PAGE.269「思春期死合(その3)」
山頂へと続く山道。そのド真ん中。
全身刃物の魔族、そして、精霊騎士ホウセンの弟子であるコヨイが互いに自慢の刃をぶつけあっている。
「ほう、ガキの割には筋がいいじゃねぇか」
サーフェイスは小柄な見た目のわりに腕の立つ少女剣士に喜びを浮かべている。その興奮が感情に現れているのか、姿勢は徐々に前のめりになり、少女を押しつぶそうと力を込めていく。
「嬉しいですね」
筋を褒められるのは、まだ乙女であるコヨイには嬉しいの一点。
しかし、浮かれることは絶対にしない。敵を目の前にしている以上、一切の手加減も容赦も捨て、その全体重を刃へと伸し掛からせる。
少しでも気を抜けば、刀諸共、この悪循環極まりないコケだらけの地面へと押しつぶされる。そのまま刀を差し込まれ、あっという間に悪趣味な案山子の完成トイウワケダ。
「ガキが相手だから残念だと思ったが、こりゃあラッキーだぜ!」
サーフェイスはコヨイの体を突き飛ばす。
「それは結構……ちぃっ!」
距離を取り、互いに見合う。コヨイはその乙女らしい見た目には似合わない舌打ちを交わす。いや、本来の“素の性格”が思わず飛び出したと言えばいいだろうか。
戦士のような潔さ。互いに隙一つ見せない様に構えを取る。コヨイとサーフェイスは対戦相手の素晴らしさをたたえ合い、今再び錆びることのない刃を向ける。
「……俺にはよ、弟がいるんだよ」
するとどうだろうか、突然始まった自分語り。さりげない世間話だ。
サーフェイスは口を開く暇を見せながらも、一切の隙を与えぬ余裕を見せる。
「そいつは俺と違って、弱い奴を片隅から襲い掛かって、怖がる姿を見て楽しんでるらしいんだが……ダメだろうよ、そいつは」
サーフェイスは弟と呼ぶ存在のダメ出しを始める。
彼同様、体の一部を刃に変える男だったという。非力な人間ばかりをつけ狙い、その怖がる様をおかずに日々を過ごす。サーフェイスとは全くもって真逆の質のサディストであったというわけだ。
「そんな一方的はつまらないだろうが!」
人としてどうなのかなんて問題ではない。そもそも人ではない。
「もう何年も顔を合わせてないがよ! 二度と喋ろうとも思わないぜ!」
そんな陰気臭いやり方ではせっかくの楽しみを殺している。万年、趣向の違いで喧嘩をしたという弟の悪口を堂々とその場で叫んでいる。
「こうやって、しのぎを削っての殺し合いの方がゾクゾクするってもんよ……互いにギリギリを見せ合い、互いに死が合間見えるその状況でぶっ殺す……その方が、楽しいだろうがよ」
片腕をそっと舐める。
その腕は鉄のように冷たく、独特な香りがする。その腕には彼が口にする通り、“幾つ斬ったかもわからない戦士達の血の匂い”がこびりついているのだろう。
その匂いを鼻に通すたび、サーフェイスは胸を躍らせる。死を前にした戦士達、死を覚悟した者達の最後を染みつかせた、極上の刃なのだろう。
「お前もそう思わないか……人間?」
その質問は人間にする内容ではないだろう。間違いなく。
枷を外した獣のような理論。殺し合いを楽しいなんて表現する狂った考えを許容できる人間なんて、実際そうはいない。
「……そうですね」
しかし、彼が質問をした相手は___。
「私もそう思います……こういう舞台、私の好みです」
よりにもよって、その“枷”がある程度外れてしまっている人間。
自分の欲望のままに刀を振るう少女。その心意気を絶対に裏切ろうとしない戦士。
“そんな類の人間の弟子”である彼女だ。そう答えるに決まっている。戦うことを至上の喜びとし、その力を見せつけることに極上の歓喜を覚える戦闘狂なのだから。
「そうでないとなっ! 人間っ!!」
片腕を刀代わりに振りかざし、急接近するサーフェイス。
「冷たい対応ばかりされて最近ナイーブだったが、お前のおかげで火が付いた!」
戦うことがこんなにも楽しい。エンジン全開に突っ込んできた。
「……もう、負けませんよ。私はッ!」
少女も刀を振るう。
「殺し合いましょうッ! 魔族共ッ!!」
強い人間と戦える喜び。
……同時、
何処か焦りを覚えるような感情も抱いて。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます