PAGE.369「雲間の中の休息(後編)」
グレンでの戦いから数日。伝書鳩の通達により後日駆けつけた援軍の飛行船数隻。
同時その乗組員による伝令から、現在の王都での状況及び緊急事態……面倒な事が起きているとメッセージも一緒に届いたのである。
「次から次へと面倒な奴等だ……こっちで戦いがあったと思ったら、数日前まで何もなかった故郷の方で今度はおっぱじめやがった。好き放題やりやがるぞ、あのクソ野郎ども」
クロは嫌味がてらに愚痴を吐く。本格的に攻撃を開始した魔族の戦いの頻発ぶりに頭を痛めているようだった。
「ブチまけた話、始まっちまったってわけだよな」
疲労が溜まったような声。スカルは天井を見上げ呟く。
「“戦争”ってやつが」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
精霊皇飛行艇の甲板。そこではスカルの言う通り、アタリスとフリジオが風にあたりながら、外の景色を眺めている。
といっても、二人はそれぞれ適度な距離感を保っていた。
もとは一人でここにいたアタリス。それを追うように現れたのがフリジオ。一人勝手に何か変な真似をしないようにと仕事をほったらかして飛行艇に乗り込んだのである。
その傲慢さ。年をおいても解消される気配がない事に呆れてしまいそうになる。精霊騎士団という立場をここまで酷使する騎士もいるものか。
「戦争、か」
始まってしまった魔族界戦争。
島での戦いはその予兆。魔族界側からしたら挨拶程度であり準備運動のようなもの……これから本格的に始まっていけば、あれ以上の被害と厄災が訪れることになる。
「怪物の娘とはいえ、戦争は不安でしょうか?」
「まさか? 何が起こるのかと心が躍っている」
「そうでなくては……困ります」
相変わらずブレることのないアタリス。見た目の少女らしい不安なところなど微塵も見せず、ただ予測も出来ない嵐を前に興奮を隠せないでいるだけと狂喜的。
そんな姿に恐怖一つ浮かべることなく、むしろアタリス同様に狂喜を見せるフリジオ。変わった者同士、何処か逸脱してしまっている二人の会話には魔物よりも怖い闇が合間見えた。
「……だが不安が何一つないわけではない。魔族、私は以前それに敗れかけた」
右手の指につけられているのは、飾りであった宝石がヒビ割れた指輪。
「……彼女を救えるか。友を救えるかどうか、だ。それに対しての恐怖はあるな」
「元気づけてほしいですか?」
「いや、やめておくよ」
アタリスはふっと笑い、闇夜に染まりつつある雲を眺める。
「……少年の強がりほど、より不安になるものはないからな」
「分かったようなことを」
フリジオもそんなアタリスの発言に笑みを浮かべていた。
「む?」
二人暇つぶしの会話を終えたその時。アタリスはふと、ある程度の距離をとり前方を先行する王都の飛行船へと目を向ける。
「何か?」
「いや、なんでも」
アタリスが一瞬浮かべたのは、またも愉快な笑み。
「久しぶりの王都がどうなっているか気になってな」
「そう、ですか___」
何か面白いものを見つけたのかどうか……ただならぬ気配にフリジオは困ったように頬を掻いていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
グレンの住民たちを乗せた飛行船は何事もなく移動をしている。甲板の上。そこには二人の“住民らしき人物”が佇んでいる。
「……見事だったね」
女性。何処か低くすわったような声。
「だけど、次はうまくいくかな?」
フードで隠れた顔。影の中から出てきた人物の顔は……不敵に笑っている。
「“人間”たち」
二人の人影はラチェット達の飛行艇は一度だけ目を向けると、その場で姿を消してしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます