二人っきりでの散策
私達はカル達と出会すのを避ける為、高円寺が乗っていた車で少し離れた商店街へとやって来た。
そしてまずそこで薬局を探し、すぐに見付けた薬局で湿布を購入したのだ。
高円寺は私の手首に巻いていたハンカチを取り、代わりに湿布を貼ってくれた。
私は結んだ事でシワが付いてしまったハンカチを、やはり洗って後で返しますと言ったのだが、気にしなくて良いと断られ結局私が貰う事となってしまったのだ。
そうして手首の治療を終えた私は、高円寺と二人で商店街を散策する事となった。
『あら~!そこの美男美女のお似合いカップルのお二人さ~ん!ちょっとうちの店の串焼き食べていかな~い?なんだったら、そっちの彼氏に奢って貰ってさ~?』
そう店先で元気良く恰幅の良いおばさんが、焼いたばかりの肉の串焼きを手に持ち私に声を掛けてくる。
しかしそう声を掛けられた私の方は、とても複雑な表情をしてそのおばさんを見た。
『・・・あの~僕、男なんですが?』
『え!?そ、そうなのかい!?凄く綺麗な顔立ちだったから、てっきり女の子だと思ってたわ。・・・本当にごめんなさいね。良かったらお詫びにこれあげるわ!』
『い、いえ、お気になさらず・・・』
『良いから良いから!あたしが悪かったんだからさ!』
そう言っておばさんは申し訳無い表情で、強引に焼きたての串焼きを二本私に渡してきたのだ。
私は渡された串焼きをじっと見つめてから、私達のやり取りを苦笑しながら見ていた高円寺に一本手渡した。
そうしておばさんにお礼を言ってその店を離れ、近くのベンチに座って頂いた串焼きを食べたのだ。
「美味しい!」
「確かに美味しいね。肉汁が口の中で溢れスパイシーな味付けが癖になる。・・・しかし早崎君と一緒にいると、色々な物が貰えるな」
そう言って高円寺は、チラリと手に持っている袋を見た。
その袋の中には様々なお菓子や小物などが、袋一杯に入っていたのだ。
実は私が女の子と見間違いされたのは、今回が初めてでは無かった。
すでにさっきの店を入れて、五件程間違われている。
そして全ての店で私が男だと言うと、皆謝りながらお詫びとしてお店の物をくれたのだ。
・・・この国では、私は女の子に見えてしまうのかな?まあ確かに学園では、最初っから男と言って入学してるからな~。皆疑う事無く私を男と思っているんだよね。
そう心の中で苦笑しながら、串に付いてた最後の一切れの肉を頬張り、近くにあったゴミ箱に串を捨てた。
そして私が肉を飲み込んだのを見計らって、一足先に食べ終わった高円寺がベンチから立ち、私に手を差し伸べてくる。
私はそんなに気を使わなくてもと思いながら、仕方がなくその手を取ってベンチから立ち上がった。
すると至る所から何か視線を感じ何気無くそちらを見ると、現地の人々が私達を生暖かい眼差しで見ている事に気が付いたのだ。
何だかその視線が恥ずかしくなり、急かすように高円寺の手を引っ張りその場から足早に離れたのだった。
そして先程の場所から離れた所で歩を緩め、再び高円寺と一緒に色々な店を見て回る事にしたのだ。
「そう言えば、こうして早崎君と二人で色々見て回るのは、去年の学園祭以来だね」
「ああ、そう言われればそうでしたね」
「しかし・・・あの時のように君が女装しているなら分かるけど・・・今は制服姿なのに、何故か皆私達をカップルだと勘違いしてくるね」
「・・・・」
・・・そう言えば、私を女の子と勘違いしてくると同時に、何故か私達をカップルだと勘違いしてくる人が多かったんだよね・・・ん?カップル?あれ?今、私(女)と高円寺先輩(男)は二人っきり。周りは見知らぬ現地の人々。ここは学園では無い旅先の商店街。二人で買い食いしたりお店を見て回ったりしながら、おしゃべりして気ままに散策中・・・あれれ?これ噂で聞く『デート』と一緒じゃない!?
