PAGE.414「千年の歴史を救った英雄の真実(その2)」


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「……随分と早かったじゃねぇカ」

 後日。ラチェット達は再び玉座の間へと導かれた。

 それはあまりにも急な事だった。呼び出されたのは昼間を迎えたあたりの頃。夜更かしをしてしまったラチェットの眠気が現在もれなく最高潮の状況だ。周りの目はギンギンであるのと対照的に。

 いくらなんでも、国の一番のお偉いさんの前でアクビだけはかますわけには行かない。ラチェットは必死に尻をつまみつつ、舌を噛みながら眠気をこらえている。

 突然の呼び出し。少しでも良いから与えてほしいと言い放った時間は半日とちょっと。それだけの時間で数百年間見つけることが出来なかったカルナを見つけ出したというのだろうか。

「……ナーヴァよ。彼等をその場所へ」

「了解した」

 無言でナーヴァは歩き出す。

 強制はしない。

彼らが捜しているという武器を見つけるのならついてこい。言葉を口にはせずとも、その反応が見て取れる。

「……気をつけたまえ。旅人達よ」

 立ち去る前。王・ロードはラチェットに言い放つ。

「彼は……強いぞ」

「?」

 カルナは魔族界戦争を駆け抜け、そしてこの国を守り続けてきた英雄だ。その強さは目にはしていないが、伝記に残るほどであり、その国の王と民全てが認めるもの。感覚だけでその強さは計り知れない。

 それを何故、今になって分かり切ったことを告げたのか。

(……まさか、な)

 深い事情は移動中にでも聞いてほしい。ここで長くは説明していられる状況ではない事も承知の上、彼はナーヴァと共にその場へ向かう事を告げたのだ。


「カルナ」

 王・ロードは頭を抱え項垂れている。

「また、お前に背負わせてしまったな……」

 顔を覆う腕の中には……一筋の涙が流れているように見えた。



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 一同はナーヴァと共にその場へ向かう。

 そう軽くはない足取り。城へ連れて行ったときは違う重い足取りで彼等をその場所へと連れて行く。

 緊張、なのだろうか。それとも恐怖なのだろうか。

 ナーヴァは何一つとして言葉を発しようとしない。彼等と視線を交らせようともしない。

「……なァ、俺達は今、カルナの元へ向かってるのカ?」

「そうだ」

 彼等の問いには答えてくれる。

 しかし、やはり言葉は震えているように聞こえる。覚悟を決めたような、この上ない何かを胸に秘めたような。

「お前達が求めているモノ。約束を守る」

 気が付けば、彼らは“以前ナーヴァと出会った遺跡”へと足を踏み入れていた。照らす松明を片手にナーヴァは遺跡の奥へと進んでいく。

(なんだ……この寒気は……なんダ?)

 その先の侵入を許さなかった未知の先。遺跡の奥へ。

(何か……やってはいけないことを、これからするような気分になるのはなんダ……?)

 底へ足を踏み入れた途端、またもナーヴァの足取りが重くなったような気がした。


 ___“扉”だ。

 術式らしき円陣が大きく扉に描かれている。発動した本人にしか基本解除は不可能なものでそれ以外の人間が触れれば手首が吹っ飛ぶ仕掛けが施されている。古代遺跡にはよく残されているものであることは何度も経験している彼等には分かっている。

「開け」

 ナーヴァは扉に手を触れ呟くと、結界は解除する。

 重く閉ざされた扉の鍵は外され、静かに、鈍い音を立てて開かれていく。


「……カルナは」

 扉が開かれたと同時。その先の空間に明かりが灯される。


「“生きている”」

 

___その広間の真ん中には

 精霊皇の剣を手に持った“黒い甲冑の騎士”が佇んでいた。


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 前夜。玉座の間。


「生きている……だと!?」

「はい、カルナは“生きています”」

 昨晩、ナーヴァは王に諭されたことにより、この数百年という長い歴史の中で隠していた事実を明かしたのだ。

 誰にも話すことではない。いいや、話してはならない。ナーヴァはその想いを胸に、今まで隠し通してきた……しかし、王には見抜かれていたようだ。


 ロードもまた、何か言えないワケがあった事を見据えていた。

 しかし、その数百年の苦しみを解放する時が来た。ロードはそう悟ったのだ。


 外の世界に崩壊の危機が訪れている。

 事と次第では……“この国も滅びの一途”を辿る可能性がある。

この世界が存在できるのも“魔法世界クロヌス”の存在あってのことだ。フォドラの核ともいえるクロヌスが崩壊してしまえば、その反動は間違いなくこの国にも訪れる。

 それだけは避けなくてはならない。

 王として、英雄の友として、ついにロードは踏み切ったのだ。


『数百年前、カルナが行方不明になったのは“お前との調査の後”だった。お前だけが先に国へ戻り、カルナはもう一仕事あると告げてそれっきりだ……お前は悲しんでいた。故に私は思っている』

 それが、彼への問いだった。

『カルナは既に死んでいる。お前との調査の先、何かよからぬ事態があったのだと……この数年。この国に何も起きないあたり、カルナは身を挺して脅威からこの国を救ったのだろう。お前が真実を黙っているのは私を気遣っての事か?』 

 行方不明になったその日。ナーヴァは彼と共にいた。故に彼はカルナの行く先を知っている。カルナに何があったのか……知っているかもしれない。

『教えてくれナーヴァ。何があった。カルナは何処にいる? 何処で散った? お前は何を守っている』

 その推察はあっていた。

 ナーヴァは、カルナのその後を知っていた。


『……違う、ロード。カルナは生きている』










「もう数百年。人間でしかないカルナは生きられない……それでも生きてると申すか?」

「ああ、カルナは生きている」

 拳を強く締めるナーヴァ。

 無念。恐怖。苛立ち。

 その動作だけで、彼に胸に籠る感情が伝わってくる。


「だが……」


 数百年前の真実。

 長く隠されてきたその事実を、ついにナーヴァは解禁する。


「もう、彼は“人間”ではない」

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