71話Zero/冷たいのは嫌い
屋敷の襲撃から2日が経った。
シーラは隙を見て逃げ遂せたようで、捕まっては居ない。
彼女の引取に来たエニダンも深追いはするな。という指示を受けて居たらしく、追おうとはせずに捜索も早々に打ち切られていた。
一応、指名手配はされたようだがそう簡単に捕まるとは到底思えない。
だがやはりあぁいうのは嫌いだ。
「……」
居間ではムスーッとしている俺の姿があり、それを見たエミリアがため息つく。
「ユニー。あんたさぁ、いい加減機嫌直しなさいよ」
「お前には、関係ないだろ」
「ばーか。あんたがそんなだと、アンナまで影響受けんのよ。で、何処にしわ寄せが来ると?」
「……っぐ」
この調子になってからと言うもの、エミリアの言う通り何処かアンナの様子がおかしかった。
俺の好きな物を無理に作ろうとして失敗したり、普段より高い食材に手を出したり……食に関する事ばかりであったが普段は、無意味に切り詰め味を落とさないように努力している彼女からはありえない行動であった。
「あっ、もしかして……あたしに抱きかかえて貰えないから引きずってる分け? エッチね」
彼女は意地悪そうな顔になるも。
「違う」
素っ気ない俺の態度に呆れた口調で、知ってるわよ。と返しこう続ける。
「でも、いい加減、あの子の前くらいは普段通り接しなさいよ。"あたしと違って"何も知らなかったし、あれから姿を現さない蟹みたいなのと、あの筋肉すんごいヤツのこともある。何より、"事件が終わったわけでもない"んだからさ」
ツバキとエミリアは、密約の事を知っていた。
彼女らに話されたのは、屋敷に向かう直前で交わされた後であった。一応エミリアは、反論しようとした節があったとツバキが言っていた。
彼女のいう通り、あれ以降2体の[汚れた者]は現れていない。立ち回りから察するに敵ではない。と考えられるがそれが何時、牙を向きこちらに襲いかかってくるかわからないのもまた確かだ。
そして、表向きはすぐに新たな会長が代理で現れ、シーラ達が目論んでいた通りの足運びとなっていた。一応の終息はしており、あの夜の襲撃がなかったかのようにいつもの業務を行っているようだ。
未だガリアードと交戦したランクゴールドの冒険者が見つかっていない。
密かに街を出た可能性があるが、前会長であるアバスの話によると、"馬車を手配していた"そうで、街からなにかを持ち出す手筈となっていた。と話してくれた。
これを前提に考えるならば、積荷を運ぶため街から出ていない。ないし、出ていたとしても再び取りに戻ってくる。と考えられるのだ。
「わかってるけど……」
言い淀むと、彼女は俺を掴むと抱きしめる。
「エッチなユニーはこうして欲しいの~? やっぱり、エッチな獣ね~。このエッチ。エッチ♪」
「ばっ!? 違うつったろ! つか、エッチ言い過ぎだろ!?」
俺は思わず、平常時のノリで返していた。
「そうそう、その調子。あんたがそういう性格というか、性分なのは分かってるけど、極力アンナの前では平静を装って」
「……うん? コレからずっとか?」
「そ。理由は、話して欲しい?」
「そりゃぁ、まぁ……」
歯切れの悪い返答を返すも彼女は、やさしい口調でこう答えてくれた。
「勘、と言うか経験則なんだけどさ。あの子、多分ユニー。あんたに依存してる」
依存? と脳内で反復し、彼女の顔を見上げた
「俺、にか?」
「うん。此処数日までは確証はなかったんだけれど、様子見る限りだとね」
「それは本当か?」
「あたしがこんな事でウソ付くと思う? 後、人見知りだとか恥ずかしがり屋だとかそういう線も絶対ない」
確かに、シーラと仲良くなったのも早かったし、リカーサップの連中ともすぐに話すようになっていた。第一俺に対してもすぐに……。
あれ? そういや、アンナはこれまで"エミリアの名前を"呼んだ事あったか? 他の連中は……たまに呼んでる人はいるが、極力避けようとしてる節があるような。
本音をいうと動くぬいぐるみほしいなって思ってた所でね?
殺人事件の長女に言われた言葉が、脳裏に過る。そして。
ええ。アンナさんとエミリアさんの事で。お2方共に何かしら抱えてますわね。
そして、セシリーのあの言葉。エミリアは過去や俺達を利用した事だとして、アンナは何を抱えている?
最初の時、俺をすぐに許し、以前の町での扱い。なのに"楽しかった"と言っていた。それはつまり、必要以上に人と……。
1つの答えに辿り付き、小声で悪態を付く。
「後のことは……なんとなーく察した。って様子ね」
「なぁ、1つ疑問なんだが、シーラやおやっさんはどうなんだろうな。かなーり距離が近いと思うんだけど」
「その2人はあの子から見て、"平気"な部分があるんでしょ。もしくは"憧れ"か。何にしても、普通に喋っても平気な数少ない人物なのは間違いないと思う。取り敢えず、かなり根は深そうだけど」
「なんとか、して、やりたい。けど……」
歯切れの悪い言葉は途中で切れる。
「あら、わかってるじゃない。多分、下手に触ると壊れるか、フケるわよ。あの子」
彼女は俺が思っていた事と同じ言葉を口にする。
すると、玄関でドアの開く音と共にアンナの声が聞こえて来た。
俺達は2人して、玄関の方向に目線を向ける。
噂をすればなんとやら。
エミリアは俺の名前を小声で呼び、見上げると意地悪そうな顔をし。
「お帰り。アーンナー」
と、返事をしながら俺を放り投げた。
「ちょ、ばっ!?」
急いで小さい羽を動かし、床スレスレで宙に浮き安堵のため息を付きながら玄関に向かっていく彼女の後ろ姿を見送り。
「……外だけじゃなく内にも問題だらけ、か」
呟くと彼女の後を追って、玄関まで飛んでいった。
玄関では荷物を持ったアンナに対し、意地悪そうな顔をしたエミリアが彼女を小突いていた。
「どうしたんですか? 急に」
「ふっふーん。ショック療法ってヤツ? まぁなんでもいいけど、色々イジってたらあいつ。なんか吹っ切れたみたいよ」
そう言って、俺に目線を向けてくる。
解決した。ではなく吹っ切れたという
「ただの荒療治じゃないか?」
普段通りの口調で返してやる。
すると、アンナはなにかを言おうとするも言い留まり一服ほど間を開けてこう言った。
「……それなら、良かったです。お夕飯ちょっと豪華にしようかと思ってたんですけど、どうしましょう?」
彼女は目線を落とし、持っている荷物に目を向ける。
「豪華にしちゃっていいんじゃない? 折角、買ったんだしさ」
「確かに、それもそうですね。あ、そうそう。買い物中に噂になってたんですけど」
━━今日、ランクペインの冒険者が来てるみたいですよ。
◇
「暇、ね~」
休日の昼下がり、散歩に出かけていたリネは空を見上げ呟いていた。
本来はガリアードと一緒に少し遠くの村へと赴くはずだったのだが、先日の戦闘での負傷により彼は動けず、先送りとなっていた。
この頃、休みをほとんど取っていないから。とオババ様から消えた数日分が休日へと変わったはいいのだが、する事は当然なく暇なのである。
散歩がてら、未だ見つかっていない運び出そうとしていた積荷が隠されていそうな場所に足を運ぶも、ドコも空振りであった。
ゴローさんの話によると、捕まえた会長さんも知らないと来ている。
「そう簡単に見つけれるわけないわよね。帰ろ」
路地を出て、大通りに出た時の事である。祭りでもないのに人集りが出来ていた。
彼女は首を傾げ、周囲を見渡し人集りから少し離れた所にロッタの姿を見つけ彼女の元に歩を向けた。
「こんにちわでありんす~。何事でありんすか?」
「あら、リネちゃん。こんにちわ。ペインの人が来てるみたいでねぇ」
「え? 先日にも来てたでありんすよね?」
「あー、あの子は酒豪過ぎるのと、チームが特殊な事が合わさって王都でもないと祟り神だから近寄るな。的な意味合いが強いのよ。で、今回の子は━━」
人集りからマフラーを巻いた青髪の長髪の少女が出てきた。
囲まれる事が嫌たっだのかしかめっ面であった。それでも美人、だと言える顔立ちをしていた。
「様相とどこか不思議な雰囲気に加えて、物静かでね。結構人気高いみたいよ」
「見ての通りでありんすな。名前とかご存知で?」
「確か、"アルファ"とか言ったわね」
「アルファ……アルファ……あぁ! ドロチアートの人でありんすか」
そうそう。と、ロッタさんが相槌を打つと、その彼女がこちらに歩いて来ると。
「ねぇ。ギルド、行きたいんだけど」
と、尋ねられ2人は思わず顔を見合わせた。
「案内ならいいでありんすけど、そこの魚有無像に聞いても良かったのでは?」
「冷たいのは嫌いだから。貴方達はそうでもなさそうだし」
「うん……?? 良く分からないでありんすけど、まぁそういう事にしとくでありんす。ロッタさんはどうするでありんすか?」
「旦那またせてるから、一緒には行かないわ。その子、ギルドの受付嬢だから、街の事は安心して聞いていいわよ」
「分かった」
返事と共に会釈をすると、リネに目線を向ける。
「行こ」
「了解でありんす。んじゃ、ロッタさん夜に行くでありんす」
「はいはい。準備してまってるわ」
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