第33話 さあ、帰ろう
マムに大使館への
中は、ツルっとした白い大理石の壁で、床には絨毯が敷かれている。
ゲームに参加する前は、建物の事を気にする余裕などなかったが、こうして見ると、中々に凝っている事が分かる。
「儲かってるな……」
そう呟くと、ロウが理由を説明してくれた。
「来られるのが、VIPばかりな為、自然と造りも豪華にせざるを得なかったようです……稼いでいる事は確かではありますが……」
稼ぐために使うのは、人間や生き物の命だ。
「……胸糞悪い」
そう吐き捨てると、ロウが目を伏せる。ある意味、当然の反応ではある。上官に切り捨てられたから、こうして行動を共にしているが、そうでなければ今でも敵だったのだ。
「……それで、今何処に居るか分かるか?」
聞いたのは、奴隷として売られる予定の子供の居場所だ。
「すみません、現在地は私にも分かりません……」
「そうか、マム!センサーでもなんでも使って、子供達の現在位置を教えてくれ」
元々、ロウには案内としてよりも、男手として付いて来てもらっていた。
ここで一旦ロウに話を振ったのは、ちょっとした牽制だ。いくら、上官に裏切られたとはいえ、ついさっきまで敵だったのだ。
それに、裏切られた事が演技だった場合、取り返しのつかない事になる。皆んなが信頼したとしても、俺は注意していなければならない。
「見つけました!」
直ぐに、マムから報告が入る。
「よし、案内してくれ!」
その後、マムの案内の元通路を進んだ。……何度か、衛兵をやり過ごす必要のある場面があったが、マムの誘導もあり、難なく切り抜けられた。
「パパ、この中にいます!」
マムに言われた場所を確認すると、そこには、ダクトが有った。
……なるほど、子供でないと入り込めない。
屈みこんで、ダクトに話しかける。
「おい、もう大丈夫だ!さあ、行こう!」
……反応が無い。
「パパ……マムに任せて下さい!」
マムにため息を付かれ、任せろと言われたので、渋々イヤホンを外してダクトに向ける。
マムが、何やら俺が知らない言葉で語りかけている。
……そう言えば、日本語で話しかけても分からない可能性が高い事を忘れていた。
「……パパ!大丈夫そうです!ただ、少し下がって貰えると、出て来られるかと思います」
マムからそう言われたので、ダクトから少し距離を取ると、マムが言った通り子供達が出て来た。年齢は、皆12歳前後だろう。
「1,2,3……8。よし、全員いるな」
マムから聞いていた人数とも一致する。
「そう言えば、ロウの事は……」
ロウが衛兵の格好をしているので、子供たちが不安になるのではないかと思ったが、問題ないようで、皆静かにしている。
「マムが皆に説明しておきましたので、大丈夫です!」
……なるほど、大丈夫らしい。
「後は、カプセルか……どこに行けば良いんだ?」
そう聞くと、先ほどと同じように、マムが直ぐに案内をしてくれた。
マムが案内している間、子供達は静かに付いて来てくれた。
「パパ!ここの中にあります!幾つかありますが、”1994”と番号が振られているカプセルを運び出してください!」
ある部屋の前に着いた時にマムがそう言い、同時に部屋のドアが開く。何故、”1994”番のカプセルなのかは分からないが、マムのいう事だ、何か理由があるのだろう。
「……そういう事か」
マムに指定されたカプセルの中には、ボス吉が入っていた。
「これは、ネコ……?」
そう言えば、ロウにはボス吉がネコだと話していなかった。
「そうだ、ネコで俺達の仲間だ」
「……はあ、ネコですが……そういう事もあるのですね」
困惑を浮かべてはいたが、大丈夫そうだ。
対して、子供たちは……
「「「{***}!{**}+****+*****!!」」」
何かきゃきゃしながらカプセルの周りを飛び跳ねている。
先ほどまで緊張していたが、動物の姿を見て緊張が解けたのだろう。
子供は、元気に笑っている方が良い。
「よし、運ぶか……」
のんびりしても居られない。
「はい、それでは私は反対側を持ちますので!」
そう言いながら、反対側に回るが……
カプセルの周りには、子供たちがいる。
当然進むのには邪魔になり……
「***}!?}**!」
ロウが、子供を強引にどけるようにして、カプセルの反対側まで行く。
……これまで
「カンザキ様?」
ロウが俺の様子を見て、不思議そうにしている。
「……いや、何でもない」
少しづつ意識を変えさせる必要があるかも知れない。
そんな風に思っていると、カプセルの周りを子供達が囲み、手を添え始める。
「お、皆も手伝ってくれるのか?」
子供達に声を掛けるが、言葉が分からないのだろう、首を『コテ』?と傾けている。
取り敢えず、頭を撫でておいた。
一人の頭を撫でると、もう一人が頭を出してきて、その隣も……
「まぁまぁ、後でな!」
そう言いながら、ジェスチャーで『落ち着け』と伝える。
落ち着いたのを確認して、再びカプセルに手をかけ、掛け声を掛けて持ち上げる。
「せーの!」
言葉の意味は分からなくとも、意味は通じたのだろう、殆ど揃ったタイミングで持ち上げた。
――
その後、マムの案内の元無事駐車場まで戻って来た。
「マム、今井さんにコンテナ開けてくれる様に言って貰えるか?」
「はい、パパ!」
そして、直ぐにコンテナが開き、今井さんが出て来る。
「ただいま!正巳君!」
……今井さん、『そこは”おかえり”じゃないんですか?』と突っ込もうと思ったが、そんな間も無く今出て来たばかりのドアが”ドンドン”と叩かれ始めた。
危ないところで、近づいて来た衛兵に無線が入り、別の方向へと向かって言ったが……
マム、ありがとう。
とは言え、館内を調べ終えたのだろう。
中を探して見つからなければ、次は外を探すのは順番として当然だ。
「中に積みましょう!」
そう言って、今井さんにはコンテナの扉を開けててもらう。そして、コンテナの中から子供たちの何人かが降りて来て、手伝ってくれた。
お陰でさほど苦労せず無事カプセルを積み込めた。
本当に良い子達だ。
「……それで、ボス吉は大丈夫なのかい?」
今井さんが心配そうにしている。
「大丈夫です!疲れたから寝ているだけで……」
マムはそう言うが……
「これは、
そう、ボス吉の身体の一部を
「はい、マスター!
