PAGE.361「アイ・アム・スーパー・リザードマン」
最上階手前。ラチェット達は玉座の間を目の前にしていた。
玉座の間の目前には数人の兵士がいる。これを乗り越えれば、あとは大将を目の前にするだけだ。
「……妙だな」
クロは兵士を影で仕留めながら口を開く。
「ああ、妙だナ」
ラチェットも滞納しすぎた魔力を消費するために、ちょっとずつ武器の具現化で消費しながら同時に呟く。
「何が妙なの?」
コーテナは魔族化の反動のダメージを抑えるために彼等に守られながら移動。その最中、不穏の表情を浮かべる二人に対して首をかしげる。
「……ここにいる兵士、あまり強くない」
ルノアもその違和感には気付いていた。
ここを陣取っている兵士たちは下にいた兵士と比べてまるで歯ごたえがない。この戦いに終えて自分たちが成長したとかそういう話でも何でもないとルノアは口にする。
弱い……というよりも、最低限の戦いの技術しか会得していない兵士がほとんどだ。玉座の間を前にしているというのに、最後の守りがあまりにも呆気ない。
情報伝達。いわば、伝達兵くらいしかこの一帯には潜んでいなかった。
「兵士を使い切ったってことか」
「……どうだろうナ」
あれだけの兵力。これだけ巨大な城ならば、まだ兵士が残っていてもおかしくはない。だとしたら、何故、ここに兵士が集結されていないのだろうか。
「既に王とやらは逃げたのカ……もしくは」
玉座の間へ到着する。
固く閉ざされた巨大な扉を、四人がかりで開いた。
「……歓迎、しているのかダナ」
ラチェットが出した後者の予想。
それは……どうやら大きく“あたり”のようだ。
「……来たか」
玉座の間には一人、何者かが腰かけている。
「待っていたぞ、“精霊皇の継承者”」
炎の王。アグルの主・アーケイド。
魔王直属の配下。最強の魔族が、敵を前にして堂々と玉座に腰掛けていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
トカゲ達は竜のように咆哮を上げ続ける。
竜とは気高き生き物。竜とは美しい生き物。竜とはカッコいい生き物。
トカゲ達。竜のように空を舞えず、ただ地上を這いまわるだけのリザードマン達はそんな理想に憧れた。地べたでざわめきを上げるだけの生き物で終わりたくはないと魔族界で大暴れし続けた。
「ぐぁああ! 兄貴ィイーーーーー!」
「ブレローーーォ! すまねぇええええッ!!」
次々と、人間を前にリザードマン達は倒れていく。
ある奴は得意であるはずの炎を前に塵として焼かれ、ある奴は刀で体を斬り捨てられ、ある奴は数を重視した制圧を前に飲み込まれていく。
『グッ……弟達……、最後ノ、最後マデ……」
上空を飛び回るはリザードマンの長であるガンダラ。
ただ一人、魔力に恵まれたこの男はこのような飛竜の姿を手に入れた。リザードマンでは成しえないであろう究極の進化を手に入れた。
結果として、空を自由に飛び回る竜の姿を手に入れたガンダラはリザードマンの長となり、何れ全員もこのような姿になれるようにと家族のように引っ張りまわしてきた。
ドラゴンの領域へと足を踏み入れつつあった一族は最早敵なし、魔族界でも有名な暴れん坊として名をとどろかせていた。そんなリザードマン達が、たかが人間風情に敗北などはないと、絶対の自信を持っていた。
『弱イ……コンナニモ、弱カッタノカ……!』
だが、彼らは敗北を喫し続けた。
精霊騎士団、思いがけぬ援軍。魔族界最強とうたわれる戦闘民族・アグルを前に現れた、魔法世界クロヌス最後の希望と呼ばれた精鋭達。
彼等は人間という枠に収まりながらも強かった。中には人間という枠を超えた存在すらもいた。
人間。軟弱な生き物と数えていたが、戦闘民族アグルと変わらず、その身には無限の可能性を秘めている。自身たちリザードマンと何一つ変わらない……いや、下手に出れば向こうが上、それを認めざるを得ない人間を前にガンダラは悔しさを募らせた。
『イィヤッ!!』
何より、志半ばで滅んでいく仲間を前に涙をこらえていた。
リザードマン達は空を飛んでみたいと思う者も多数いた。ブレロの仇を討ちたいと思うものも沢山いた。
『俺達ハ弱クナドアルモノカァアッ!!』
……皆を空に連れて行ってやれなかった。
ガンダラは人間達の頭上。天の座より咆哮を上げる。
『マシテヤ、人間ナドニ……俺達ガ負ケルカァアアアア!!』
リザードマンの魔力とは到底思えない業火は城下町を焼き尽くす。戦場に何の躊躇いもなく放たれた炎は、仲間の仇と無念の籠った怨讐が籠っていた。
残りはガンダラ一匹。リザードマンの一族はついに彼だけとなった。
これは最後のプライド。最後の足掻き。いくら、弟達がその姿を見ていないとしても、その身をかけてまで付いてきてくれた彼等に恩を報いるべく……リザードマンの長として、牙を剥き続けた。その場から退こうなどという考えだけには至らなかった。
「……アレをうどうにかしないとな」
騎士サイネリアは唸りを上げる。
あの飛竜は街中にて巨大化したブレロと比べれば、体において頑丈さは下であるとは思える。だが行動力や魔力は紛れもなくそれ以上。放っておけば、あっという間にここにいる軍勢は焼き尽くされる。
何としてでも手を討ちたいが、あれだけの速度で飛び回るドラゴンをそう簡単に捕らえられるのだろうか。
飛行用ドラゴンにまたがるサイネリアは、あのドラゴンを何とか止められないかと舌打ちをする。
「サイネリアさん!」
屋根上に上り、空を飛び回るサイネリアに声が届くよう、普段はあげないくらい大きなボリュームでフリジオは彼女を呼ぶ。
「ここはどうか、僕にお任せできませんか~!」
「手があるのか!?」
「僕を誰だと思ってるんですか!」
フリジオは胸に手を当て、自慢げに叫ぶ。
「魔物狩りの英雄。その末裔が一人であるフリジオです。あんな巨大な魔物一人でもどうにかしてみせますよ!」
「……なんでもいい! 手があるなら、とっととやれ!」
サイネリアは空からの攻撃を何とか回避する。
ドラゴンには乗りなれているのか、空での戦闘も難なくこなしている。しかし、ドラゴンへの使役の仕方が荒いのか、他の飛行用ドラゴンと比べて消耗が激しくなっている。これ以上続けるものなら、いつかは巨竜ガンダラに確保される。
空でちょっかいをかけ続けるサイネリア。その役目がいなくなれば、次に標的になるのは地上で戦闘を続けている人間達だ。怒りで我を忘れかけているあの竜の事だ、地上にいる仲間諸共焼き尽くすであろう。
早いところ対策に回る。サイネリアはフリジオに承諾のサインを送った。
「ホウセンさん! ここに敵を近づけないでください!」
「あぁ? なんでか理由を聞きたいが……」
「説明してる暇はないんですよ! 暇は!」
「……暇がないなら、仕方ないか!」
ホウセンと一部自警団はフリジオのカバーに回る。
これで彼に邪魔立てするものの心配はなくなった。あとは、その“手”とやらを回すだけである。
「……用意はOKです」
フリジオはそっと、首のチョーカーに手を伸ばす。
「魔力制限、“解除”します」
チョーカーを切った。
魔力。その欠片と思わしき何かがフリジオを纏う。
髪の先端。エメラルドグリーンに輝くフリジオの髪が靡く。風は吹いていないはずなのに、彼の周りには“無尽蔵”の風が立ち込め始めていた。
「バロットウェノム家に伝わる魔族狩りの切り札……“死の鳥籠”。お見せいたしましょう」
片手を天に掲げる。
フリジオの周りで暴れまわっていた謎の風。大気の形と化した魔力がフリジオの腕から天に放たれ、そのまま標的であるガンダラへと飛んでいく。
「風の精霊の力も使うのです……あれだけ巨大であっても、逃げられはしない……!」
空に放たれた魔力は巨竜ガンダラの周りに展開される。
『ナ、ナンダコレハッ……!?』
瞬間。ガンダラの動きがピタリと止まる。
まるで凍り付いたような。何かに鎖で繋がれたような感覚がガンダラを襲う。
腕が動かない。足も動かない。空を飛ぶために翼を羽ばたかせようとしても翼は動かないし、その体自体が“地上”に落ちる気配もない。
囚われている。ガンダラの体は完全に空中で抑えられていた。目に見えぬ“風の暴風結界”という鳥籠に。
「今です!」
「……なるほどな。話には聞いてたが強力だ」
サイネリアは片手に、もう一つの手を。両手をガンダラに向ける。
「チャンスは一回だろうな。こんだけの魔力だろうと、秒ももたない予感だ」
重複。重ねられた手の平で魔力が重複されていく。
三重。四重。五重……ダメ押しに六重。
「一発で決めてやる!」
マグマのように染まりつつあるファイアーボール。しかも、それは形を保つことさえ限界になっているのか、今すぐにでも暴発してしまいそうだと歪み暴れ、はち切れそうになっている。
「……落ちやがれ! トカゲ野郎ォオーーー!!」
サイネリアの全力。今撃てる最大級のファイアーボールを身動きが取れないガンダラへと向けて発射する。
それはまるで小さな太陽。
炎の精霊の力が、死の鳥籠目掛けて飛んでいく。
___大爆発。
それはビッグバンのように空へ光を与える。
「おわっ!」
「おおおっ!?」
その爆風に耐え切れず地上の建物は次々と崩壊を始める。地上にいた人間や魔族達もその爆風に耐え切れず、あたり散り散りに吹っ飛んでしまう。
『グッ、グォオオッ、グォオオオーーーーーッ!?!?!?』
爆発の中。砕け散っていくガンダラ。
元のリザードマンの姿に戻っていく中、ガンダラは咆哮する。
「兄弟たちィイイイっ! 今、行くぞォオオオオ……ッ!!」
ガンダラはその身一つ、微塵も残さず粉々になった。
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