そう意識すると、急にこの状況が恥ずかしくなり頬が熱くなってきた。
「・・・早崎君?どうかした?」
一人考え事をしていたせいで、いつの間にか俯いていた私を心配してか、高円寺が頭を屈めて私の顔を覗き見てきたのだ。
「っ!!な、何でも無いです!!」
急に高円寺の顔が近くに現れたので、私は動揺しつつ慌てて高円寺から距離を取り、手と頭を同時に横に振って何も無い事をアピールする。
「だが顔が赤いようだけど・・・何処か体調悪くなったのでは?」
「ほ、本当に何でも無いんです!」
さらに心配してきた高円寺が私に近付いてきたので、私はなんとか後ろに一歩下り距離を取った。
するとその時、ふと高円寺の後ろにある店のショーウインドーに私達の姿が映っている事に気が付く。
そこには、私服姿の高円寺と『男の制服』を着た自分が映っていたのだ。
そう、だった・・・私、今響の振りをしてるから『男』なんだ・・・そして、高円寺先輩は私を響だと思っているから・・・私の事、男だと思っているだった。
そう実感すると、さっきまでの動揺が嘘のように治まり、熱くなっていた頬もすっと冷えていく。
そして代わりに、何故だか胸がチクリと痛んだのだ。
「早崎君・・・本当に大丈夫か?何だか今度は、泣きそうな顔になってるが?」
「っ!だ、大丈夫です!多分食べ過ぎのせいですよ!さあ行きましょう!」
私はまだ痛む胸を気にしないようにし、心配そうに見てくる高円寺にぎこちないながらもなんとか笑顔を見せ、これ以上顔を見られないようにさっさと歩き出したのだ。
高円寺はそんな私を見て、これ以上何も聞かない方が良いと察してくれたのか、何も言わず私の横に来て一緒に歩き出してくれた。
そうしてすっかり胸の痛みも無くなり元に戻った私は、目についたある一件のアクセサリーショップに、高円寺と共に入っていったのだ。
その店は、様々なデザインのアクセサリーが沢山置いてある店だった。
店員に話を聞くと、ここに並んでいる商品は複数いるフリーのデザイナー達が、自分でデザインして作った作品を持ち寄りここで販売しているらしい。
なのでどれも一点物で、世界に同じ物は何処にも売ってないと聞いた。
そんな話を聞いた私は、素敵だと思いじっくりと商品を見ながら店内を見て回る。
しかしちょと高円寺の様子が気になった私は、チラリと高円寺の方を見ると、高円寺も興味深そうに並んでいる商品をじっくり見ていたのだ。
とりあえず高円寺も楽しんでいるようで安心した私は、商品を見て回る事に集中する。
暫く店内を見て回っていると、私はあるアクセサリーに目が奪われた。
それは、銀色の小さな三日月とその三日月の間に青い綺麗な石が付いているネックレスだったのだ。
よく見ると、三日月の部分や石を支えている金具の部分に細かい模様が彫られていて、とても繊細で美しい一品だった。
私はその美しさに暫し見とれていると、そんな私の様子に気が付いた高円寺が私の近くにやって来る。
「早崎君?何か気になる物でもあったのか?」
「あ、はい。このネックレス、凄く綺麗だと思いませんか?」
「・・・本当だ。飾りは小さいが、逆に小さいからこそとても丁寧に作られていて美しいな」
私の横で、高円寺は感心しながら見ていた。
「しかし・・・これはどう見ても女性用のネックレスだけど、早崎君は・・・これが欲しいのか?」
「え?あ!え~と・・・これ、妹の詩音に似合いそうだな~と思ったんです」
「ああなるほど」
なんとか私の苦し紛れの言い訳を、高円寺は信じてくれ密かに胸を撫で下ろす。
「・・・早崎君、ちょっと後ろ向いてくれるか?」
「へっ?あ、はい。分かりました」
なんだかよく分からなかったが、言われた通りに高円寺に後ろを向けた。
すると背中に温かい物が触れたかと思ったら、顔の両側から手が後ろから伸びてきたのだ。
そして私の顔のすぐ横に高円寺の顔が現れ、微かに息が耳に当たった。
その突然の出来事に、私の心拍数は一気に上り私は慌てて高円寺から離れようとする。
「動かないで」
「っ!!」
耳元でそう囁かれ、私は息を詰まらせて言われた通りその状態で固まったのだ。
するとそこで、高円寺が私の首に何かキラリと光る物を通し後で留めている事に気が付いた。
「よし、留まった」
高円寺が後でそう言うなり、私の両肩を掴んでクルリと高円寺の方に向かされたのだ。
そして高円寺は、私をまじまじと見て満足そうに頷く。
「うん。よく似合ってる」
「???」
一体何の事を言っているのか分からず、困惑しながら首を傾ける。
するとそんな私の様子が面白いのか、含み笑いを溢しながら近くにある鏡を指差したのだ。
「自分で見てみれば分かるよ」
「はぁ・・・」
頭の中が疑問符で一杯になりながら、言われた通りに鏡の前に移動してみた。
「なっ!」
そこに映っていたのは、驚いた表情をしている私の首に先程までずっと見ていた、あの三日月のネックレスが首に掛かっている姿だったのだ。
「どう?よく似合っていると思うけど?」
鏡越しに高円寺と目が合い誉めてくれるので、なんだか凄く恥ずかしくなった。
だけど似合ってると言われ、恥ずかしい中にも嬉しいと言う気持ちが入り交じっていたのだ。
「いや・・・似合ってると言われても・・・」
「大丈夫!君に似合うんだから、顔がそっくりと君が言ってる妹さんにもきっと似合うよ」
「・・・えっ?」
「・・・どうした?妹さんに似合うかどうか気にしてたんだろう?」
「・・・た、確かにそうです・・・」
あんなに嬉しかった気持ちが一気に萎み、再びまた胸がチクリと痛む。
「そうだ!折角だからこのネックレス、私が買ってあげるよ」
「え!?いえいえそんな事して頂かなくても・・・!」
私は慌てて断るが、高円寺はサッと私の首からネックレスを外すと、そのままレジに持っていってしまったのだ。
そしてさっさとお会計を済ませて戻って来ると、可愛い袋に入れられたネックレスを私の手に乗せてきた。
「こ、高円寺先輩!お金なら僕が!!」
「気にしなくて良いよ。今日私に付き合ってくれたお礼だから」
「いえいえ!それだったら、むしろ僕の方がお礼を!!」
「大丈夫。本当に気にしなくて良いよ。そもそも私が買ってあげたかっただけだからさ。だから、ちゃんと詩音さんに渡してね」
「っっ!!」
何の疑いも無く、そう笑顔で言ってくる高円寺を見て思わず息が詰まる。
・・・高円寺先輩が言う『詩音』は、目の前にいる『詩音』では無く、今も実家にいるであろう『詩音』の事・・・でも、本当はその『詩音』は目の前にいるんです!でも、高円寺先輩がこのネックレスを贈ろうとしてる相手は・・・目の前の私では、無い・・・。
そう考えると、どんどん気分が落ち込んできた。そしてさらに胸の痛みも強くなったのだ。
「早崎・・・君?」
「ご、ごめんなさい!あまりに嬉しかったから言葉が出て来なかったんです!ありがとうございました!実家に帰った時にちゃんと渡しますね!」
そう言ってなんとか笑顔を取り繕ったが、正直ちゃんと笑えていたか自信は無かった。
何故なら高円寺が私の顔を見て、なんだか戸惑った表情をしていたからだ。
結局高円寺はその後、何も聞いて来ようとはしなかったので、私も敢えて何も言わず、そのまま何事も無かったかのように二人で商店街を散策し続けたのだった。
そうして時間ギリギリまで散策した私は、再び高円寺の車に乗せて貰いホテルまで送って貰ったのだ。
そして同じホテルに宿泊している高円寺と共に、ホテルのロビーに入ると、ロビーにあるソファに座っていたカルと三浦が私達の姿に気付き、勢いよく立ち上がってこちらに駆けてきた。
「響ーー!!」
「あ!カルと三浦君、ただいま~」
「早崎君、おかえり」
「響!無事か!?この男に何かされて無いか!?」
カルはそう言うなり、私の両肩をガッシリ掴んで横にいる高円寺を睨み付ける。
「いやいや、何も無いから!」
「本当か?・・・それにしても、どうしてオレ達に黙って一人で行ったの?」
「え?いや、それは・・・」
「それは、たまたま一人で暇そうにしていた早崎君を、私が無理矢理誘って連れ出したんだ」
「こ、高円寺先輩!?」
「・・・だったら何故その時、オレ達に声を掛けてくれ無かったんですか?」
「声を掛ければ、絶対君達も付いてくるだろ?私は早崎君と二人で行きたかったから、その時は声を掛けず後で私のSPに伝言を頼んだんだ」
「だが!!」
「・・・早崎君、もう疲れただろう?今日はもうゆっくり休みなさい。私も明日帰国する為、朝早いからもう寝るよ。おやすみ」
「・・・おやすみなさい」
「ちょっと待っ!まだ話は!!」
まだ食って掛かろうとしているカルを無視し、高円寺はホテルのエレベーターに向かっていってしまう。
ただ去り際に、高円寺はポンと私の頭に手を置き軽く撫でてから、そのまま振り返らず去っていったのだ。
その後三浦と二人でなんとかカルの怒りを鎮める事に成功し、カルに高円寺と何をしていたか色々聞かれたが、当たり障りの無い説明をして、すぐに疲れたからと言って逃げるように部屋へ戻って行った。
そして次の日になり、さすがにもう学園へ戻らないといけないからと言って、高円寺達は帰国して行ったのだ。
そうして高円寺達が帰った後は、残りの旅程を問題無くこなし私達も帰国の途についたのだった。
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