今井さんが、それでも心配そうにカプセルの中を見ている。
カプセルの中に入っているボス吉は、満足気な表情だった。ボス吉の様子を見るに、少なくとも悪い事があったわけでは無いだろう。
「マムが『大丈夫』と言うのだから大丈夫でしょう。ただ、そろそろ出発しないと……」
「そうだね、先ずは家に帰ろうか……」
「ですね。ただ、皆この中には入りませんね」
コンテナの中にはカプセル2つに、13人の子供が入っていて、既に満員状態だ。
どうしようかな、と思っていると、ロウが申し訳なさそうに言ってくる。
「あ、あの……神崎様、同胞をどうしたら……」
忘れていた訳ではない。
「マム、
既に中にはボス吉が入っている。
「はい、パパ!十分な大きさが有るので、大丈夫です!」
マムがそう言ったので、カプセルの蓋を開けた。
「よし、ロウ、大丈夫だから中に入れてくれ!」
マムとはイヤホンで会話している為、ロウにはマムの声が聞こえていない。
「は、はい!」
疲労と不安を顔に浮かべていたロウが、俺の言葉を聞いて表情が明るくなる。
「俺が頭を持つから、足を持ってくれ……もう少し下に……よし」
ボス吉が入っている為、少しずらして中に入れる。
「……カイ、大丈夫だ。直るさ……」
ロウが、声を掛けている。
弟の事が余程心配なのだろう、声をかけないといつまでも離れそうにない。
「……閉めて良いか?」
少しだけ待って、ロウに声を掛ける。
「はい、大丈夫です」
ロウがカプセルから離れたのを確認して、蓋を閉める。
『っつ、パパ!』
マムの声を聞いて、施設に繋がるドアの方を見る。
「溶かして開ける気か……」
見ると、ドアの一部が赤くなり始めている。
トラックの方を振り返ると、コンテナに乗り切れていない子供達が外に出ている……
コンテナには乗れても7人が限界だろう。さっきは、かなりぎゅうぎゅうに詰めて13人乗っていたが、車が動き出した後そのままだと危険だ。
今いる人数は全部で、俺、今井さん、ロウ、それに最初の子供達が13人に、助けて来た子供達が8人。
全員で24人。
「今井さん、7人の子達とコンテナに!」
「分かった!」
トラックはマムの自動運転なので、運転手は要らない。
「ロウは、4人の子供達とあの車に!」
そう言って、隣に駐車されていた外交車を指差す。
「マム、この車を自動運転できるか?」
「……すみませんパパ、この車はマムの知らないセキュリティが使われているので、物理的にインストールしないとダメそうです……出来るのは、カギを開けるのとエンジンをかける位しか……」
マムからしょんぼりした声が返ってくる。
「十分だ、マム!」
知らない事が出来ないのは、当然だし、俺なんて知っている事であっても完璧に出来るわけでは無い。
その点、マムは完璧だ。
責める理由が無い。
「って事で、ロウ、その車に子供を乗せてトラックを付いて行ってくれ!」
「……分かりました」
本当は、カプセルに入った弟を見ていたいのだろうが、渋々ではあっても従ってくれる。
「それで、正巳君は?」
残された俺含めた11人は……
「俺は、あの車で行きます……」
そう言って、指差した車を見て、今井さんが苦笑する。
「確かに、全員乗れそうだね」
俺が指差したのは、普通の車の2倍以上の長さのある車。タイヤが8つ付いていて、ドアも6つ付いている。
「それじゃあ、子供たちを乗せて、出発だ!」
ドアの方を見ると、もう時間が無い事が見て取れる。
「今井さんは……よし。それじゃあ外からロックするので、乗り込んでください」
今井さんの元に集まった子供達をコンテナの上に上げ、ロックする。
「マム、今井さんとはイヤホンで連絡繋げてくれるか?」
「はい、パパ!」
よし、次は……ロウと一緒に行く4人か。
「君と、君と、君と、君!」
先ほど救出して来た子供達の中から、年齢が高い順に4人に指を指してロウを指差す。
「ついて行ってね!」
そう言うと、ロウが”付いて来い”と手振りする。
……やはり、後で話をする必要がありそうだ。
ともあれ、ロウが4人の子供たちを車に乗せた事を確認し、残された10人の子供たちを見る。
……最初のグループにいた女の子が、手を繋いでくる。
「お前も、こっちに来たのか……」
「はぁい!」
最初の頃のような不安な表情が無い。
「よし!皆で帰るか!」
そう言って、俺は子供達10人と車に乗り込んだ。
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