37話Nightmare/帰り道だ
翌朝。
戦闘した周辺はほぼ壊滅と言っても良い惨状であった。
アンナは謝っていたが、アクアバズーカによる被害と言うより烏やあの化物に荒らされた箇所がほとんどであったため謝る必要はほぼなかったと感じる。
化物から出てきた男性はミールと呼ばれる村の人で、魔法を扱えなければ帝国領にすら入った事のない人で事情を話そうとはしなかった。つまり、彼は七賢人ではなく何らかのルートで腕輪を入手した事となるが、詳しい事はよくわからい。
エミリアの方は逃げられた。と昨晩は事後報告だけを聞き、改めて詳しく事情を聞いた。
戦闘していたのはマリン、リコの面倒を見ていた女性だが魔法を扱っていたらしい。つまり、彼女が七賢人だと思われ腕輪を奪われていたと推測される。
気がついたのはまず、スリープシロップの匂いがした事。そして、唯一牛の被害を受けていた、2点だという。
牛の被害は話だけを聞くと不自然な点は何もないが、実際に見て回り被害が甚大にも関わらず左手の牛や豚の被害は"一切ない"にも関わらず右手に住んでいる彼女の牛だけが被害に合っているのは怪しいが半分言い掛かりじみている。しかし、スリープシロップの独特の甘い匂いが決めてになったという。
スリープシロップ。オポズゥッドと呼ばれる
独特の甘い匂いを発し、火に当てると匂いがより際立つためクッキーには混入されていなかった。
それと、リコの前で戦闘を始めたのはミスったとぼやいていた。
あの状況で俺達側の戦闘に参加され奇襲という形で誰かが特にアンナが落とされていた可能性があり、やむを得なかったとはいえもう少し配所するべきだった。と愚痴っていた。
結果として、念のために滞在した最後の1日はリコの姿を見る事はなかった。
更に翌日。町へと戻る準備をしていると。
「ん、エミリアさん。お客さんでありますよー」
呼ばれた彼女はコテージから荷物を持って出ると、リコの姿があった。
「あ、あー。一昨日はごめんね。昔の"癖"であぁいう場面の配所あまりないから」
そう言われ首を横に振ると、何かを握った手を差し出した。
エミリアはしゃがみ目線をあわせ口を開く。
「くれるの?」
「うん」
手を差し出すと、1つの半透明な石を渡された。
人差し指と親指で掴み、空にかざして覗き込むようにソレを見る。
「綺麗ね。いいの?」
「うん。嫌いには、なって……ないよ」
「……っは、別に嫌っても良かったのよ。ちびっ子。ありがとね。大切にする」
リコの頭を撫でてやる。
すると彼女は辛そうな笑顔を浮かべていた。
「準備終わったぞ~」
小さなカバンを持ってパタパタと飛んで行く。
「あ! 喋るぬいぐるみー!!」
「うお!? 遊ぶ暇はないからな!?」
「うん。ごわごわだもんね!」
「まじかよ!? もふもふじゃないのか……」
軽くショックを受けていると、嘘だよー。とすぐに言われ安堵し、ふざけた口調でこらー! と言いつつ笑って逃げる彼女を追っていった。
エミリアは立ち上がりつつ、追いかけ合う1人と1匹を眺め。
「あたしは、間違った事は、してない」
もらった石を強く握りしめていた。
準備が完了し、村を後にして馬車に乗って揺られあの戦闘中に表示された情報を再び開く。
◯[変異体]と進行度を示す[フェーズ]についてのご連絡です。[変異体]は心の汚れがフェーズ4以降にまで進み、体が変異した個体を指します。以下フェーズ事の説明です。なお進行までの期間はあくまで目安であり外的要因で早まったり、遅れたりする場合があるのでご留意下さい。
フェーズ1:[心の汚れ]が発生した直後の状態です。2週間ほどでフェーズ2に進行します。
