PAGE.168「真犯人を探せ」


「ふむふむ、なるほどなるほど……」

 何でも屋スカルのリビングでは急遽尋問が行われている。


 爆弾魔容疑者であるオボロ……というか実行犯であることを認めている彼女は、何故、ここ連続で山岳を破壊したのか。それを命令した組織がいることなど、全てを包み隠さず口にした。



 オボロ曰く、多額の金で雇われ、今後の魔法研究に活かすための大型プロジェクトに向けて手を貸してほしいと腕を見込まれた。彼女はその期待に応えるべく、組織側が提示した爆破予定地を次々と粉砕し、可能な限りの破壊を終えた彼女は王都の南の裏山にて報酬金を受け取りに行こうとした。


 しかし、組織側はその契約はなしになったと報告し、更には用済みになったと証拠隠滅代わりに刺客を仕向けて殺されかけた事……何でも屋スカルにて口にしたことと全く同じことを精霊騎士団のサイネリアとホウセンに告げた。


 そして、彼女を雇ったという組織の名前は……“アルカドア”。

 この王都にて学会の次に大きいとされている巨大研究機関である。


「ほうほう……」

 サイネリアとホウセンは真面目にオボロの話を聞いている。



(全く、驚いたもんだナ……)

 ラチェットはその様子をじっと見つめている。コーテナの方は部屋に戻って探し物を続行していた。


 スカルに関しては上が騒がしいからと様子を見に来たら、突然の騎士団の来客&爆弾魔を匿っていることがバレてしまったせいか顔面蒼白のまま震えている。

 現在、ガッチガチに震えながらコーヒーを注いでいるところだ。あまりの震えに分量ミスはお手の物で、注がれているコーヒーは思いっきりカップから漏れてしまっている。


 随分と修羅場な風景だ。

 だが、その修羅場な風景よりも気になることがラチェットにはあった。


(ワケを話せば、場合によってはアイツの罪は帳消しにしてやるだなんて……随分と大胆な約束をしやがったものダ)

 

 部屋におしかけてきた騎士二人が告げたのはあまりにも意外な注文。

 その内容にはラチェットが驚くのも当然。とても正義の騎士団とやらがやる事とは思えない。裏稼業とやらと何ら変わらないやり取りであった。


「ここでアルカドアの名前が出てきたが、偶然に思えるか?」


「怪しいねぇ? タイミングが被ってるからもしや……だなんて思ったら、まさかビンゴって可能性もあり得るかな?」


 アルカドアという組織の名前に二人は反応を見せている。


(騎士団もアルカドアを追っているのカ?)

 ここ最近、騎士団もそうだが、魔法使いたちのエージェントとやらも王都で大忙しだった様子。爆弾魔のこともそうだが、何かを追いかけているようにも見えた。


 魔法研究結社アルカドア。

 今回の事件にその組織が関係あるのだろうかとラチェットは首をかしげていた。


「やっぱり、本格的に探り入れてみっか……ご協力ありがとよ。爆弾魔。ひとまずお前の事は事件が終わるまでは保留にしといてやるよ」

 軽く手を振って、サイネリアは再び窓へと向かって行く。まさか、そこから飛び降りて帰ろうだなんていうのだろうか。

 それ以前に気になってるのだが、アタリスといい、騎士団といい……どうやって、二階の窓から入っているのかギミックを知りたいものである。まず、正面玄関から入れとツッコミを口にするのが先かもしれないが。


「おいおい、いいのかよ。勝手に動いたら怒られるぜ?」


「クレマーティは慎重すぎるんだよ。第一、一番偉い立場の私たちがどうしてコソコソ相手の様子を伺わないといけないのさ。治安がどうとかビビリすぎだぜ」


 ……彼女の会話の内容から察するに、恐らくだがこの尋問は認められていないものだと思われる。完全に二人の独断で行われたものだろう。


 しかもそれだけに飽き足らず、本来の仕事内容とは全く違うことを実行しようとしている。無許可で事件解決に動こうとしている。

 その上彼女たちはそれに対してかなりノリ気だ。これから楽しいことが始まりそうだと大笑いまでかましている。



「そういうわけで、お前ら外出するときは気をつけろよ? 魔物とかもそうだが、最近物騒な奴らがいるみたいだからな」


「物騒な奴ら?」

 ラチェットはサイネリアの言葉に首を傾げた。


「そうだな。面白い情報をくれたお礼に少しだけ教えてやるよ」

 窓に手を伸ばす直前、サイネリアはお釣り代わりに精霊騎士団の極秘情報をプレゼントする。何から何まで不安要素が大きいやり取りだが……大丈夫だと信じて、彼女の話に耳を傾ける。


