ご褒美温泉旅行
委員長と二人で、料理全制覇目指した結果・・・三分の一食べた時点でギブアップしたのだ。
結局食べ過ぎた事で気持ちが悪くなった私達は、早々にパーティー会場から退出したのだった。
そうしてクリスマスパーティーも終わり、数日後終業式を経ていよいよ冬休みに突入する。
冬休みに入った事で、学生寮からほとんどの生徒が実家に帰省した。ただし、一部の生徒だけはまだ学生寮に残っている。
そしてそんな私もその一部の生徒だった。何故なら、あの学園祭の人気投票で獲得した温泉旅行に、今日からクラス皆で行く事になっているからだ。
私は自室で悩みながら、旅行に持って行く物を旅行カバンに詰めていた。
そして漸く全ての荷物を詰め終えたタイミングで、入口のドアが叩かれ外から委員長の声が聞こえてくる。
「早崎君!そろそろ時間だけど、もう準備出来た?」
「委員長、遅くなってごめん!準備出来たからすぐ行くよ!」
そうドアの向こうに声を掛け、すぐさまカバンを手に持ち急いで部屋から出たのだった。
委員長と二人で急ぎ学生寮のエントランスを抜けると、既に大きな観光バスが停まっていて、もう他の人達はどんどん乗り込んでいたのだ。
私達はすぐにバスの入口に向かい、入口付近に立っていたバスガイドに名前を名乗り、持っていた名簿で名前を確認して貰って漸く乗車する事が出来た。
もうほとんど皆乗り込んでいた為、前の方で空いてる席に委員長と並んで座る。
そうして、全員が乗り込んだ事を確認出来たバスガイドが最後に乗り込み、いよいよ目的の温泉旅館に向けてバスが発車したのだった。
バスに長時間揺られ途中観光地で昼食を取った後、日も暮れ出したぐらいに漸く目的の温泉旅館に到着したのだ。
長時間のバス移動で皆若干疲れた表情をしながら、バスの運転手とバスガイドにお礼を言ってバスを降りていく。
私と委員長も皆に遅れてバスを降りたのだが、先に降りた人達が何故か立ち止まってある方向を見つめていたのだ。
私はその皆の視線を追い、正面を見て目を瞠った。
「す、凄く綺麗!!」
そこには周りを山々の自然に囲まれながらも、全く見劣りせずむしろ溶け込むように佇む一軒の大きな建物が建っている。
その建物はとても大きく所々細かい模様が刻まれており、その佇まいは風情がありながらも荘厳な雰囲気が漂い、そして昨日までに降り積もった雪で真っ白に雪化粧され、とても優美な旅館だったのだ。
私達は圧倒なその佇まいに暫し呆然と見惚れ、そしてバス移動の疲れなど吹き飛んでしまったように、皆ワクワクした表情で旅館の玄関をくぐったのだ。
玄関を入ると、仲居や料理人等旅館の従業員達がずらりと並び、勢揃いして私達を出迎えてくれた。
そのあまりにもの大歓迎ぶりに、私達は戸惑い玄関で立ち止まって目を瞬かせていたのだ。
すると奥の方から、スーツを着た男性がこちらに近付いて来ている事に気が付く。
その男性を良く見ようと、私は目を細めじっと見つめていたその時、私より前にいた女子の集団がその男性の存在に気付き、そして突然黄色い声を上げたのだ。
私はその黄色い声に既視感を感じ、もう一度良く男性の顔を確認する。
するとさっきより近付いてきた事で、その顔をしっかりと確認する事が出来、そしてその顔を見て驚きに目を瞠った。
「な、何で桐林先輩がここに!?」
私はそう小さく驚きの声を上げる。その奥から、スーツを着て現れた男性が桐林と分かったからだ。
桐林はグレーのスーツをキッチリ着こなし、眼鏡を押し上げながら私達の目の前に立った。
「ようこそ当旅館へ」
そう言って口角を少し上げ、私達を見回してきたのだ。
「桐林先輩!どうしてここにいらっしゃるんですか!?」
桐林の近くにいた男子が、驚きながらそう桐林に質問をする。他の皆も同じ気持ちだった為、皆黙って桐林の方を見ていた。
「ここは、俺が経営している会社が運営する旅館だ」
「そ、そうなのですか!?」
「今回学園側から学園祭のご褒美の相談を、俺達二年の生徒会メンバーに密かにされ、それならばとここの旅館を提供する事にした。そして、どうせここの視察をその内する予定だったから、どうせならとこの日に合わせて来る事にしたのだ」
そう言って、桐林はチラリと私を見たような気がする。
桐林先輩がここにいる理由は分かったけど・・・わざわざ今日を選んで来たのは、視察だけが目的で無いような気がする・・・。
私はそう思い、頬を引きつらせながら桐林を見ていたのだ。
仲居の案内で、私達はそれぞれ泊まる部屋に案内された。
一応ここの旅館の事は事前の案内書である程度知っていて、泊まる部屋は一人部屋か二人~三人部屋を選べる事になっていたので、私は迷う事無く一人部屋を指定する。
しかしその時、委員長が一緒の二人部屋にしないかと誘ってきてくれたのだが、さすがに同じ部屋で寝泊まりは出来ないので、申し訳無いと思いながらもその誘いを断ったのだ。ただその時の委員長は、とても残念そうな顔をしていた事に心が少し傷んだのだった。
そうして仲居に案内された部屋に着いた私は、その部屋の美しさに感嘆のため息が洩れたのだ。
私は目を輝かせながら部屋の中に入り、隅々まで清潔に整われたその優美な部屋を見回す。
そしてなにより感動したのは、窓から見える景色だった。
窓の外には真っ白に彩られた山が夕日に照らされ、その様はまるで一枚の美しい風景画のようであったのだ。私は暫し時を忘れ、その景色に見とれていたのだった。
部屋で荷解きを済ませ、夕飯の時間になったので私は急いで夕飯が用意されている宴会場に向かう。
そこはとても広い会場で、私達クラス全員が入ってもまだまだ余裕がある広さだった。
私は名前の書かれた札が置いてある席に座り、皆が揃うのを待ったのだ。
そうして漸く全員が揃い、委員長の乾杯の合図で夕飯が開始された。
夕飯として出された料理はどれも凄く美味しく、さすが国賓等の一部の人しか泊まる事の出来ない、超高級旅館の料理だと感心したのだ。
そして美味しい料理を堪能した後、私達はそれぞれの部屋に戻っていった。
部屋に戻ると、またのんびりと外の夜景を眺めボーとしていたら、突然携帯の着信音が鳴り出したのだ。
私は慌てて机の上に置いてあった携帯を手に取ると、その画面に委員長の名前が表示されているのを確認し、すぐに通話ボタンを押した。
「もしもし?委員長どうかした?」
「あ!早崎君?あのさ、さっき言い忘れてたんだけど、これから皆で一緒に温泉行かない?」
「えっ?」
「あれ?もしかしてもう温泉行っちゃった?」
「ああ・・・うん。もうさっき一人で行ったばかりなんだ。せっかく誘ってくれたのにごめんね」
「そっか・・・残念だけど、皆と行ってくるよ」
そうして明らかに残念そうな委員長との通話を終了し、そっと携帯を机に置く。
そう言えば、ここ温泉が有名な旅館だったもんな~。部屋に内風呂が付いているからすっかり忘れていたよ。ただ、さすがに委員長達と一緒に温泉入るのは・・・絶対無理だ。
私は一人で苦笑を溢しながら、仕方がないと思い部屋に付いている内風呂に着替えを持って向かったのだった。
月が真上よりやや傾き始めた深夜、私はそっと部屋の扉を開けキョロキョロと廊下を見回す。
やはり深夜だけあって廊下には誰もおらず、シーンと静まり返っていた。
私はそっと部屋を出て静かに扉を閉め、足音を殺して目的の場所までコソコソと向かう。
そして目的の場所まで来た私は、そこでピタリと足を止めた。
「う~ん。この場合、どっちにすれば良いのか・・・」
私は目の前にある二つの暖簾を見つめ、唸りながら険しい表情で考え込む。
その暖簾には『男』と『女』と書かれており、私はどっちの暖簾をくぐるか悩んでいたのだ。
実は委員長から温泉の話を聞いた時、一度は入る事を諦めたのだが時間が経つにつれ、やはりせっかく来たのに温泉に入らないのは勿体無いと思えてきて、私は皆が寝静まった深夜まで待ちコッソリ一人で温泉に入りに来たのだった。
しかしこの二つの暖簾を前にして、私は一体どっちに入れば良いのか頭を悩ませている。
・・・私は本当は女なのだから、女湯に入るのが正しいんだけど・・・今は誰もいないから良いけど、もし出る時にたまたま誰かクラスの人と出会いでもしたら・・・私、男と思われているから完全に痴漢か変態と思われてしまう!それは嫌だ!!・・・だからと言って、さすがに男湯へ堂々と入るのも・・・。
私はそう悩み続けた後、意を決した表情になり一歩足を踏み出したのだ。そう『男』の方に。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます