初デート
高円寺の誕生日から数日が経ったある日、高円寺からメールでお出掛けのお誘いがあった。
『今度のお休み、この前の誕生日プレゼントのお礼も兼ねて一緒に学園の外に出掛けない?もしOKなら寮に外出届けを出しておいてね』
そんな内容のメールだったので、私はすぐにOKの返事を返し寮に外出届けを出しておいたのだ。
そうしてそのお休みの日まで、私はワクワクしながら授業を受けていたのだった。
高円寺とお出掛けする当日、私は自室の鏡の前に立ち身支度の最終チェックをしている。
よくよく考えたら、高円寺と付き合い出してから初めて二人っきりで出掛けるので、私は気合いを入れて身支度を整えているのだ。
今日の私の格好は白いワンピースを着ていて、髪もその服に合うように清楚な感じで結い上げてある。
そして化粧も濃すぎないように気を付けて、自然な感じの化粧にしてみた。
私はもう一度鏡の中の自分をじっくり見て、その場でクルリと回ってみる。
するとスカートがふんわりと広がり、なんだか気分が良かった。
そんな事を鏡の前で繰り返していると、近くに置いていた携帯からメールを知らせる音が鳴り響く。
私は慌てて携帯を手に取りメール画面を開くと、案の定高円寺からもう校門の前で待っていると言う内容のメールだった為、私は急いで用意していた白いショルダーバッグを肩に掛け、自室から飛び出したのだ。
そうして大急ぎで校門に辿り着くと、そこには黒い高級車に寄り掛かっている私服姿の高円寺がいたのだった。
私はそのあまりにも絵になる姿に一瞬ドキッとしながら、駆け足で高円寺に近付く。
「高円寺さん!お待たせしてごめんなさい!!」
「ああ詩音さん・・・・・その服よく似合っているね。可憐でとても可愛いよ」
「あ、ありがとうございます・・・高円寺さんこそよく似合ってて格好いいです!」
「ありがとう」
そう言って高円寺に微笑まれ、私はさっきから続いていた動悸がさらに激しさを増したのだ。
「さあ、じゃあ行こうか」
高円寺はそう言うと、車の助手席側のドアを開け私に座るように促す。
「え?もしかして、高円寺さんが運転されるんですか?」
「そうだよ・・・やっぱり私の運転では不安かな?」
「そ、そう言う訳では無いんですが・・・」
「まあ、不安な気持ちは分かるよ。でも私が免許を取ったのは、実は去年の誕生日を過ぎたすぐぐらいなんだ。そして実家にいる時に、一応プロのドライバーにみっちりと運転技術を教え込まれていてね、そのドライバーから太鼓判を貰っているからそんなに心配しなくて良いよ」
「そ、そうなんですか・・・」
高円寺の話で若干不安は無くなったが、やはり色んな意味でドキドキしながら、私はその助手席に座る事にした。
私が座ったのを確認した高円寺は優しくドアを閉めた後、すぐに運転席側に回り込みドアを開けて運転席に座る。
そうして私達はシートベルトを締めると、高円寺は車のエンジンを掛けそして滑らかに車を発進させたのだ。
最初は少し不安だったが暫く乗っていると、高円寺の運転が凄く上手い事が分かり安心して乗っていられる事が出来た。
そうして高円寺の運転で暫く車を走らせ、いくつか街を過ぎて漸く目的地に到着する。
高円寺にエスコートされて車から降りた私は、キョロキョロと辺りを見回す。
「・・・ここは?」
「海辺にある街だよ」
そこはそれほど大きな街ではないが、お洒落なお店が建ち並びそして海辺の街だと言われるだけあって、時々吹く風から潮の香りがしていた。
「それじゃ行こうか」
「あ、はい」
高円寺は私に優しく微笑み手を差し出してきたので、私は恥ずかしがりながらもその手を取る。
そうして私達は手を繋ぎ合いながら、その海辺の街を散策する事にしたのだ。
やはり海辺の街だけあって、それぞれのお店で売られている物に、貝や珊瑚など海に関した物を使っている物が多かった。
そしてどれも精巧に作られているので、見ているだけでもとても楽しかったのだ。
いくつか店を見て回りそろそろお昼の時間になってきたので、私達は小高い丘に一軒だけ建っているお洒落なレストランに入っていった。
