PAGE.237「鋼の鬼、再陣。(その3)」
光を纏う聖なる刃。
今までにない輝きを放つ剣と共に、エーデルワイスは鋼の闘士・サーストンへと立ち向かう。
「いいだろう」
サーストンは再び剣を抜いた。
敵と認識した。目の前の敵を脅威ととらえたのか、先程までの呆れた顔は引き締まり、体からも怒りという感情の気配が微塵も残らず、高揚のみが彼を震わせる。
「いざ!」
サーストンは刃と共にエーデルワイスへと。
「参る!!」
エーデルワイスも迫りくるサーストンを迎え撃つように光の刃を振るう。
波動。そして衝撃。
ただ刃がぶつかり合っただけだというのに、その鼓動が壁画の間にいた全員の臓器にまで伝わってくる。その波動だけでも、直視に直立双方の行動が出来なくなってしまう。
「光る剣……?」
似たような戦い方をする人物を見たことがある。
フェイト。彼女もまた、片腕に光の剣を生やし、白兵戦を仕掛けていた。
だが、エーデルワイスはフェイトのそれとは何かが違う。
彼女の剣は光の放った“ガラスの剣”のようなものが出てきた程度。エーデルワイスが纏うその剣は……“光そのものが形になった”剣である。
「なるほど、あれが、であるか」
片目を抑えたコピオズムがエーデルワイスを見向く。
「あれは一体……」
「光の騎士」
疑問を浮かべるラチェットの元に、コピオズムが疑問に応える。
「精霊騎士団は精霊から力を貰っている……その精霊の中でも、精霊皇に匹敵すると言われている力を持った精霊がいた。その精霊の名は、【光の超人・レイサー】だ」
精霊皇の配下。かつて世界を救った伝説の精霊たち。
その中でも並外れた力を持つ存在がいた。それこそが……光の魔法を携える、光の精霊・レイサー。
「光の精霊は次元を超越する力を持つとされている……それ故に、光の騎士に選ばれた者は何れも超人と呼ばれていた。何せ、大半の人間が光の力を扱えず、その身を滅ぼしたものばかりだからな」
数多くの犠牲も生んだ。数多くの挑戦者が息絶えた。
光の力はそれだけの暴れ馬だ。“次元を超越する”なんてスケールの違いにも程がある表現を耳にしただけでも、その存在が他と比べて全く違う尊大さが伺える。
エーデルワイスはその力を受け継いでいる。
それだけの力を振るうこともあってか、圧倒的な力量を持つサーストンを前にも充分に渡り合っている。光の力を見事使いこなし、徐々にサーストンの上へと上り詰めようとしている。
「光の精霊の力は、精霊騎士団の団長にしか使えないんだろう……なんで、アイツが使っているんダ?」
「なぜ、だろうな」
コピオズムはその質問には答えなかった。正確には、解答しようにも答えが分からないというのが正解であろうが。
「お前達は何故蘇った! 何故、再び姿を現した!?」
魔族界戦争は終わった。戦争は人類が勝利した。
そして、既にこの世には魔王もいない。生き残ったという数名の地獄の門には既に戦う理由もないというのに何故現れたというのか。
魔王の敵討ちだとでもいうのだろうか。
それとも……あの壁画が示していた、“魔王の復活”に関係するのだろうか。
「……戦うためだ」
サーストンはエーデルワイスの問いに答える。
「俺が戦い続けてきたのは、強い奴と死会うため……幾千幾万、いや、この世の全ての修羅と刃を交える為……俺が生きる理由は、未来永劫それだけだ」
光を前にサーストンは豪快に刃を振り回す。
一瞬で間合いに入って致命傷を狙うもエーデルワイスは光にてそれを防ぐ。
一瞬で死角に入り込み瞬殺を狙うもエーデルワイスは光にてそれを受け止める。
幾千幾万の修羅を斬り捨てた一撃を前にしても……光の騎士は光にてそれに立ち向かう。
「俺は今、己の生に感服している」
微かにだが笑っている。
サーストンから見た“光”は、彼の言う修羅の一人と認識したのか。この戦いの充実ぶりに心を躍らせていた。
「“王の復活”など興味もない!」
「……その言い分」
エーデルワイスは息を呑む。
そこから伝わる恐怖、絶望、そして言葉にするだけでもおぞましい気配。
「やはり、あの壁画の言葉はッ!?」
「戦い以外の事を考えるなど、愚行だ……ッ!!」
サーストンは刃を振り下ろす。
「今は戦いだけに見向きしていればそれでいい……世界の事など、俺には関係ない」
「私にはある……世界と向き合う理由は!!」
力を踏ん張る。
その一撃を押し返そうと、力の限り光を生み出し撃ち放つ。
(ッ!!)
