< EX.SS① ピアノ詩人の困惑(後編)>

「こうして、癖がありながらも戦う騎士達……しかし、まだ結成されて間もない”新星精霊騎士団”はまだ、その協調性に何処か壁を感じるものでした……若くして騎士団長となった美少女ルードヴェキラ。そして、それぞれの思惑と信じるモノのために戦う騎士達の行方は如何に!!」


 車椅子の少女は高らかに精霊騎士団を軸としたお話を語り終えた。

 ……確かに精霊騎士団と一部エージェントが活躍しているお話ではある。しかし、何かパっとしない不穏な終わり方にいまいち拍手がやってこない。


「どうでしたか、皆さん」

「そうですね、とりあえずサイネリアさんに怒られることは確定しましたね」

「なんとっ!」


 サイネリアも活躍こそしているが、どちらかといえば粗暴さがより一方目立つような喋り方であった。絵本でさえ、もっと美化された書き方をしているというのに、これでは子供からの印象も若干だが悪くなる。


 車椅子の少女は慌てるように周りに視線を向け始めた。


「でも……バトンは確かに受け取りましたよ」

 ピアノ詩人は静かに立ち上がる。


「皆さん。特別なアンコールを作ってくれた、こちらの方に大きな拍手を!」


 その声に一同はそっと手を叩き始める。

 次第に拍手となり替わり、ちょっと締まりの悪かった空気はあっという間にビッシリと締まりはじめていた。


「……ふふっ、久しぶりですね。こうして拍手を貰えるのは」

「おや、やっぱり恋しいモノですか?」

「いえ、懐かしいと思って……昔、涙の喝采をいただいたことがありましたので」

 車椅子の少女は思い出に浸り始めた。

 彼女は下半身不随、そして片手一部の指の麻痺、更には片目は障害により何も見えないなど、日常生活にかなりの制限と支障を来たすほどの重症患者である。

 

 そんな少女も、過去は派手に動き回っていたようであり、人々に拍手されるような立場の人間だったらしいが……


「さぁ、今日はもう遅いよ! 子供達は寝る時間!」


 ようは酒場のお開きの時間である。

 続きのお話はまた次回。もっと車椅子の少女に質問したい子供達であったが、仕方がないと残念そうに親御さんと一緒にお店を次々と出ていく。


 次第に、お店に残ったのは客と主人。ピアノ詩人と車椅子の少女に、この酒場の看板娘の三人だけだ。


「……さぁ、次は王都のお話だね」

「ええ、物語はいよいよ、大きな動きを見せ始めます」


 酒場に飾られている一枚の写真。

 そこには、数多くの騎士や学園の生徒達。この王都では有名な戦士達がずらっと並んでいた。


「新たなる友人、沢山の競争相手、頼れる先輩に大人達、そしてついに現れる魔族の影……”戦争がはじまる前”の物語」


 そっと立ち上がった詩人は、自身が使うピアノにそっと触れた。



「次の公演は……ちょっと、激しくなっちゃうかもしれません」


 面白げに笑うピアノ詩人。

 それに釣られるように、看板娘と車椅子の少女も静かな酒場で笑い声を響かせた。

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