第14部 千年越しの血戰
【第14部 ~プロローグ~ 】
魔王城の砦にて、マックスは荒廃した大地を見下ろす。
以前と違い、魔物達が住みやすく大地へ魔力が潤った。魔物達は今までにない程の生き生きとした姿を見せるようになった。
魔族界の復活は近い。そして、進撃の時も。
ところが……その先に不安を覚えかねない出来事が起きた。
アーケイド。魔族界の中でも最大の戦力に数えられていた王が“人間”に敗れたのだ。数千数万の兵を持った王が、たった数百名の人間を相手に。
「精霊皇……たかが生身の人間がここまでの成長を遂げさせるとは」
人間という存在を侮ったからこそ、以前は敗北を喫した。
「分かっている。これは精霊皇だけの力ではない。生身の人間が彼の力を使おうものなら光の塵となって消えるのが摂理。だがあの人間はその力を我が物とし手足とした。これは紛れもなくあの人間の力だ」
そして今回。人間という存在を侮りこそはしなかった。アーケイドもその心意気で人間界に進軍を開始したのだろう。万全であったはずのアーケイドは人間界の希望とその希望の仲間達によってうち滅ぼされた。
成長しているのは魔族界だけではない。
生ぬるく平和に浸り生き続けてきた人間達も、間違いなく成長を見せていた。
「マックス」
彼の元へ、一人の魔族が顔を出す。
「……ワイドエイトか。体はもう大丈夫なのか」
ワイドエイト。光の闘士。砦の陰に隠れた魔族は密やかながらに現れる。まるで絵画に描かれた天使のように美しい魔族の姿はこの魔族界にはとても不釣り合いのようにも思える。
「ああ、充分に眠りにつけた……それよりも、だ」
「魔王様のことか」
振り向きはせずとも。言葉を交わさずともワイドエイトが聞きたいことは理解していた。
マックスはワイドエイトの次の質問を待つ。
「……あれは本当に魔王様なのか」
玉座の間にて傲慢すぎる態度を見せた青年。
「とてもじゃないが……以前と違いすぎる」
そんな彼の姿にワイドエイトは苛立ちを見せているようだった。
本当に彼が王なのか。冷静なイメージがあったワイドエイトが見せた事もない表情をマックスの背に向けている。
「魔王、であることに間違いはない」
マックスはそっと振り返る。この話に関しては、面を向いて話す必要があると認識したからだ。
「だが、まだ完全な復活は遂げていないようだ……魔王様の魂は、新たな器へと宿った。そして数か月の時を得て動き出した……しかし、まだ魔王様の意識が蘇っていない。“元の器の人格”が出てきてしまっているから、あのような態度を見せている」
「まだ、時間はかかるということか」
「ああ、しばらくは元の器の人格と魔王様の記憶。全てが混在とした不安定な存在のままだろう……本来の魔王様が復活を果たすまで、我々はまだ気を抜くわけにはいかない」
マックスはワイドエイトの元へ赴くと。軽く言葉一つ交わして砦の階段を下りていく。それに合わせワイドエイトも相談以外に用はないために彼の背についていく。
「ワイドエイト。起きて早々重荷を背負わせることになるが、よろしいか」
「構わない」
ワイドエイトはそっと胸に手を寄せる。
「魔王様……いや、マクヴェス様への忠義。お前と一緒で変わりはしない……引き続き、外の方を頼むぞ」
「礼を言う」
今も尚、暗黒の景色の中で不穏な空気がはびこる魔族界。
また一つ……世界に暗雲が立ち込めようとしていた。
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