「予約した高円寺だが」
「高円寺様、お待ちしておりました。ではどうぞこちらに」
店の入口にいたウェイターに高円寺が声を掛けると、そのウェイターは笑顔で私達を店の奥に案内してくれたのだ。
そうして私達が案内された場所は、個室であるがそこはバルコニーになっており、そのバルコニーに用意されていたテーブルの下に近付くと、そこから眼下に青く輝く広大な海が見渡せたのだった。
「うわぁ~!綺麗~!!」
「良かった。詩音さんならきっと気に入ると思ったから、このお店に予約を入れておいたんだ」
「ありがとうございます!」
そうニッコリと高円寺に微笑まれ、私はにかみながらお礼を言う。
そうして私達は席に着くと、あらかじめ高円寺が料理を注文してくれていたらしく、次々と料理が運ばれてきたのだ。
ここは海辺のレストランなので、海鮮類の料理が出てきたのだが、やはり高円寺がお薦めしてくれたお店だけあってどれも頬っぺたが落ちそうな程美味しかった。
そして最後のデザートを食べ終えた私は、とても満足気な顔をして食後の紅茶を飲んでいる。
「本当にいつも、美味しそうに食べるね」
「だって、本当に美味しかったですから!高円寺さん、こんな素晴らしいお店に連れてきて下さって、ありがとうございます!」
「いえいえ、どう致しまして。そんなに喜んでくれて良かったよ」
そうして私達は暫くお喋りをしながら、ゆっくりと食後の時間を楽しんだ。
私達はレストランを出た後、再び街を散策しそして日が傾き始めた頃、学園に帰る為停めてあった車の場所まで戻った。
「ねえ詩音さん、この後少しだけ寄りたい所があるんだけど良いかな?」
「あ、はい。私は全然大丈夫ですよ」
「ありがとう」
そうして私達は車に乗り込み、高円寺の運転で暫く道を走ったのだ。
街から離れ暫く走った所に小さな駐車場があり、そこに高円寺は車を停めた。
そして私は高円寺に手を取られながら車を降りたのだが、回りには他に誰もおらずさらに何も建物らしき物が無い場所なので、一体ここは何なんだろうと戸惑っていたのだ。
「高円寺さん、ここは?」
「ふふ、付いてきてくれれば分かるよ」
そう高円寺は楽しそうに笑うと、私の手を握ったまま歩き出してしまう。
私はさっぱり訳が分からないながらも、その高円寺に連れられたまま駐車場内を歩いていると、駐車場の端から下に降りる石階段が現れた。
「足元に気を付けてね」
「はい」
すっかり夕焼けが辺りを包み込んでいる中、私は足元に気を付けながらその石階段を一段ずつ降りていく。
そうして一番下まで辿り着くと、そこは砂地である事に気が付いた。
「ほら、詩音さんあっちを見て」
「え?・・・うわぁ~!!」
私は石階段を降りる事に集中していたせいか、周りを全然見ていなかったので、目の前に広がるこの光景に気が付いていなかったのだ。
そこには夕陽に照らされて、赤くキラキラと輝く海が目の前に広がっていた。
私はその光景に、うっとりと見とれてしまう。
「少し浜辺を歩こうか」
「・・・はい」
私達は手を繋ぎ合いながら、ゆっくりと浜辺を歩いたのだ。
そうして暫く二人で浜辺を歩いていると、突然高円寺が足を止め私の方に体を向けてきた。
私はその高円寺を不思議そうに見上げると、何故か高円寺は真剣な眼差しを私に向けてきていたのだ。
「高円寺さん?」
私が戸惑った声で高円寺の名前を呼ぶと、突然高円寺が片膝を地面に着け私を見上げてきた。
「詩音さん・・・これを」
「え?」
高円寺は胸元に手を入れると、そこから小さな箱を一つ取り出したのだ。
そして高円寺は、その箱を開け中身を私に見せてきた。
その箱の中には、1㎝程のダイヤモンドとその回りを精巧なデザインで装飾された指輪が入っていたのだ。
「こ、これは?」
「詩音さん・・・どうか私と婚約して欲しい」
「え?」
私は驚いて高円寺の顔を見るが、その高円寺は真剣な表情で私を見ていたので、それが本心だと言う事が分かった。
え?え?婚約?婚約って事は将来は・・・高円寺さんと私が結婚!?