フェーズ2:フェーズ1から進行した状態です。外見的にはさほど変わりませんが、身体能力が少しだけ上昇しています。心的にも変化が見られ少しその人らしくない行動を取るようになります。半年ほどでフェーズ3に進行します。
フェーズ3:フェーズ2から進行した状態です。目の下に酷いクマが現れるようになり、心的にかなり変容し凶暴化し始めます。理性は残っているので無理矢理押さえつける事は可能ですが、人によっては欲望に支配され暴走してしまう場合もあります。身体能力もかなり向上します。此処から進行には個人差があり1ヶ月から1年ほどでフェーズ4に進行します。
フェーズ4:フェーズ3から進行した状態です。目の下のクマの悪化に加え、感情が高ぶったり憑かれている本人の意思で変異し、[変異体]へと姿を変えます。この段階"まで"は理性が残っており、元の姿に戻り周囲の人々に嘘をつき
これによると、あの時の男性は恐らくフェーズ4。高確率であの太りに太った烏もフェーズ4。これまでの敵は高くともフェーズ3までだったと考えられる。
エミリアの読み通り身体能力も上がるため、戦力強化。という線もありえる。
すると馬車が緩やかに止まりカヤちゃんに何があったのか問いかけると。
「グリモアーバが見えまして、どうします?」
「狩る」「倒します!」「前回の検証だ!」
満場一致で、倒す事となった。タダ働きにはなるが、ほうっておく方のはそれ以上にまずい。
馬車をカヤちゃんに任せ彼女が見たという方向に進んでいく。
木々に紛れ見つけにくかったが、3体ほど視認することができた。
「で、どう倒す? 一番わかり易いアンナに倒させる方針?」
「うん、それで行こうと思ってる。俺とエミリアは分かれて逃げられないように抑える形で」
「了解。行くわよ、アンナ」
「はい」
「変身」「変身ですー!」
2人は魔法少女の姿になり、グリモアーバを囲むように3方向に散る。
『準備はいいかー?』
『何時でも』『準備完了でーす』
この時、俺は背後に迫る別の"何か"に気がついてはいなかった。
『よし作戦か━━』
『……うん? おーい』
『ユニーちゃーん?』
突然テレパシーが途切れ、音信不通となった彼に呼びかけるが返事は当然戻っては来ない。
『何かあったわね』
━━グリモアーバに倒された。って分けじゃなさそうだし、この感じだと一瞬で意識を持ってかれてるわね。
『では、さっさと倒しちゃってユニーちゃんの様子を見に行く方針に変える形でいいですかね?』
『異論はないわ。あたしが合図を送って2体は速攻で片付けるから、1体はお願い』
『了解です』
ついでだし"新魔法"の使用具合でもみようかしらね。
正面に居る1体に狙いを定め、静かに近づきながら片手剣を生成し右手で柄を握る。
十分に距離を詰めると合図を送りつつ飛び出し剣を振り抜いた。一刀両断とは行かず、その場に倒れるグリモアーバに対し腕を振り上げながら逆手に持ち帰ると振り下ろし突き刺した。
「次、ランスクリフト」
アンナが相手をしていないもう1体に目線を送り、剣から手を話ランスを生成しながら地面に手をつけた。
「ガード」
逃げ道を塞ぐように壁を生成しぶつかった対象は動きが鈍り、地面から手を離し狙いを定めながら指をパチンッと1回弾く。
「ダッシュ」
次の瞬間、あたしの体は急加速し一瞬でグリモアーバの前に出た。突き出されたランスが目標を貫き、壁に突き刺さると幾つかの亀裂が入り勢い余って体勢が崩れる。
「とっと、思ったよりきっついわねこれ」
微かに動いているのを確認し、ナイフを作り出すと突き刺した。
『此方は片付いた。そっちは?』
『私も終わりましたー』
『了解。じゃぁ合流して向かいましょ』
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