生み出された光。体に纏われる極光。
その予兆を見せた矢先、エーデルワイスの体が深く鼓動を浮かばせる。
「がっ……くはっ……!?」
剣を杖代わりにエーデルワイスは片膝をつく。
消えていく。サーストンに立ち向かう唯一の力であった精霊の光があっという間にエーデルワイスの体から消えていく。
再び、この空間に暗闇が押し寄せてくる。
「……所詮は人間か」
サーストンは失望を浮かべ、エーデルワイスへと近寄ってくる。
「人間程度に次元を超越する力を扱うには限度がある……体が先に限界を迎えたか」
「くっ……!」
何とか立ち上がろうとするもエーデルワイスの力は抜けていく一方だ。
「時代と共に進化を期待したが……平和になじみすぎた人間の哀れな姿だ。ここまで衰えていようとは、聞いて笑いもこみ上げない」
光の力、人間の手には余る力を使おうとした体が先に限界を迎えた肉体。エーデルワイスの肉体は、骨や肉の隅から隅、指先に脳の髄、その体の全て、微塵も許すことなく悲鳴をあげている。
「だが、ほんの一瞬。心躍った……感謝するぞ、“光の騎士”」
刃が再び、暗闇へと向けられる。
「紛い物にしては上出来だ。数百年ぶりの人間界、無理を押し退き、やってきた甲斐はあった……!!」
身動き一つ取れないエーデルワイス。
サーストンはその戦士を前に……戦士の誇りとして、トドメを振り下ろす。
(まずいッ……!)
今、ここで動けるのはラチェットただ一人。
(だが、どうすル……!?)
しかし、今の彼にはどうすることも出来ない。
精霊騎士団でさえも相手に出来ない最強の相手。あらゆる魔法、あらゆる爆弾、あらゆる刃も通そうとしない鋼の肉体。
この世界では玩具でしかない鉛玉では勿論、ナイフや手榴弾もあの化け物からすれば、遊具も同然。蚊に刺された程度と例えることすらも許されないレベルのダメージを与えるのみだ。
だが、ここで見捨てれば。
エーデルワイスは確実に“死ぬ”。
それだけじゃない。
エーデルワイスの次はこの場にいる全員が殺される。
あのツインテールも。
あの銃マニアも。
スカルやオボロに、中二病もガキは勿論。
___自分でさえも。
この壁画の間を、墓穴とさせてしまう。
(……あの、力ッ)
微かに残る記憶。
気を失う前、一瞬だけ映ったあの記憶。
“自分のものとは思えない力”
“数多くの窮地を救った、あの未明の力を彼は求める”
《呼べ》
声が聞こえる。
《いいかい、僕の言う人物の名前を呼ぶんだ。口に出せばそれでいい》
その声は、夢で見るそれとは全く違う別の声。
何処か幼く、何処か中性的な少年の声。
《そうすれば……どうにかできるかもしれない》
その声の主が何なのか分からない。
しかし、今のラチェットには考える暇などなかった。
どうだっていい。
この状況をどうにかできるのなら……試せる手段はいくらでも試してやる。
ラチェットは頭の中に過ってくるその声を。
その声が口にする名前を……続けて、声にして出す。
「力を、貸せ」
ラチェットは意識を奪われた人形のように口を開く。
「【アルス・マグナ】」
体が跳ねる。
ドクンと何かが胸を撃つ。体を突き破るように、何かが体の中に入ってくる。
……意識が燃える。
思考も理性も……溶けるように焼き消えていく。
歪む空間。
「……」
ラチェットは無意識に、“見たこともない剣”を手に取っていた。
「ようやく現れたか」
心が躍る声。無頓着さなど一切消え去った声。
サーストンは喜ぶ子供のように、歓喜の感情を身体に浮かべている。
「【精霊皇、アルスマグナ】……!!」
ラチェットを前に刃を向ける。
いつも違う瞳を向けるラチェット。
刃を手に持ち立ちはだかるその姿……生意気で反抗的、現実的でドライな少年の面影は欠片も残っていなかった。
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