PAGE.336「リザード・ブラザーズ(前編)」


 広場へと集結するリザードマン達。

 大王の配下であるガンダラとブレロにそっくりだ。しかし、一体一体に、トサカや鱗など微かな違いがある。


「俺の名前はボッド!」

「俺の名はゴズオン!」

「俺っちの名前はイギーだ!」

「俺のネームはマーサスってんだ!」

「僕の名前はコロボス!」

「俺はアーザキ!」

「そして俺はザワンだ!!」


「次男のブレロ!」

「最後は長男のガンダラ!」


 リザードマン達は集結すると一斉にポーズを取り始める。

 真ん中は当然長男を名乗るガンダラが飾る。その周りを彩るように残りのリザードマン達がそれぞれ指定されたポーズを取って名乗りを上げる。


「地獄の門が一人アーケイド大王様の忠実なる部下! この俺達兄弟が相手をしてやるぜぇえ!!」


 リザードマンの背景で何かが爆発するような幻覚が見える。

 決まったと言わんばかりの表情でガンダラは大満足。残りの弟たちもリハーサル通り百点満点の動きが出来た事に鼻息を勢いよく噴いていた。



 ……なんか変な奴等がやってきたものである。

 家計簿が壊滅しかねない数の兄弟達。あまりのテンションの温度差に人間一同は数秒くらいリアクションもコメントもしづらい空気になっていた。


「というわけだ! お前等、かかれぇ!」

「「「「「「「「行くぜぇえ!!」」」」」」」

 兄弟達。ガンダラの弟を名乗るリザードマン達が一斉に護衛団へと襲い掛かる。

 それに対し迎撃を開始。護衛団はリザードマン兄弟との戦闘を開始した。


「さてと……俺はお前に用がある」

 ガンダラは拳を鳴らしながらフリジオの元へ。

「よくも弟を可愛がってくれたな? その落とし前はここでキッチリつけてやるぜ」

「いいですよ」

 フリジオはそっとレイピアを抜く。

 過去に弟であるブレロは簡単に倒せている。こんな馬鹿な集団相手になら苦戦することもないだろうと、慢心気味に気持ちを入れ替える。


 

 背後。得意のフルスピードでガンダラの背後を取る。

 

「……甘ぇよ」

 ガンダラの背中。

 

 “微かに見える歪み。肌が焼ける様に熱くなる”。


「!!」

 慌ててフリジオはその場から離れる。


 炎が噴き出される。

 ガンダラの背中から大量の炎が噴き出した。炎はメラメラと刺々しい炎を上げている。


「兄貴らしいところ、見せてやるぜ」

「……なるほど、そう易々とは勝たせてはくれないようだ」

 フリジオは手ごたえのありそうな魔族を相手に歓喜の声を上げる。

 どれほどの実力かは分からないが、それほどの敵であるのなら功績を得ることも出来る。メラメラと炎を体に纏うリザードマンを相手にフリジオは交戦を開始した。



「……全く、若者たちは老人の気持ちも労わらん」

 一斉に戦闘を開始した若者一同。

 護衛団に騎士フリジオ、そしてアーケイドと呼ばれる魔族の男の配下のリザードマン達。あっという間に戦火は広場中に燃え上がり、ロザンは一人置いてけぼりである。


「まあまあいいじゃないの」


 ……突然、第三者の声。

 ロザンは振り向くこともせずに、その声に耳を傾ける。


「やれやれ、ガンダラちゃん達の姿が見当たらないから何事かと思ったら、勝手におっぱじめちゃって……雷が起きてきても知らないわよぉ。ワタクシ」

 確か、名前はアルヴァロスと言っていただろうか。

 大柄の大男。色黒な肌に鍛え上げられた筋肉。女性っぽい口癖と仕草には全く似合わない肉体の戦士が呆れながらもリザードマン達を眺めている。


 恐らく連れ戻しに来たのだろう。

 宣告した予定日よりも早めの時間に襲撃。セオリーなんてガン無視で自分の気持ち優先に動いてしまった馬鹿達を説教する為に。


「でもぉ、雷一発くらいなら、今日は受けてもいいかしら?」

 ロザンの背中から漂ってくる。


 “殺気”。

 一人の戦士としての“闘志”。


「お相手願える? おじさま?」

 四人の中でも腕利きの戦士であるエキスナを吠えさせた人物。しかも相手は人間のご老人とまで来た。

 一人の戦士として興味が抱かないわけがない。アルヴァロスは構えを取って、自ら引き起こしている殺気と共に戦闘の意思を老人へ見せる。


「良いだろう。お嬢さん」

「やだぁん、お嬢さんだなんてぇ!」


 


 拳が入り乱れる。

 歓喜の表情を浮かべるアルヴァロス。それに対し笑みを浮かべるロザン。



「貴方みたいなオジサマと戦えるなんて燃え上がっちゃう! しかも強いとまで来たもんだから、私の情熱は燃え上がる一方よ!」

「奇遇だな。私もだ」


 老人とオカマ。

 異質な戦士二人は大人の戦いを繰り広げ始めていた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 広場で戦闘を続ける護衛団の一同。

 森の中には連れてはいけない。吐き出した火が木々にでも当たれば、あっという間に山火事になってしまう。


「くっ!」

「オラオラどうした! 可愛い隊長さん!」

 ブレロは下衆な笑みを浮かべながら護衛団総長であるヨカネに善戦中。


 ……フリジオに完敗こそしたが、このトカゲ。戦闘力が低いわけでは一切ない。そのテンションに見合ったタダの馬鹿ではないということだ。


 その実力は確か。腕利きの戦士であるはずの護衛団相手にリザードマン軍団は善戦している。すばしっこい動きに固い皮膚。田舎者の戦士相手に負けるものかよと大笑いしている。


「舐めるなっ!」

 プライドを傷つけられては当然、チームを背負うヨカネも黙っていられない。

 リーダーとしての意地を見せるために、一矢報いる反撃をブレロに加える。頑丈な鱗で纏われた胸を微かながら引き裂くことに成功する。


「おっと、やるじゃねぇの」

 流石にリーダーとだけあるかと頬についた傷を拭う。

 しかしながら、ブレロはケタケタと笑う一方で焦る姿を見せない。むしろ、敵が弱すぎるという心配だけが募っていたのか、今はさっき以上に余裕に満ちた顔を見せていた。


「いいねぇ、いいねぇ! 俺っちも盛り上がってきた!」

 ブレロは両手を上げて踊りだす。

 もう少しだけペースを上げていくかと体を温めているようだ。流れる汗が体を潤滑油のように滑らかにしていく。


「とっとと村全部を制圧しちまって、大王様に褒められてやるのさ!」

「……私達がお前達を抑えるのです。だから、そんなことさせるわけが」

「ところが出来ちゃうんだよなぁッ!!」


 ブレロは自信ありげに言い切っている。


 ……それは、ここにいる全員を負けさせることなど余裕だからとかそういう意味ではなさそうだ。

 ここの戦いはむしろ関係がない。“別の何かが”動いていると言いたげな。


「まさか……!」

 ヨカネはその嫌な予感に冷や汗を流す。


「その通りよ! はっはっは……今頃、他の“弟たち”が到着しているだろうなぁ!!」


 ……嫌な予感。 



 ここにいるリザードマン兄弟はここで全員ではない。



 “他にもいる”。



 結構な戦力を分断している。子供達を使った挑戦状の正体は、村人の大半が避難しているイチモク寺から戦力を引き離すことも含まれていたのだ。


 タダの馬鹿かと思ったら、それなりに考える脳は持っているようだ。

 ブレロは大笑いしながら、踊り狂っている。


「そういうわけだ。俺達もお前に勝利して」

「……無駄ですよ」

 ヨカネはそっと笑う。


「負けるのは……お前達だ」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 イチモク寺入り口前。


 そこへ集結するのは他のリザードマン達。


 数は全部で三体。

 最大の戦力が村の麓で戦っている。今となっては守りが薄くなったであろうイチモク寺にまで笑みを浮かべながら集結する。


 この村を乗っ取って、手土産の一つにでもしてやろう。

 拳を鳴らしながら、意気揚々と門を潜る。


「さぁて、いっちょやってやるか!」

「見てろよ、兄貴たち!」

「俺達が今ここでビッグにやってやるぜぇ!!」


 三体は門を潜った矢先に雄たけびを上げる。

 最後の抵抗くらい許してやる。死にたい奴からかかってこいと声を上げていた。




「ねぇ~?」


 ……フラリとイチモク寺から姿を現す。



「誰がぁ~」

「ビッグになるだって?」


 現れたのは……“アリザとスノウ”。

 ロザンが育てた弟子の中でも……レベルの違い過ぎる少女二人が出迎えた。

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