20話Doctor/午後の部だ
昼食を取り終わり、午後の護衛任務を開始した。
最初のうちは午前と変わりなく採集を行っていっていた。
「結構貯まってきたわね」
カバンの中身を見ながらアニエスさんは呟いた。
「持ちましょうか~?」
斜面を滑り降りながらアンナが問いかけるが、拒否される。
「護衛の人に荷物持たせて、有事の際はどうするのって話でしょ? ユニーさんも流石にこれは持てないだろうし」
ピクニックバスケットを持って飛ぶ俺に目線を向けてくる。
「ですね。流石に荷重オーバーです」
「よっと。では、森から出たらもちますー」
森から出てしまえば後は
そのことを汲んでか、アニエスさんも断ろうとはしなかった。
「ありがとね。じゃ、次が最後だしさっさと終わらせて帰りましょうか」
次が最後か!
と喜ぶもの束の間、かなり面倒な物が最後に残っていた。
『マンドレイクの採取ぅ!?』
聞いた話を伝えるとエミリアの驚いた声が頭に響く。
マンドレイク。この世界では
だが、悲鳴はただうるさく稀に鼓膜が破れる程度であり、絶命させたりする効果は一切ない。
栄養価が高く更には薬にもなり、万病の効くと高い評価を受けている。
元の世界で言う所の抗生物質みたいな扱いなのだろう。
だが、問題もあり人の手での栽培が成功しておらず生産が現状不可能であり、絶対数が少ない。
『探すの手間取りそうだよなぁ』
テレパシーを送りつつ、居場所を知っているらしいアニエスさんの後をパタパタと飛んで行く。
『普通なら手間取るなんてもんじゃないわよ……』
『数ヶ月探して見つからない。なんて話を聞くくらいですからねー』
『えっ、まじか』
どうやら認識が甘かったようである。
……今日家に帰れるのか?
すると、1本のツタが見え少しばかり不自然だと感じる。それは木の枝に引っかかっているのだが、葉がついている様子もなく遠目から見れば1本のロープのように綺麗な状態であった。
「あぁ、そうそう。聞こうと思ってたんだけどさ。アンナちゃんいつ着替えたの?」
「え゛!?」
アンナのびっくりした声が聞こえてくる。
変身時、光に包まれるが日中は目立ちにくく、今回は気がつかれていなかったようだ。
テレパシーで助けを求めるSOSが発信され、どうするか考え始める。
正直に言うか誤魔化すか。正直に言うのがこの場は楽だが、全部を言うわけにもいかんし、あぁするか。
返答内容を伝え、彼女は深呼吸をすると答え始める。
「ま、魔法ですよ。魔法!」
少々焦っている感じが見受けられる返答のし方であった。
「あー、そう言えば使えるんだっけね。へぇ、そう言うのもあるのねぇ」
「そうなんですよー」
嘘ではない。そして、曖昧にしている事で面倒な説明をしなくていい。
これまでのように、そういうものとして扱ってもらえればそれでいいのだ。魔法って楽だな。
「じゃぁ、エミリアちゃんも使えるの? その服変える魔法」
「使えますよ。今も姿を変えて偵察してますし」
矛先が変わり、すかさず俺が返答し自然に会話の相手をすり替えた。
「可愛い服なの?」
「いやー、騎士みたいな感じで格好いいですよ」
「へぇ、見てみたいわね」
「じゃぁ後で見せるように言っときますね」
笑ってそう言うと、お願いねー。と頼まれた所で一旦会話が途切る。
少ししてテレパシーでアンナからお礼を言われた。
『この程度気にすんなー』
と返した所でアニエスさんが立ち止まった。
「おっと、どうかしました?」
「この辺なんだけどね。ちょぉっと警戒されてるかな」
そう言って彼女はポケットから何かが入った小袋を取り出す。
『何やるんですかね?』
『さー?』
テレパシーで会話していると、彼女は何らかの土のような物を周囲に撒いた。
すると、地面が盛り上がり何かの2枚の葉が顔をだし茎が伸びていく。10センチほど伸びると今度は大根のような物が顔を出した。
「え、えっ!?」
その光景を見たアンナが驚き、声を出していた。
「どうかしたか?」
「いえ、あれマンドレイクです」
「は?」
顔がついた大根のような植物は自力で地面から這い上がると小さな腕を折り、しゃがんだアニエスさんに手渡していた。
「はああああああ!?」
驚き叫んでいた俺の声に驚き、マンドレイクが叫び土の中に潜っていく。
「おっ、あはは、まぁ言ってないから普通は驚くって話よね」
立ち上がりながら彼女はそう呟く。
なんでも、子供の時から年に数度通っているそうで気がついたら懐かれていたそうだ。地面にばら撒いたのは肥料で、お礼として腕を貰っているとの事。懐かれる事は非常に稀で運が良かったと話してくれた。
あー、だから時間がかかるはずのマンドレイクの採取でも"さっさと終わらせよう"って気軽に言えたわけか。
よって採集はコレにて終了となり、俺達は帰路に就いていた。
先ほどの出来事をエミリアにも伝えると、えー、ずるい、あたしも見たかった。と返って来る。
たまに弄られている事を思い出し、俺は意地悪そうな口調でテレパシーを送ってやる。
『どうやら貧乏くじはエミリア、お前の方だったみたいだな』
『くぅー、あんた覚えときなさいよ』
『なんで俺なんだよ!?』
なんとなく。と言われ一方的にテレパシーを切ったのか何を言っても無反応であった。
コレは拗ねていると見て良いのだろうか。
だが、すぐに反応があった。悪い知らせを告げに。
『2人共、動物が居ない理由が分かった』
『何だ?』『はいはい?』
俺達は同時に反応してしまい、思わず笑っていた。
『腹ペコちゃんのウッドスパイダー。しかも複数個体見える。あたしはもう向こうからも補足されてるだろうから戦うけど、そっちはそのまま急いで戻ってちょうだい』
ウッドスパイダー。これも
名前の通り蜘蛛のような形をし、糸ではなくツルと伸ばす事が出来る。
先ほど俺がみたロープのようなツルも恐らくウッドスパイダーのものだろう。
とはいえ、捕食行動は1ヶ月に1回あるかないか程度でしかなく、しかも複数個体となると非常に運が悪いと言える。
『エミリアの方は大丈夫か?』
『なんとかする。それより、抜けてそっちに行く可能性があるから、ソッチのほうが怖いからお願い』
『分かった。危ないならすぐ撤退しろよ! アンナ、聞いてたな!?』
『はい!』
アニエスさんに簡単に状況を伝え、駆け足で森の外に向かっていった。
◇
「さてっと」
襲い掛かってくるツルを右手に持つ剣で切り刻み、木を盾にしながらあたしは森の中を駆け巡っていく。
視認出来たのは5体。この数、これまでなら逃げるしか道はなかったけど、今はなんとか相手に出来るかな。
「ナイフクリフト」
左手にナイフを生成すると、背後を取っていた個体に向け投擲する。
瞬時に飛び退けソレは木に突き刺さった。
とはいえ、普段なら1体を討伐するのに討伐隊が組まれたりするような奴を複数体相手は少々骨が折れるわね。
危なそうなら撤退しろ。とは言われたけど、捕食相手を探しているスパイダーウッドと対峙している時点で相当危険っていうね。
突然1本のツルが死角からあたしの体を絡め取り、腕の身動きが非常に取りづらくなる。
「おぉっと、ナイフクリフト」
地面に着地すると、ナイフを生成し直し、伸びるツルに向け投擲しソレを切断する。すると、お次は正面から消化液を口から漏らしつつ襲いかかってきた。
「ガード」
足元から土の壁を生成し、せり上がりるそれを足場とし蹴る事で高く跳び上がった。
襲いかかってきた個体は土の壁に音をたてて激突し、その場に倒れこむ。
びっくりはしたけど。
剣を持ち変えツルを切断すると横たわるスパイダーウッド目掛けて投げ飛ばした。
ソレは立ち上がろうと体重をかけていた足に命中し、切り離すと体勢が崩れその場に再び倒れる。
「もういっちょ、ランスクリフト!」
右手にランスが生成されていき、生成完了と共に投擲し今度は胴体に命中した。
消化液が漏れ、奇声に似た鳴き声を荒げると動かなくなる。
「よし、思ったよりやれるわね」
喜ぶのも束の間、まだ残っている個体からツルは伸ばされ襲い掛かってくる。
「アタックッ! ソードクリフト!」
指をパチンと弾くと衝撃波をが発生しとツルを切り裂いていく。そして、片手剣を再生成した。
木の枝の上に着地すると、ある違和感に気がついた。
「あー、もう」
木の枝から飛び退け、背後から迫っていた個体の攻撃を避けるとテレパシーを2人に送る。
『ごめん、1体抜けられたかも』
◇
『了解だ』
エミリアからの報告に応答すると、周囲への警戒を強める。
すると、少しして木が揺れている事に気がつく。
「アンナ、後方右斜め前」
「了解です」
横目で俺が指示した箇所を見ながら、ワンドを向けた。
「アクアバズーカ!」
とりあえず、牽制の意味合いも込めぶっ放してもらった。
コレで倒せれば御の字。ビビって引いてくれても御の字。という具合だ。
すぐに水の放出を辞め様子を伺うが、倒せた様子も引いてくれる様子も見えずドンドン近づいて来ていた。
「流石に、これでどうにかなるって考えは甘かったか」
変体を使用すれば簡単に対処出来るのだろうが、こいつらが強いという事は本で情報は得ている。
そして、複数体の相手をしているエミリアの救援があるかもしれないと考えると、この段階で使う分けにはいかない。
「どうします?」
「とりあえず、プランBだ」
プランB。臨機応変に対応しつつ逃げる!
何かの発射台で撃ち放たれたかの如く、ツルが物凄いスピードで襲いかかり急いで俺はプロテクトで防ぐと重低音が鳴り響き、少しばかり衝撃があり驚く。ツルは巻き取られているのか、直ぐ様スパイダーウッドが射る方面に戻っていく。
「うぉ!? 本の情報以上じゃないかこれ!?」
間髪入れずにアンナが再びアクアバズーカを放つが、飛び退けられ当たらなかった。
そして、俺達に追いつき周囲を飛び跳ね移動し続け、此方の様子を伺い始める。
こいつも空中に放れば……いや、ツタで移動させられるからダメか。うん? ツタ……ロープ。
初日でアンナが見せた馬鹿力を思い出し、釣りという単語が頭に浮かんだ。
すると、動きが鈍くなっていた俺に狙いを定め再びツタを飛ばしてきた。
「プロテクト! アンナァ!!! ツタを!!」
先ほどと同じように攻撃を防ぐ。
「掴んで引っ張れ!!!」
彼女は方向転換し、ツタに向かって走り始める。
「間に合ッ──」
ツタは巻き取られ戻り始め、アンナは手を伸ばしツタに向かって飛び込んだ。
「──え!!!!」
ギリギリ掴むと、一回転し木にぶつかる。
「いったい!」
体勢を立て直し、片手でツタを引っ張る。すると、ピンッと張った。
想像以上に力も強いようだが、それでもやりようはある。
「アンナ!」
「大丈夫です! 此処からどうすれば!?」
「アクアバズーカを放って!」
指示を出した直後に、彼女は言われた通り魔法を発動する。
俺の読みが正しければ奴は、避けるために。
すると、考え通りの行動をしたのかピンッと張っていたツタが緩んだ。
「止めて、引っ張って叩き落とせェい!!」
魔法を止め唸り声と共に、振り返りながらツタを思いっ切り引っ張った。
アンナと力比べをしていたスパイダーウッドは、宙を舞い弧を描きながら彼女の少し前に砂飛沫を巻き上げながら叩き落とされる。
「ユニ」
すかさずワンドを振り上げ、雷雲を作り出し。
「サンダー!!」
振り下ろし、轟音と共に落雷を叩き落とした。直撃を食らったウッドスパイダーは動かなくなるが燃え始め、急いで消化をする。
「勝てましたー……」
力なく呟く。
「おい、ゆっくりしてる暇はないから移動するぞ」
「え、あ、はーい!」
それから、特に襲撃もなく無事に森を抜ける事が出来た。
「はぁ、はぁ……。やっと抜けた」
俺はペタリと地面に座りそう呟く。
そういやまだエミリアが森の中だ!
彼女に向けテレパシーを送ると、うるさい。とすぐに返って来る。
『良かった。大丈夫そうだな』
合流して戻ってギルドに戻れば任務は無事完了。
俺は安堵の溜息をつきそのばに寝そべった。
今日は疲れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます