PAGE.397「たった一つの突破口(その3)」
数分後。王都の街を出る一台のバギー。ラチェット、アタリスを乗せたスカルの愛車が例の目的地へ向かって走っている。
その場所は運よくクーガーが大暴れした無法地帯とは真逆の方向だ。路面の問題も、突如襲撃してきそうな魔族の存在もなく、安心しながらスカルは二人を乗せてバギーを時計塔へと向かわせる。
「割とあっさり許可出してくれたもんだねぇ」
ラチェットとアタリス以外にも、バギーの席にはオボロが腰かけている。
「状況が状況だ。こんな絶体絶命なタイミングで旅行にでも出かける馬鹿じゃないって信用してくれてんだろ」
元トレジャーハンターであるオボロは当然その時計塔とやらに潜んでいるかもしれないワタリヨの存在には興味を示していた。神話上の存在をその目で見れるチャンス、面白そうだと無理矢理に同行したのである。
「……仲間を捨てて逃げる薄情者じゃないってこともね」
騎士団は彼等の外出を許可してくれた。ワタリヨに一度会ったという事も、この時計塔にもしかすればワタリヨがいるかもしれないということ全部を。
「少し寝ていいカ?」
到着まで若干の時間はある。コーテナ達は何でも屋事務所でお留守番。ラチェットの用事が終わるまでの間に休息をとっている。
移動中の間、とくにやることもない為に休息の許可を求める。ここを逃せばまた当分はゆっくり休める時間もなくなるだろう。
「ああ、ついたら起こしてやるよ」
「悪いナ」
すると、ラチェットは目を閉じ顔を俯く。一分もたたないうちに、寝息を吐き始めた。
「本当、頑張り屋な坊やだよ。この子」
オボロはそっと、子供のような安らぎの籠った寝顔を人差し指でつつく。
「俺らと比べてまだ青年手前だってのにさ」
ラチェットを乗せたバギーは傾いた時計塔へと進んでいく……。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
数分後。時計塔へ到着。
塔が傾いていることもあって、階段を上がるという感覚に妙な違和感がある。足元、視界、頭がこんがらがってしまいそうな不気味な感覚に戸惑いを覚えながらも一同は無理にでも慣らして上の階を目指す。
「部屋だ」
上り続けて見ると、屋上へと続く階段はガタが来ていたのか崩れ落ちている。その手前の部屋のドアを開く。そこは管制塔も言える見晴らしの良い一室。
「……間違いない、ここだ」
アタリスの記憶通り。うっすらとではあるが体が覚えているのか自然と頷いた。
「誰もいないな?」
特に誰かいる様子もない。ただの一室である。ほこりにまみれ、本や棚には一面にカビが生えている。空気も悪い散らかった部屋の中、人の気配一つ感じない一室にスカル達は嫌悪感を零し始めていた。
「ワタリヨ! お前に用があってきたッ!」
頭がおかしいと言われようとラチェットは口を開く。
「話がしたいンダ! だから、ここにいるなら出てきてくレッ!」
……叫んではみるものの、結果は分かり切っている。
無音。ラチェットの声が反響するのみ。どうしようもない虚しさが残るのみであった。
(……そう上手くは会えないカ)
ラチェットは次第に悲嘆を口にしようとする。
『あはは、騒がしい騒がしい』
虚無の空間。
『だけど、ようやく来てくれた』
一室に置いてあった“傾いたベッド”から声が聞こえる。。
___一斉に向けられた視線。
その先には白い長髪の少年。まるで天使のような雰囲気の子供がラチェット達に微笑んでいた。
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