PAGE.319「REPORT,3 私有地リゾート等にて謎の飛空艇を発見。」
翌日。ステラ達は当初の目的である飛行艇の元へと向かう。
カルボナーラのリーダーであるソージ、そしてそのクルーであるシルファーに連れられて。
ジャングルを抜けた先、ステラ達が辿り着く。
「これが……例の“箱舟”!」
巨大なクレーターの中、地面に突き刺さっている飛行艇。
ここ最近でクロヌスの上空を飛行しているタイプとは全く違う見た目をした謎の艇。塗装は完全に剥がれ落ち色褪せ、黒焦げのシミも幾つか目立っている。
だが、装甲はそのまま。錆び切っていない船体を晒している。
「……なるほど、確かに見たことがないタイプの艇だ」
ここ最近の艇ではないことは確か。ただの難破船ではないかと思っていたが、その独特なオーラを放つ艇の存在に、シアルは無駄足ではないことを悟る。
「ステラ、箱舟と言っていたが、それは?」
「……ごめんなさい、これが箱舟かどうかと言われたら、まだ分からない」
気を取り直し、ステラは眼鏡の位置を整え、指を鳴らす。
「違う。箱舟が何かを聞いているんだ……賞金稼ぎではあるが、遺跡とか、そっち方面はノータッチなんだよ」
それが箱舟かどうかを知る前に、その箱舟と言うのが何なのかを問うのが先ではないかと、多少イラついた声をソージはあげる。
「ええ、今となっては当たり前になってる飛空艇だけど……」
普段、講義を行っているときと同じように、ステラはセミナーを始める。
「その存在自体は魔族界戦争時代から確認はされていたの。全部で何隻あったかは分からない。魔界へと攻撃を仕掛けた攻撃艇がほとんどだったと言われていたわ」
ステラが続けた調査により、発見されたという壁画にて解読された記録。
現在の飛空艇が本格的に機動を始めたのは、魔法界にして実に1300年あたりのの頃合い。それまではドラゴンなどによる空中飛行の生物を駆使しての移動が基本となっていたが、飛空艇の出現により、その存在は陰に消えていくこととなった。
「今、私たちが良く見る飛空艇はその箱舟を元にして作られたんじゃないかと言われているの。詳しい記録が残っていないから、そこはよくわからないけど……綺麗な形で残っている箱舟も、今のところ、戦争後期の一隻しか確認されていないわ」
「んでこの艇が、その千年前の遺産かもしれない、というのか?」
「そうだとしたらいいなって話」
千年以上も前、今となっては想像もできない激戦の中を飛び回っていたという箱舟だ。綺麗な形で残っているモノは早々残っていない。
それだけの代物が、こうもあっさり見つかるものなのだろうかと疑問に思う。
「入ることは出来ないの?」
「無理やりこじ開けようとしたがダメだ。入れねぇ」
扉らしきものは見える。しかし、どれだけ乱暴にこじ開けようとしても、中に入ることは出来なかったようだ。
「……私の仕事」
ミシェルヴァリーは大剣を構える。
馬鹿力ならお手の物。彼女に壊せないものはない。この三人の中で、力仕事となれば彼女以外に出番はないだろう。
「やぁああ……ッ!!」
叩きつける。
全力を持って、その扉を粉砕しようと力を籠める。
「……ダメ、あかない」
虚しい余韻の中、ミシェルヴァリーは大剣をしまい、正直に告げた。
「ミシェルでも開けない、か」
どれだけ固く閉ざされた城門だろうとこじ開ける事が出来るのが彼女の取り得である。ところが、そんな彼女をもってしても、扉を破壊することは叶わなかった。
手を抜いている様子はなかった。いつも通りのフルスイングを披露していたことをシアルは理解している。よって、やり直す必要はない。
「ほほう、箱舟らしさが上がったわね」
謎が深まり、その艇の存在にステラはより心を奪われていく。
調査のし甲斐がありそうだと、再びステラは眼鏡の位置を整え始めていた。腕をかける意味のある仕事だと気合を入れていた。
「ソージ、王都の皆様と連絡が取れました」
「おっ、援軍はやってきてくれそうか?」
「はい、万全です」
その一方、ソージとシルファーの二人がなにやら、ひっそりと会話をしている。
「援軍?」
その言葉、シアルは聞き洩らさなかった。
「俺達だけでは不安だと言いたいのか?」
「いいや、違う違う。ちょっと別の案件でさ」
「別の案件?」
援軍を呼び寄せはするが、この飛行艇の一件は三人に任せるつもりでいるのだという。ならば、何のための補充要因であるのかと疑問を浮かべてしまう。
「……ここ最近、世界各地で魔物が発生してるだろ? しかもその数は依然と比べて過去最大だ……この島でも、それは例外じゃない」
魔物の大量発生。それはここ最近でかなりの被害を記録している。
「飛空艇は最初、この島にはなかったんだ。突然現れてさ。んで、こいつが現れてからのことだ……この島で“魔物”が増え始めた」
謎の飛行艇へとソージは視線を向ける。
「まあ、原因がコレとは限らないけどよ。無関係とも思えない。補充の方は、魔物退治の手伝いをしてもらうってところさ」
「……そうか」
この艇が何なのか。一体、何故現れたのか。
やはりタダの難破船なのか。それとも、これはステラのいう“箱舟”と呼ばれた遺産であるのだろうか。
この頃は、特に深く考える事はなかった。
しかし、後日。
補充要因としてラチェット達が送られてきたあの日。
“この艇に、電撃が走った”。
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