「実は数日前、うちのエージェントが王都の何処かの路地裏で魔族と思われる人物と遭遇したらしい。そこで交戦になったんだが……珍しく取り逃がしたんだよ。戦闘のスペシャリストであるはずのメンツがな」


 そのエージェントとは、シアルとミシェルヴァリーの事である。

 王都に所属するエージェントの中でも戦闘能力は格段に高く、強行突破や乗り込みの依頼などは基本この二人が担当することになっている。


ターゲットを仕留める、もしくは捕縛するという内容のミッションを失敗したことはゼロに近いといわれているこの名コンビ。


 そんな二人が珍しく取り逃がしたのだという。


「なにやら、その現場に思いがけない助っ人が現れたらしい。なんか、両手にカギヅメをつけた人形みたいな奴が四人だっけか。そいつらに邪魔されて、魔族を逃がしたんだとさ」

 カギヅメをつけた謎の人物達。

 人形のようだという例えを聞いて、その助っ人が以下に不気味なものかと想像する。魔族と思われる人物と同じように魔族の可能性がある集団だったのだろうか。



「そして、数日前に起きた学園襲撃……その犯人も、その“人形”だったようだ」

 ここ最近で現れたという謎の暗殺者達。


「しかもそいつらは未だに捕まっていない。王都を逃亡中だとさ……だから、外に出るときは、くれぐれも危ないところに行くんじゃねえよ?」

 騎士団達からの優しい警告。


 サイネリアはお釣りを払い終えたところで愉快気に窓から外へと飛び込んだ。

 それに続いてホウセンも軽く手を振った後にサイネリアに続いて窓から飛び降りる。突然の来客者達は嵐のように事務所から去って行った。



「えっと……ひとまずは助かったのかねぇ?」

 ソファーにて再び腰を抜かすオボロ。


「保留って言ったロ。まだ安全とは言えねーヨ」


 ラチェットの言葉にオボロは深くショックを受けた。

 罪も認めちゃったんだし、本人も罰は受けると、その場しのぎとはいえハッキリ口にしてしまったのだ。その時は大人しく覚悟を決めるんだなと悟りを入れてやる。



「物騒なもんダ。戸締りしとくカ」

 部屋の換気のために窓を開けていたのだが、話通りの危ない殺人者や、さっきの客人のような変な奴らが入ってこない様にしっかりとカギを閉めておいた。


 ラチェットもラチェットで随分と緊張したものだ。

 今も顔が軽く引きつっている。場合によっては自身達も面倒な目にあっていたのかもと尋問中に彼は不安を浮かべていたようだ。




「ラチェット! 思い出した!」

 上の階から慌ててコーテナが下りてくる。


「前にルノアに貸したんだった! 今日返してもらう予定だったんだ!」

 

 彼女の話によれば、魔法の実験とやらで手に触れると危ない液体があったのでルノアはコーテナから手袋を借りたとのこと。

 返してもらおうと思っていたのだが、洗濯をしてから返すという事で今日にその約束をしていたようだ。


「ボク、今から手袋取りに行ってくる!」

 特にやることもないし、散歩がてらに手袋を取りに行くと言い出す。ルノアの家の場所は知っているようだ。



「……まて、コーテナ」

 慌てて飛び出そうとするコーテナを呼び止めた。


「俺も行くヨ。散歩がてらにナ」


 頭を掻きながらラチェットはコーテナの元に。



「随分と男らしいことするねぇ。坊や」

「突き出すゾ……!」

 からかってくるオボロに対して再び毒を吐くラチェットの表情は酷く歪んでいた。保留何て言いださずにすぐさま連れて行けば良かったものをと歯ぎしりを繰り返していた。



「じゃあ、一緒に行こっか!」

 コーテナは笑顔でラチェットの動向を許可した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る