その未来予想図に、私の頭の中は大混乱していたのだ。
「え~と・・・私達、まだ付き合ってそんなに経っていませんよ?それに、私もまだ高校生だし・・・」
「それは分かっている。私だって、さすがにすぐ結婚して欲しいとは言わないよ。だけど・・・他の男がまだ詩音さんを狙っているかもと思うと、一緒の学園にいても不安で堪らないんだ。だから自分勝手だと分かってはいるが、正式に詩音さんと婚約してそんな男達を詩音さんに近付けさせないようにしたい!」
「高円寺さん・・・」
「どうか私の気持ちと共に、この指輪を受け取って欲しい」
そう言って高円寺は真剣な眼差しで、持っていた指輪の入っている箱をさらに私に近付けてきた。
私はそんな高円寺をじっと見つめると、そっと目を閉じ自分の胸に手を置いて真剣に考え始める。
そうして色々考えた末私の中で答えが出ると、閉じていた目を開け見上げてくる高円寺に微笑んでみせ一言言った。
「・・・はい」
私の返事を聞いた高円寺は、とても嬉しそうに破顔したのだ。
「ありがとう」
そう高円寺は言うと、私の左手を取り箱から指輪を抜き取るとそっと薬指にその指輪をはめてくれた。
「よく似合っているよ」
「ありがとうございます」
私は嬉しさに目頭が熱くなりながら、立ち上がった高円寺を見上げ頬笑む。
そんな私を、高円寺は微笑みながら抱きしめてきた。
そして私はその胸に顔を預け、そっと高円寺の背中に手を回す。
そうして私達は、夕陽が海に沈むまでずっと抱き合い続けたのだった。
「・・・名残惜しいけど、そろそろ帰ろうか」
「・・・はい」
私達はゆっくりと離れるが、何だか寂しいくなって思わず高円寺の袖口を掴んでしまったのだ。
「詩音さん・・・」
「あ!ごめんなさい!」
私は急いで袖口から手を離し引っ込めようとするが、それよりも早く高円寺が私の手を掴まえる。
そしてその手を強く引かれ、私は再び高円寺の胸に抱き込まれた。
「こ、高円寺さん!?」
「詩音さん・・・君は、私の理性を試しているのか?」
「え?」
「あんな表情で、さらに私の袖を掴むなんて・・・帰したくなくなるじゃないか」
「っ!!」
高円寺は少し困った表情をしながら、私を強く抱きしめてきたのだ。しかしすぐに、高円寺は私を離してくれた。
私はその行動に驚き、目を瞬きながら高円寺の顔を見つめる。
「そんな顔をしないで欲しいな。本当に帰せなくなる」
「そ、そんな事言われましても・・・」
「さあいつまでもここにいると、私の理性が保たないから帰ろうか」
「は、はい」
そうして私は苦笑している高円寺に手を引かれ、学園に帰る為車の停めてある駐車場まで、すっかり暗くなってしまった浜辺を歩いて行ったのだった。
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