二学期突入
夏休みも終わり、私と響は学園に戻った。
そして始業式を終え再びいつもの学園生活が始まると、私はすっかり日課となった藤之宮に会いに行く事にしたのだ。
そうして私が一年生の校舎に向かっていると、廊下の先から目的の人物がこちらに歩いてきている事に気が付く。
「お~い!麗香さ~ん!雅也さ~ん!」
「あら詩音さん、ごきげんよう」
「詩音、今日も可愛いね」
「っ!ま、雅也さん!会うなり何言うんですか!!」
「私の思ったままの気持ちだけど?」
高円寺は、当たり前のようにそう言って私に微笑んできたので、私の顔は一気に熱を持ったのだ。
「・・・イチャイチャするなら、他所でやってちょうだい。目障りだわ」
「まあまあ麗香、羨ましいからってそう言う言い方は駄目だよ」
「だ、誰が羨ましいもんですか!」
「どうせ、誰かさんとのイチャイチャを想像したんだろ?」
「・・・っ!雅也!!」
藤之宮は顔を真っ赤に染めて、キッと高円寺を睨み付ける。
しかし私は、その話に全く付いていけず困惑していたのだった。
「そ、それよりも詩音さん、貴女・・・この夏休み中に雅也の実家に行ったそうね」
「あ、うん。行ったよ」
「なら・・・あの雅也のお母様にも、お会いされたんですわよね」
「・・・ええ、まあ・・・」
私と藤之宮はお互い黙って目を見つめ合い、そして同時に深くため息を吐いたのだ。
「あの叔母様には私、昔から色々苦労させられましたけれど・・・どちらかと言うと、これからは貴女の方が深く関わる事になるでしょうから・・・頑張りなさいね」
「ええまあ・・・なんとか上手く付き合っていくわ」
そうして二人で、苦笑いを浮かべたのだった。
「ああそうだ!一応メールでも伝えたけど、麗香さん誕生日プレゼントの可愛いアンティーク置時計ありがとうね!」
「あ、あんなのただのガラクタですわ!買ってはみたもののやっぱり要らなくなったから、貴女に譲って差し上げただけですわよ!それがたまたま、貴女の誕生日だっただけですわ!」
「ふふ、それでもありがとう。大事に使わせて貰うね」
「っ!」
「ん?麗香さんどうかしたの?なんか顔が赤くなってきたけど?」
「な、なんでもありませんわ!ただ貴女達兄妹は、本当に同じ事を同じ顔で言ってきますのね!」
藤之宮はそう顔を真っ赤にさせながら一気に捲し立て、そしてプイッと横を向いてしまったのだ。
私は一体何が、藤之宮の気に障ったのか分からず戸惑っていたのだが、その藤之宮の頭にキラリと光る物を発見しじっとそれを見つめる。
その藤之宮の耳の上辺りで光っていたのは、そんなに大きくは無いが、とても精巧で美しい薔薇の飾りが付いたヘアピンだったのだ。
「うわぁ~その薔薇のヘアピン可愛いね!麗香さんによく似合ってるよ!」
「っ!!」
私は思ったままの事を言っただけなのに、何故か藤之宮はさらに顔を赤くしてそのヘアピンを手で隠してしまった。
その予想外の反応に私は戸惑っていると、面白そうにクスクス笑いながら高円寺が私の側に近付き、小声で私の耳元に話し掛けてきたのだ。
「詩音、あのヘアピンはね・・・どうやら響君が、誕生日プレゼントのお返しにあげた物らしいよ」
「え!?」
「どうも詩音が私の実家に来ていた時に、響君は麗香の家に行っていたみたいなんだ」
「れ、麗香さんの家って・・・」
「そう、皇居だよ」
「なっ!あ、あの馬鹿響なにやってるのよ・・・」
相変わらずの響の行動力に、私は額を手で押さえ唸る。
さすがに、友達の家に行く感じで皇居に行くのは無いわ~。
能天気な笑顔でいきなり皇居に入って行った響が容易に予想出来、私は頬を引きつらせて乾いた笑い声が口から溢れたのだった。
「まあ皇居内で響君がどうしてたかは分からないけど、そこで麗香と過ごしてあのヘアピンを渡したらしいんだ。・・・そして麗香は、貰ってからずっとあのヘアピンを肌身離さず付けているんだよ」
「雅也!何を勝手に話しているの!お黙りなさい!!」
どうやら私と高円寺の話している内容が聞こえたらしく、藤之宮は目をつり上げて高円寺を睨み付けたのだ。
しかしその顔は、相変わらず真っ赤っ赤だった。
「お~い!詩音、麗香ちゃん、高円寺先輩!」
「・・・っ!!」
廊下の向こうから響が笑顔で私達の名前を呼び、手を振ってこっちに駆けてくる姿が目に入ると、途端に藤之宮の様子がおかしくなったのだ。
藤之宮は落ち着きなくそわそわしだし、視線を彷徨わせ始める。
私はそんな藤之宮の様子を不思議に思いながら、こっちに駆けてくる響に視線を戻すと、私達に手を振っている腕に見慣れない腕時計をしている事に気が付いた。
「あれ?響、あんな腕時計持ってたかな?」
「ん?ああ、あれはね・・・麗香からの誕生日プレゼントだよ」
「あ~なるほど。そう言えば私、響からなんのプレゼントを麗香さんから貰ったか聞いてなかったです」
「ん?なんの話?」
「ああ響、その腕時計の事を雅也さんから聞いてたの」
「これ?良いでしょ~!僕のお気に入りだから毎日付けてるんだ~!」
響はそう言って、ニコニコとしながら私に腕時計を自慢するように見せてきたのだ。
「うわぁ~よく見るとデザイン凝ってて格好いいね!さすが麗香さん、センス良い!!」
「でしょ~?」
そうして私と響はその腕時計を見ながら、素直に誉め言葉を言い合っていると、藤之宮がとても居心地が悪そうに体を揺らせながらそっぽを向いている事に気が付く。
「麗香さん、どうかしたの?」
「え?な、なんでもありませんわ!」
「ふふ、麗香は響君にあげた腕時計を誉められて照れてるんだよ」
「雅也!・・・もう私、教室に戻りますわ!雅也、行くわよ!」
「あ~はいはい。じゃあ詩音、響君またね」
藤之宮は再び顔を赤らめながら不機嫌そうに顔をつんと反らし、強い口調で高円寺に言うと足早に歩いて行ってしまった。
そして高円寺はそんな藤之宮を見ながらおかしそうに笑い、そして私達に一言言ってから藤之宮を追い掛けて去っていってしまったのだ。
私はそれを苦笑しながら見ていたのだが、隣に立っていた響はそれはそれは楽しそうな笑顔で、去っていく麗香の後ろ姿を見つめていたのだった。
一日の授業が全て終わりHRの時間になったので、委員長と副委員長が黒板の前に立ち、体育祭の出場種目決めをする事になったのだ。
「え~では、今年の体育祭の出場種目決めをしたいと思います。それではまず先に、いつも一番決まり難い男女混合学年別対抗リレーの出場選手を決めたいと思います。誰か立候補ありますか?・・・まあいないと思いますが・・・」
「あ、僕出ようか?」
「「え?」」
委員長が最初っから諦めた様子で皆に聞くと、私の隣に座っていた響が突然手を上げて出場すると言い出したので、私と委員長が同時に驚きの声を上げた。
「は、早崎君?そりゃ早崎君の実力なら、出て貰えるとこちらとしては凄く助かるけど・・・どうしたんだ?確か去年は、断固許否してたと聞いたけど?」
「あ~まあ、去年はね。でも体育祭に参加できるのも今年が最後だし、今年はやろうかな~と思ったんだ~」
「なるほど・・・それじゃお言葉に甘えて頼もうかな。早崎君よろしくね!」
「うん!頑張るよ!」
「え~と、これで男子の方は決まったから、次は女子だな。女子も立候補・・・」
「あ、その件なんだけど!」
委員長が女子の方を向いて話し掛けようとした時、又々響が手を上げて話を遮ったのだ。
「女子の出場選手に、詩音はどうかな?」
「「ええ!!」」
再び私と委員長が驚きの声を上げたのだった。
「いや、確かに早崎君の妹だから身体能力は凄いのは知っているけど・・・」
「詩音は足早いよ?もしかしたら僕より早いかも」
「ちょっ!響!何言ってるのよ!」
「まあまあ詩音、それで委員長どうですか?」
「う~ん・・・早崎さんどうかな?早崎さんさえ良ければお願いしたいんだけど?」
「ええ!?いやいや、私なんかより他に出たい方がいるかもしれないですし!」
そう言って私はクラスの女子を見回すが、何故か皆私と視線を合わしてくれなかったのだ。
「・・・え~と、早崎さんに選手として出場して貰った方が良いと思う人は手を上げて下さい」
委員長がそう言うと、クラス全員が物凄い勢いで手を上げた。
「・・・早崎さん、すまないけど出て貰えるかな?」
「・・・・・・はい」
なんかこの光景に懐かしさを感じながら、私はがっくりとうなだれ渋々了承する。
すると隣に座っている響が私に顔を寄せてきて、ニッコリと微笑んできたのだ。
「詩音、頑張ろうね!」
「・・・響~あんたわ~!」
私はそう言って、響をジロリと睨み付けたのだった。
そうして一番難航すると思われていた対抗リレーが早めに決まったので、それ以外の競技はサクサク決まったのだ。
そしてその次の日の放課後に早速対抗リレーの練習をする為、指定された場所に私と響が向かうと、すでにそこには他のクラスの出場選手が集まっていた。
「おう!早崎!今年は、兄妹で出場してくれるらしいな!」
そう元気よく私達に声を掛けて来たのは、今年で三年連続参加の日下部だったのだ。
「今年は早崎が出るんだ、勝ちは決まったようなもんだな!」
「日下部君、油断は大敵だよ?本番何があるか分からないんだからさ」
「ああ確かに、早崎の言う通りだな!」
日下部はそう言って笑い響の背中を叩いていたのだが、叩かれている方の響は少し痛いのか眉をしかめながら苦笑を溢していた。
そうして今回も日下部がリーダーとなり、まず走る順番を決める為其々のタイムを測る事になったのだ。
まず私より先に響が走る事になり、私はその走りを観察する。
ふむふむ、響はあのぐらいの速度で走るんだね。なら私は・・・。
私は響の走る速度を観察し、日下部が測っていたタイムを聞いて自分のペースを決めた。
そして私の番になり、あらかじめ決めていた速さで走り抜け日下部にタイムを聞きに行ったのだ。
「どうかな?」
「・・・早崎はアンカー、妹の早崎さんはその前な」
「へっ?」
まさかいきなり順番を決められるとは思っていなかったので、私は驚きに目を瞠って日下部を見る。
すると日下部は呆れた表情をしながら、私と響に視線を向けてきたのだ。
「・・・お前ら二人揃うと、なんか無敵っぽいな」
「ふふ、そうだろう?」
「そうかな?」
響は含笑いを溢し、私はキョトンとしながら素直に否定する。
「しかし・・・どうもお前ら、まだ本気出して無いだろう?」
「「さあ~どうだろう?」」
日下部が怪訝な表情で私達にそう聞いてきたので、私と響は同時にとぼけた様子で返事を返したのだった。
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