絶好の環境が、一大勢力を育んだんだろうね

 クルマは雄治の運転で、今来た道を四〇kmばかし戻る。目的地は霧島市(旧・国分)の上野原縄文遺跡である。


 雄治はここまでの長距離ドライブで、随分と疲れた顔をしていた。

 そりゃそうだよね。今日だけでも既に、三〇〇km以上運転してるもん……。助手席に座っているだけのあたしとしては、非常に心苦しい。運転交代してあげたいけど、生憎あいにくあたしは免許を持っていない。


 これまでに何度か、免許取らせてってお父さんに交渉したんだけどね。お父さん的には、

 ――学生が親にお金出して貰って、免許を取ろうなんて言語道断。

 って考えなのよ。お父さん自身、結構苦労して育ち学校教員になったみたいなんだけど、仕事に通いながら夜間に自動車学校へ行って、自力で車の免許を取ったんだってさ。今じゃそんなの絶対無理、就職活動時点で履歴書に免許アリって書けないと就職に不利なんだよ……って説明しても理解してくれない。


 あ、でも雄治の話によると、このクルマの運転は左足が疲れるらしい。スポーツ車って、クラッチペダルが結構重たいんだってさ。もし今、免許持ってる智ちゃんがいたとしても、交代で運転というわけにはいかないっぽい。


 目的地の上野原遺跡に到着したのは、夕方の四時半過ぎである。

 先に埋蔵資料センターに入った。建物は立派。入場料が三一〇円。

 でもね、肝心の展示物がショボいの。縄文弥生、それに古墳時代関連の展示物は、凄く少ない。中世以降の展示物で水増ししてる感じ。しかも配置があまり整理されていなくて、注意深く見て回らないと混乱する。


「これで入場料を取るなんて、詐欺だよねえ(笑)」

 埋蔵資料センターを出ながら、あたしは雄治にボヤく。

「そうやなあ。宮崎人的には納得いかんよな」


「逆に言えば、宮崎の出土品の数ってスゴいんじゃない? 吉野ケ里遺跡だって熊本の塚原古墳群だって、展示物はショボかったよね」

オイもそうおもたわ。そンだけ古代宮崎の人口規模がデカくて、経済力が高かったっちゅう証拠やろなあ。だからじゃっで、神武天皇が東征出来るでくイだけの力があったっちゃろな」

 なるほどね。


 広大な宮崎平野。――

 二毛作はおろか三毛作さえ可能ではないか、って程の温暖な気候。海に面し、太古より各地と盛んに交易していた可能性。雄治によれば、鉄資源等も豊富で、弥生時代には既に大規模な鉄製品生産が為されていたらしい。

 さらには九州山地に阻まれた陸の孤島ということで、外敵侵入のリスクが低かった。そういった絶好の環境が、一大勢力を育んだんだろうね。


 ここ鹿児島県(霧島市)の上野原遺跡は、工業団地造成中に発見され、大規模保存が叶ったという。海に程近い、高台。縄文時代早期前葉から近世までの複合遺跡らしい。

「つまり弥生時代どころか縄文時代から、ここに人が定住しちょったっちゅう証拠やな。(縄文時代の)狩猟採集経済社会は移住生活、っちゅうイメージは正しくねえ。農耕なんかやらんでも定住出来たんや」


 地層の様子を眺められる展示施設があった。試掘溝を建物で覆い、そのまま保存しているっぽい。

 何層にも、火山灰土が積み上がっていて、その旨マーキングされている。桜島の噴火や鬼界カルデラの破局噴火等、何度も火山災害に遭い全滅しつつも、人々はその都度この地に戻り、住み続けたんだろうね。


「ここは余程、食糧やらに恵まれちょったっじゃろなあ。随分豊かな生活やった筈や。じゃっどん火山噴火の影響で、そン痕跡は大概焼失した……っち考えるべきやろな。まあここに限らず、縄文人の歴史が実際どげなもンやったかは、ほとんど解っちょらんち認識すべきやろなあ」

「うん……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る