PAGE.366「次元を超えた契約者 × 運命を超えた契約者(その3)」
コーテナが目を開けると、そこは雲が近い位置だった。
飛行船の上だ。ラチェットに援護射撃を続けていた飛行船の上。どうやら、吹っ飛ばされてそのまま甲板の上に不時着したようである。
体は今も黒い炎に包まれている。
体半分の魔族化と違い、“9割”へと達した力を纏っているために体は魔族特有のものへと変化しきっている。少しでも気を許せば、一瞬で体を飲み込むであろう漆黒が体の中で今も波打って体を押し破ろうとしている。
……コーテナは立ち上がる。
一歩ずつ、魔王の姿と化した少女は船の先端へ。
「ボクも守ってみせる」
人差し指。拳銃の真似事を両手で。
指先に集まってくる黒い炎。魔王の魔力が収縮されていく。
「ボクを信じてくれた全てを守ってみせる……その為に強くなったんだ!!」
トドメの一撃。これが最後の一騎打ち。
巨人アーケイドはもうすぐそこまで来ている。この一騎打ちで全てが決まる。
巨人に飲み込まれるか、人間が巨人を制するか。
コーテナは指先に自分の魔力の底が尽きる限界にまで力を集めていく。
「……全ク」
少女の腕に、暖かい腕が置かれる。
「何が守って見せるダヨ。先陣切って助けに来て、無様なところを晒してサ」
皮肉気に笑いながらも、彼女の成長を深く喜んでいるラチェットがそこにいる。
その顔。他人を信頼できず冷め切った表情の中で、微かに隠れている彼本来の優しさ。その暖かな表情に少女は懐かしさを覚える。
「……君も人のこと言えないじゃん」
「ハハッ、それもそうダナ」
互いに軽口をぶつけ合い、巨人を見合う。
「……俺の残った魔力をお前に送ル。確実に仕留めるゾ」
この一撃だけは失敗するわけには行かない。
確実に、あの巨人の息の根を止めるために……残った魔力の全てを彼女に捧ぐ。
「足りるかな。二人だけで」
「届かせてみせるさ」
コーテナの背中に、小さな掌が押さえつけられる。
「……どうだ? 間一髪のところで助太刀にやってくる味方のヒーローの真似事とやらは」
彼女の元へやってきたのは、いつの間にかそこにいたアタリス。アルヴァロスとの戦闘で衣服はボロボロだが、彼女はそんな姿を気にしない素振りで悪戯に笑っている。
「うん、最高にカッコいいよ」
「はっはっは、そうであろう」
カッコいいという言葉にアタリスは愉快に笑う。
「元気そうじゃねぇの。コーテナ」
また一つ、少女の体に手が触れる。触れられた手のひらと同時に懐かしい愉快な青年の声で少女の心が躍る。
「スカル!」
かつての仲間。一緒に冒険を共にしてきたスカルであった。
「ブチまけた話、俺の魔力何てここにいるお前等に比べたら微塵なものだろうけどよ、やれるものは全部やるさ……仲間だからな」
「男前な事言うじゃないかい、色男!」
また一つ、今度は華奢な腕が添えられる。
「オボロも!」
「まぁ、かくいう私もアンタ達に比べたらアリンコ程度だろうけどさ。力を分けさせておくれよ、何でも屋の一員としてね」
オボロは振り向いたコーテナに対し、ちょっと大人なウインクで返事をする。その横でスカルもちょっと照れ隠しに頭を掻きまわしていた。
「……ほいっと」
そこへ駆けつけてきたのはクロ。
すっかり以前の幼さは見せなくなり、コーテナやルノアのように女性らしさを見せ始めた少女へと姿を変えた彼女もコーテナに手を添える。
「クロ……ありがとう!」
「勘違いすんなよ、流れ的に仕方なくてやってるだけだ」
そっぽを向きながらも、クロも残った魔力を注ぎ始める。
「コーテナちゃん! 私も手伝うよ!」
ドラゴンで駆けつけたルノアも少女の肩に触れる。
「魔物退治のスペシャリストと言われた僕が何も出来ずに見ているだけだなんて粗末な姿を晒す羽目になると思いましたが……よかったですよ、僕にも仕事はありそうだ」
フリジオもいつもながらのイヤミを吐きながら少女に手を添える。
仲間達。皆から注がれていく魔力。
想いと共に注がれる力の奔流が、こんなにも暖かく心強い。
王・アーケイドは最後の拳を船に向かって突き付けてくる。
これが本当に最後の一撃。人間が勝利するか、魔族の軍が勝利するか。その全てを決める、最後の刹那だ。
「ボクたちは……勝つんだッ!!」
放たれる。指先に収縮されたエネルギーは黒い光線となってアーケイドの拳に飛んでいく。
拳の動きを止める。力の差は同等か多少推してるか……あと一歩。本当にあと一歩、その手前まで追いつめる。
《いっけぇえええーーーーーーーッッ!!》
コーテナは叫ぶ。そして、ラチェット達も叫ぶ。
地上にいる戦士達も、最後の希望に出し尽くせる限りの声を上げた。
『……ッ!』
アーケイドの拳が黒い波動に飲み込まれていく。
漆黒の光はアーケイドの肉体上部全てを飲み込んでいく。
『……見事だ、人間よ』
溶岩の中。灰となって滅んでいく巨体の中から、アーケイドの本体と思われる人型の何かが姿を現す。
『アグルの魂よ……永遠に、不滅なれ……』
王として、一国の主として。
その魂全てを背負い、炎の闘士は黒い炎の中で赤く燃え散った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
巨人は消え去った。
夕焼け色に燃え盛る世界。大地を焦がす炎は一瞬にして視界から消え去った。
「……勝った」
戦士たちは呟く。
「勝った!! 勝ったんだぁああああッ!!」
喜びの雄たけびを上げる。
人間の勝利。絶望を押しのけ見事勝利してみせた人間達は咆哮を上げていた。
「ふっ、これでひとまずは」
アタリスが労いの言葉をかけようとしたその時だった。
「……おっと」
コーテナの体がアタリスとルノアに身を寄せるように倒れる。二人は彼女が固い甲板に叩きつけられないよう支えてあげる。
体を支配していた魔王の魔力も引っ込んでいき、本来の姿へと戻っていく。
「って、こっちもかよ」
その反対方向では、クロとフリジオへ魔力を使い切ったラチェットが意識を失って倒れてしまう。二人も慌ててラチェットの体を支えた。
「……無理もありませんよ。一番頑張ったんですから」
「えぇ、間違いありません」
まだ、子供らしさを残す二人の寝顔。
清らかさを見せ、安堵し切った表情で眠る二人の顔に一同は微笑みを見せる。
「お疲れさん。二人とも」
「ひとまず、ゆっくりお休みなさいな」
夕焼け色の太陽が引っ込み、もうじき夜を迎えようとしている。
暗くなり始める風景でありながらも……極白の粉雪と、漆黒の光が、まるで朝であるかのようにグレンの島を照らしていた。
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