広場に出て中心にある噴水に手を掛け勢いそのままに半周し、更に【ウインドボム】【空歩】【ハイジャンプ】でブーストする。


 水を少しかぶったがお構いなしだ。


 気にしている暇など無い。魔法は頻繁に使えない。戦闘をするなら近接戦闘。懐に潜り込む必要がある。それ故に今出せる最高速度で突っ込む。


 手には刀、これではダメだ。【龍化】したナツメの鱗に弾かれる。だったら……


「【クイックチェンジ】タイプメイス【ハイスマッシュ】」


【ハイスマッシュ】をたたき込む。鱗に当たるがHPは少ししか削れない。弾かれるよりは良いのだが、これはクラーケンと戦う方がいくらかマシだな。

 サブウエポンとして呼び出した武器は通常の【クイックチェンジ】で呼び出すとことができる。逆もまた然りだ。これによって飛ぶ前に魔法に向かって投げたメイスを呼び戻したのだ。


 ナツメの牙が迫ってくる。それを【空歩】で避けて、ナツメの足下に入り込む。ここならナツメの攻撃は届きにくい。灯台もと暗しってやつだな。少し違うか。


 ここで気を付けるのは踏みつぶされないことと尻尾、後は……ラルミィとフェルスの魔法か。

 迫ってくる尻尾をメイスではじき返し、ラルミィとフェルスの魔法を身体をひねることで躱す。


【ハイジャンプ】で跳び、ナツメの顎をカチ上げる。そのまま回し蹴りを食らわせた所で爪の攻撃を食らい、吹き飛ばされる。【ヒール】を掛けながら吹き飛ばされる勢いをそのままに、周りに展開しているラルミィをメイスで叩く。…ステータス下がってても流石の耐久だな。まさか耐えるとは思わなかった。


 これが複数とかムリゲーじゃね?

 ヤベ、ブレスが来る。うん、このブレス、ラルミィを一撃で倒してるね。俺が食らったら普通に死ねるね。


 あれ? でもよくよく考えるといくら【龍化】の【龍魔法】でも威力高すぎないか? 何か秘密でもあるのk……うん、そういえば進化してたね。よくよく見るとこの前よりも【龍化】した姿が大きいもんね。ステータスの上昇値が変わってても何もおかしくないね。って言うか気付けよ俺!


 ナツメの真上に何かか飛ぶ、狼だ。だが体毛は緑色。フェルスじゃなくてラルミィだな。狼からロックゴーレムに【擬態】して更に【ステータス模倣】を使ってSTRを大きく上げたラルミィのパンチが炸裂した。


 あの巨体の重さに加えロックゴーレム自身のSTRも加わったのだ。ナツメといえど大ダメージである。今のでHPが3分の1ほど無くなった。


 とは言えラルミィの方も分身体が次々にやられてしまっているせいかステータスが低くなっている。【ステータス模倣】には影響がないが、VITとMNDに影響が出てきているな。【分裂】したままやられる個体がいると【分裂】時になくなった5%は帰って来ない。時間経過で元に戻るらしいが、今のラルミィなら俺でも一撃で倒せるかも知れない……目の前にいるラルミィが本体ならの話ではあるが。


 っとフェルスのことを忘れてたな。どこ行った? ……いや、うん分かってる。こういう時って大体上から来るよね。


「【クイックチェンジ】サブウエポン・タイプ刀【参ノ太刀・流水】」


【参ノ太刀・流水】で上から迫る氷をまとったフェルスの攻撃を躱す。フェルスは狼になっており、口に小太刀を咥えていた。


 よくみるとまとっている氷の形状も少し変わっている。なんですかそのトゲトゲした形状。体当たりされただけでけっこう痛そうなんですけど。

 しかもその鎧装備したまま近接攻撃する気満々じゃないですか。


 飛び道具が欲しいけどあの鎧にとの程度効くか分からないしな。【クイックチェンジ】で引き戻して武器を投げ続ければ効くかもしれないけど、いちいち引き戻してたら隙が出来る。


 魔法はMPが少ないのでうかつに撃てない。

 まあこういう時は巻き込まれた奴らのを使うか。


 ここ噴水広場は一番人通りの多い場所だ。だからこそこのイベントでは意味を持つ。


 人通りが多いからこそプレイヤーと遭遇する可能性が高い。先ほどコウ達を追っていた集団もここが集合場所に指定されていた。


 この噴水広場では今もプレイヤーが乱闘を繰り広げていたはずだった。


 天使と龍と狼とスライムが乱入してこなければ。


 今広場にいるプレイヤーは天使一人だ。他のプレイヤーは先ほどの龍のブレスやスライムの魔法、突如飛来してくる氷などに撃たれてみんなやられてしまった。


 広場には従魔と天使、そして他のプレイヤーの骸たちである。


 つまりそれは武器も大量に落ちていると言うことである。


 いちいち引き戻せないならこれらを投げればいい。それに、これだけ物を投げていたのだ。間違いなく【投擲】スキルは手にしているだろう、セットする余裕などもちろん無いが。


【氷属性魔法】は返そうとしても砕けるしフェルスとの近接戦闘はなるべく避けたい。


 よって投擲で攻撃するしか無いのだが。……まあ当たらないよな。フェルスはAGIが高いので簡単に避けられる。もっと近づけば当たるかもしれないが、その場合逆に攻撃を食らう可能性があるのでこれ以上は近づきたくない。


 ダメだな。フェルスとの一騎打ちはMPがない今の状態では詰んでいる。


 となるとフェルスとは戦わずにナツメかラルミィになすりつけるか。


 隣ではドラゴンと2体のゴーレムが怪獣大決戦を繰り広げている。

 ……あれになすりつけるの? なすりつける前にぺしゃんこにされそうなんだけど。

 フェルスの攻撃を躱し続けるのは出来そうにないからやるしかないんだけどな。


 なけなしのMPを使って【ウインドボム】を発動させて怪獣大決戦に突っ込む。ラルミィの背後を取ってメイスで足を叩く。


 ラルミィがバランスを崩す。ナツメはそのラルミィの肩をつかみラルミィを転ばせる。


 その隙を突いてフェルスが氷を射出する。ラルミィはもちろんナツメにも当たってるな。俺は既に退避している。


 なすりつけることに成功したのは良いがその分ナツメとラルミィからも敵意を向けられたな。……いや元々向けられてたな。でもフェルスと戦うよりはマシだ。


 ナツメの死角に入った一応攻撃のチャンスだな。だけどフェルスやラルミィに背後から襲われるのは確実だろう。

 と言うわけでラルミィの分裂体とフェルスに気をつけながら、投擲でちまちま攻撃することにする。


 やっぱ打撃が一番効くな。斬撃系や刺突系はほとんど効いてない。鱗に弾かれるだけだ。


 ん? なんかナツメの腕が何か靄みたいな物に包まれていくな。なんだあれ? 俺が知らないって事は新しく習得したスキルか【龍魔法】のどちらかだろう。腕全体の靄はまだ多いが、手の部分がはっきりと見えるようになった。


 なんだあれ? 何か武器のクロウみたいだな。


 あ、ゴーレムが一撃でやられた。あの威力から察するに恐らく【龍魔法】だろうな。となるとあれば魔力で出来てるのか。この場面で使ってくると言うことは隠し球だったのだろう。


 しかし不味いな、ゴーレムが一体やられたことでラルミィがナツメを抑えられなくなっている。


 このままだとまたナツメの無双が始まる。それは避けたい。


【ハイジャンプ】と【空歩】の合わせ技でナツメの上まで跳ぶ。

 出来ればやりたくなかったけど、ナツメに無双されるのは不味い。折角回復したHPを使うならここしかないだろう。


「【ハイスマッシュ】ゥウウウウッッ!!」


 ナツメの頭にたたき込む、今回ダメージを与える対象はナツメのみだがら【アースブレイク】は使わなくて良い。とは言え【ウインドボム】は使わなかったし、ナツメの身長自体が高かったせいかダメージは少ない。


 だが今のナツメには大きい一撃だ。ラルミィとの戦いで元々HPを減らしていた所にこの一撃。おかげでHPは残り1割ほど。


 これでブレスなど隙の大きい技は使い辛くなっただろう。


 あれナツメさん?その口からあふれんばかりの炎は何ですか? このタイミングでブレスって後方からダメージ入れてくださいって言っているような物ですよ?

 あれ? 後ろではフェルスの小太刀がなんか大きくなってる。どこで拾ったのそんな刀? よく見たら俺が作った小太刀だな。氷で刀身を大きくしたのか。というかでかすぎませんか? そんな大きさだと全MPを使ってませんか?

 ラルミィさん? ここでクラーケンに【擬態】ですか? ここだとほとんど動けませんよね? まあ足は例外ですけど。あれ? 足の数が20本ほどあるように見えるのは俺だけかな?


 そして従魔達の最大の一撃がリューヤに降り注いだ。

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